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顧客エンゲージメントを深める 「スイートスポット」戦略

ブランド再構築に欠かせない「スイートスポット」論 №2

  • David A. Aaker
  • 緒方 玲子

2014/10/22

顧客エンゲージメントを深める

「スイートスポット」戦略

直視すべき「関心のある人以外は関心がない」というまぎれもない現実

緒方:アーカー教授の最新著作『ブランド論(Aaker on Branding )』について伺います。今回の著作では、これまでさまざまな記事や本で唱えてきたことが包括的にまとめられていますが、一方で、新しい概念や考察が導入されているのが印象的でした。例えば、これまで使ってきた「ブランドアイデンティティ」を、今作では「ブランドビジョン」という言葉でとらえ直していらっしゃいますね。

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アーカー:「ブランドアイデンティティ」は、これまで出版した『ブランド優位の戦略(Building Strong Brands)』と『ブランド・リーダーシップ(Brand Leadership)』で使ってきた言葉で、2冊ともかなりの部数が出ている本なので、変更するのには悩みました。しかし、ブランドアイデンティティと言うと、人によっては、ブランドのロゴやグラフィックデザインのことだと受け取る人もいて、それは本意ではありませんでした。それと、「ブランドビジョン」の方が、前向きで何かを志すイメージがより伝わると思い、あえて変更を決断しました。
『ブランド論』は、緒方さんがおっしゃるように、従来の著作で述べてきたブランディングの概要を網羅的にまとめたものですが、これまで言及してこなかった新しい考えにも言及しています。その一つが、先ほどお話しした「顧客のスイートスポット」です。

緒方:消費者との関係構築に重要な役割を果たす「顧客のスイートスポット」ですが、あらためて解説していただけないでしょうか。

アーカー:まず基本的に持つべき認識としては、一般的には、製品に非常に興味を持っている人はごく一部で、それ以外の人にとって、製品についてほとんど関心が払われることはないという現実です。だから、製品の特長や、なぜその製品を買うべきかを広く告知してもなかなか購買動機につながらない。購買動機も起きなければ、誰かにその情報を伝えたいという気にもなりません。

そこで企業側が考えるべきことは、生活者が日常的に何に興味を持っているかという点です。母親ならベビーケアが気になるし、若い女性なら美容に関心を持っているはずです。その関心事を捉え、自分も話題として他人に何かを語りたいと思うようなやり方で関わっていけば、購買動機につながっていく可能性があります。それが「スイートスポット」です。

緒方:顧客エンゲージメントを深めることができるというわけですね。

アーカー:その通りです。私が、特にイメージしているのは、ソーシャルメディアにおける関わりと、デジタル分野での活動ですが、こうした姿勢は、他のさまざまな側面で有効だと思います。考えてみてください。ベビーケアや美容にまつわる話題を提供することで、顧客との関係を構築し、可視性を高め、加えて、人々に好かれ、尊敬される可能性が高まるのです。でも、おむつや化粧品の製品情報をストレートに伝えるだけではそういう効果は生まれません。

BtoBでもBtoCでも、必ずある「顧客のスイートスポット」

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緒方:「スイートスポットを狙う」という考え方は、生活者を対象とするBtoC企業の方が取り入れやすいと思うのですが、BtoB系のブランドの場合はどうでしょう。

アーカー:むしろBtoBの方が、いっそう効果を発揮します。アメリカに、レストランやホテル、病院施設などの厨房機器を製造するホバートという会社がありますが、ホバートは、ある時から、製品の紹介などをあまりしなくなりました。代わりに、顧客の抱えている悩みや問題などに関する話題ばかりを取り上げるようになったのです。例えば、優れた人材をどう探し、採用した後はどうつなぎ留め教育していくのか、あるいは食品を安全に保管する方法、魅力的なメニューの考案方法など、顧客が本当に関心を寄せている問題をさまざまに取り上げ、そういった話題を掲載した雑誌も発刊しました。同じ情報をオンラインでも提供しています。また、見本市に出展するときに悩み相談ブースを設けたり、広告では食中毒を防ぐ手洗い方法といった話題を掲載しています。このように、顧客への関心事を集約する方向で一大転換を図ったのです。

緒方:デジタル技術がその転換を可能にした、という側面はあるのでしょうか。

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アーカー:実はそうではないのです。ホバートが大転換を図ったのは1990年代。デジタル時代が到来する前です。当時から雑誌を発行したり、調理業界の会議で講演を行ったりしていました。もちろん、インターネットが登場すると、いち早く対応して、それまで作ってきたコンテンツをネットでも提供するようになりました。

それから、これはBtoCのケースですが、日本企業での好例としては、タニタがありますね。ご承知のように、タニタは自社の製品が正確であるとか軽量だといった話ではなく、体重の減量に焦点を当てたわけです。効果的な減量の仕方についてあらゆる情報を持ち、それを提供することで、減量という生活者の関心事においてパートナーとなりました。加えて、今度は食べ物へと領域を広げ、体重をコントロールする上で効果的な食事の仕方を追求するようになり、ついにはレストランを開いて、料理本まで出版しました。これも製品の特長ではなく、生活者のスイートスポットに注目した良い例です。