広報オクトパスモデル
その7「危機管理力」
2014/10/20
■ 転ばぬ先の杖
企業にとって、事故や事件、いわゆる不祥事は起こらないこと、起こさないことが何よりであり、普段からの予防が欠かせない。しかしながら、どんなに対策を講じていても「たった一人の悪意」や「うっかりミス」といった蟻の一穴から、ある日突然、予告や予兆もなしにクライシス局面の幕が開く。不祥事にはさまざまなレベルがあるが、何らかの被害が出ていたり、違法性があったり、また注意喚起をせねばならない場合には企業の「説明責任」が生じ、メディアを通じた「情報開示」が必要となる。
ここでのコミュニケーションの巧拙が命運を分けるといっても過言ではない。メディア対応がまずければ不要な批判を喚起し、業績や株価、そして信用やレピュテーション(評判)などに多大な悪影響を及ぼす。その意味で「危機管理力」は、広報領域において“不祥事”を「未然に防ぐ力」と、「発生した際の対応力」とを網羅した、いわば組織の基礎体力である。普段はさほど使わない筋肉ではあるが、いざという時に備えて日常的にしっかり鍛えておかねばならない。
■ “絵に描いた餅”にしない
日本の上場企業479社を対象に企業広報戦略研究所が行った「第1回企業の広報活動に関する調査」では「未然に防ぐ力」を問う項目として、「業界や競合他社のリスク事案の把握・研究」や「危機管理委員会の定期開催」「経営リスク予測レポートの作成」を挙げているが、中でも「従業員等への啓発活動」の実施は重要である(図表1参照)。どんなにルールや体制を整備してもそれを運用する強い「意識」が伴わないと、ただの“絵に描いた餅”と化してしまう。
とある企業では、社長がしばしば「100-1=0」というキーフレーズを使って社内の緊張感を喚起したという。100人が頑張って仕事をしていても、たった1人が気を抜いて失敗すれば、皆で築いた信用や信頼が水の泡になってしまうという意味を込めている。
一方「発生した際の対応力」を問う項目では、危機発生の際に素早くかつ合理的に対応や情報開示準備を進められるように、また被害を少しでも軽減するために、「連絡網の整備」や「危機管理マニュアルの作成」「BCP(事業継続計画)への参画」が欠かせない。特に「危機管理マニュアル」は、メディア環境が刻々と変化する中、実戦で本当に役に立つものなのか、抜けはないか、などを定期的にチェックする必要がある。そのためには、模擬記者会見を含むシミュレーショントレーニングを防災訓練などと同様に定期的に遂行することが効果的で、そのポイントは全社を巻き込むことにある。「広報対応は広報スタッフに任せておけばいい」との考えは、 説明責任に対する認識の欠如や対応の遅れなど組織の体質が問われる“不要な批判”を招くことになる。
トレーニングの実施に当たっては、トップや各事業領域の担当役員はもちろん、情報開示にあたって「何を、どこまで、どのように」説明するかを決定する緊急対策本部のメンバーの参加が欠かせない。また製造拠点を持つ企業であれば、万一の事故の際に矢面に立つ事業所長や工場長が、メディアや取引先、また周辺住民などの対応を行う総務セクションの方々と一緒になって危機対応を体感いただくことが望ましい。
「あそこの製品(サービス)は間違いない」というレピュテーションを確固としたものにしていくためには、「あそこは万一事故を起こしてもきちんと対応してくれる」といった評判を醸成する「危機管理力」が必須条件となる。危機に対して過敏になる必要はないが、常に敏感になっている組織づくりのために、広報セクションの役割は大きい。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。