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NRF2024 ~リテール・コマース領域の最新&最前線レポートNo.3

米国の最新リテール事情 「店舗への原点回帰」が成長のキーワードに

2024/03/13

今年で113年の歴史を誇る全米小売業協会(NRF)主催の世界最大の流通小売分野における大型コンベンション「NRF2024: Retail’s Big Show」。2024年のキーワードは、「Begin with Brands」「Start with Stores」「Play with People」の3つ。これまでの流通小売業やマーケティングが、どう変わるのか? 現地に赴いたからこそわかる最新トピックスや潮流を、電通で流通小売業のBX・DX支援を行う木村 仁昭氏がレポート形式でお送りします。

※この記事はAdverTimes.(アドタイ)の記事をもとに作成しています。
 
<目次>
コロナが明けた米国。実店舗とともにある“暮らし”が見えた

Start with Stores~店舗への原点回帰

創業時の理念を守り、逆風でも業績を伸ばす“ライフスタイルリテーラー”

3つのステークホルダーと、3つのチェーンの間で小売に求められること


コロナが明けた米国。実店舗とともにある“暮らし”が見えた

前回のレポートにも書かせていただきましたが、今年の1月14日~16日に行われた NRF2024では、ポストコロナ時代の到来を告げるかのような、従来とは異なる3つの大きなパラダイムシフトが見られました。前回言及したのは、LEVI’S CEO ミシェル・ガス氏によるキーノート講演から見えた「Begin with Brands」。いわゆるメーカー、ブランドの復権です。

今回お話しする2つ目のキーワードは「店舗への原点回帰」。完全にコロナが明けたニューヨークでは、また、リアル店舗とともにある“暮らし”を想像することができました。

Start with Stores~店舗への原点回帰

NRFの定番である“MVPリテーラー表彰”にあたる、ビジョナリーアワード2024。今年も2日目のキーノートセッションにおいて発表があり、スポーツ・アスレチック用品のナショナルチェーン老舗であるDick’s Sporting Goodsの戴冠となりました。

同社のエド・スタックCEOは、リテーラーとしての信念(emphasizing the importance of following your own heart)に基づいて行動することの大切さを説いていました。その中でも特に強調されていたのは、顧客視点に立った体験型の店舗設計の重要性。株主価値を追求する投資家や、コロナ禍でオフラインからオンラインに大きく振れたリテール環境では避けられてきた、リアル店舗への大規模な投資です。

以下、同チェーンにおける2つの店舗写真を比べてみてください。下記の上の写真(群)は通常のDick’s Sporting Goodsのお店であり、規模の大きさや圧倒的な品ぞろえ、カーブサイドピックアップ(オンライン上で注文した商品を、店舗の駐車場で受け取ることができるサービス)の標準装備といったところはお分かりいただけるかと思います。

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Dick’s Sporting Goods @ Valley Stream。
 
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Dick’s House of Sport @ Latham (会場内ビデオよりキャプチャ)。

対して、上記の下の写真(群)は、新しい店舗フォーマットとなる大規模体験型のDick’s House of Sportです(これまでに12店舗を構えていますが、2024年までに新規追加で10店舗をオープンする予定)。こちらの店舗は、店内のバッティングセンター、ゴルフシミュレーター、クライミングウォールといった大規模体験型ゾーンに設備投資を行い、集客装置化している点がこれまでとは大きく異なります。

従来、これらの大規模体験型ゾーンへの設備投資は、一見ROIに見合わないものだと判断されていました。しかし、今回“MVPリテーラー”にDick’s Sporting Goodsが選ばれたことから考察するに、リテールにおけるブランド価値向上のためには、特にスポーツ用品を取り扱う以上、それらの体感・体験価値を伴うブランドビルディングが必須になる時代が到来すると言えるのではないでしょうか。

「顧客を知り」「彼らとコミュニケーションを取り」「その彼らからの支持を得る」フィールドとなるのは、店舗とそこにいる店員だということを再認識するキーノートでした。インフレによって消費者支出の鈍化影響を受ける米国流通小売企業が多い中、設備投資から人的資本経営までを“ストアフォーカス”したユニークな事例と言っても過言ではありません。

創業時の理念を守り、逆風でも業績を伸ばす“ライフスタイルリテーラー”

加えて“Start with the Store”と総括したのは、3日目のキーノートセッションに登壇したTractor Supply Companyのハル・ロートンCEO。同社は、コロナ前からブランドスローガン「Life Out Here」を掲げています。このコンセプトは今年も依然健在ですが、パンデミックを経て大きく変わったのは、同社のこのパーパスの解釈です。

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2020年当時のHP、「Life Out Here」を強く打ち出している。

2021年のコロナ禍で彼が登壇した際に強調したのは、「レジリエンシー」です。同社は農耕機具のカタログ販売をテネシーの片田舎でスタートしてから、時代に準じて変遷する顧客ニーズの変化をたゆまず丁寧に捉え、事業領域をピボットさせてきました。

Tractor Supply Companyの変遷
① 農耕機具のカタログ販売を開始

② 「家畜用飼料販売」を事業にプラス

③ 「ペット用品の販売」を事業にプラス

④ 「アウトドアグッズの販売」(現在)

当時は「さあ、外で暮らそう」というように、アウトドアライフを推奨するような訴求だったのですが、2024年現在のHPトップをご覧ください。

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現在のTractor Supply CompanyのHP、地域生活に密着した“ライフスタイルリテーラー”としての訴求。

ここで訴求されているのは、同じ「Life Out Here」というブランドスローガンでも、「そこでの暮らし」へと文脈・意味合いを変えた、地域密着型ライフスタイルリテーラーとしての企業姿勢です。

彼は他にも、営業時間を過ぎても1人の顧客、1頭の家畜のために対応した店舗スタッフの事例や、従業員間での顧客対応円滑化のために、生成AIを活用したデバイス&コミュニケーションツール「Hey GURA」※といった最新ツールに触れていました。

※GURA : Greet the customer, Uncover their needs, Recommend products, Ask for the saleの頭文字を取り、当該社の顧客アプローチ姿勢を端的に指し示す造語。
 

このように、店舗スタッフとのコミュニケーションに見られる「ヒューマンタッチ」と、AIツールなどの「テックタッチ」をそれぞれ組み合わせることで、逆風の経済環境下で着実に業績を伸ばしながらも、創業以来の企業理念を堅持しているとのことでした。

3つのステークホルダーと、3つのチェーンの間で小売に求められること

以下は、著者がよく用いる模式図です。

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ここに書かれている顧客、流通、メーカー(ブランド)という3つのステークホルダーと、デマンドチェーン、サプライチェーン、バリューチェーンという3つのチェーンは、マスマーケティングが通用した、ないしはパンデミック前の固定的で直線的なモデルに過ぎません。

デマンドチェーンの要請は時代に応じて変化し、サプライチェーンはそれに対応する必要があります。その中間にある流通小売業に求められることは、大きな社会構造変換やパラダイムシフトが起こるタイミングで、時代に応じたコンテクストを正確に捉えることと、そのようなブランドとして認知されるためのコミュニケーションを展開することではないでしょうか?

前述した2社はそれを実践しており、それこそが店舗起点でのレジリエントなリテールDXであると私は思うのです。その意味で、コロナ明けの時代の変わり目においては、まさにお店からポストコロナの新しいお買い物様式が始まっていくのでしょう。

では、メーカー(+卸)だけが、そこに対応できるプレーヤーなのでしょうか?

旧来的なバリューチェーンの枠組みで考えるとそうかもしれませんが、個の力でブランドビルディングが十分に成立しうる時代が既に到来しています。そこにパーパスと共感できる仲間さえいれば。

次回はそのココロをひもといていきたいと思います。

https://twitter.com/dentsuho