「そのひと言」の見つけ方No.2
切り口と表現のかけ算をする。
2014/10/23
コピーライターになりたてのころの話です。
ある企業の新聞広告をつくるという仕事依頼がありました。「新しいサービスが始まりました」というような内容です。僕は張り切って、A4用紙に200枚ほどコピーを書き、意気揚々とクリエーティブ・ディレクターのところに持参しました。
見終わったクリエーティブ・ディレクターは顔を上げてこう言いました。
「渡邉。これはいっぱいあるけど、切り口は3つくらいしかない」
洗礼と言ってもいい、忘れられない体験です。
「思いついたことをぜんぶ書き出す」というのは、最初のステップとしては大事です。しかし次に大事なのは、鋭い切り口を思いついているかどうかです。
「このサービスは便利です」「いままでなかったサービスです」「役に立つと思いませんか?」など、ひとつの視点で100個書いても200個書いても意味はない。たとえば、家族にそのサービスを使ってみたいと思わせるにはどう言うか、友だちの場合はどうか、会社の同僚ならどうか、そういうさまざまな切り口で考えるべきなのです。
頭のなかにりんごをひとつ思い浮かべてください。そのりんごをナイフでスパッと切ってみる。縦に切るか、横に切るかでその切り口の見え方はまったく異なってきます。切り口とは、ものごとのどの面を人に見せると魅力的に見えるか? ということです。縦でも横でもなく、斜めに切ってみるとまた別の切り口が生まれます。どう切ると一番おいしそうに見えるでしょう?
これは、コピーライティングにも当てはまります。ひとつのものごとを、いろいろな角度からじろじろ眺めてみる。どういう角度から切るのがいいか、考えてみる。一番チャーミングに見える角度を探し当てる。これらは、訓練すれば誰でもできるようになります。
たとえば英会話スクールのコピー。外国語を学ぶための動機づけとなる切り口はさまざまです。海外留学をするため、仕事のキャリアアップのため、友だちをつくるため……。学ぶための動機づけとして、一番グッとくる切り口はどれか? それを書き出していくのです。
最終的には世の中に出るコピーはたったひとつです。つまり、一番いい切り口がひとつあるだけ。でも、その切り口がいいかどうかを判断するのに、切り口はあればあるだけよいのです。
まず一定量を書き出したら、いったんそれを切り口別に分類してみましょう。切り口は最低でも10個を目標に。
次にその10個に対して、表現違いで3個コピーを書いてみましょう。足りなければ書き足します。するとあら不思議、これでコピーが30個も完成しました!
3つの切り口でひとつにつき100個書いて300個のコピーを提出するより、10個の切り口でひとつにつき3個書いて30個提出する。
それでアイデアの幅が広がりますし、むしろそのほうが確実に伝わるのです。
ひとつの切り口につき、何個も表現が見つかるのだろうか? と疑問に思う方もいるでしょう。心配いりません。表現の見つけ方にもコツがあります。
たとえば、英語ができると得をするタイミング、という切り口で書くとします。
「英語ができるとトクするのは、中学より高校より大学より、社会人のときです。」と言えるかもしれない。あるいは経済的な損失で表すと「円高のチャンスを、私はうまく利用できていないと思う。」という表現が思い浮かぶ。もうひとつ、英会話での失敗をオーバーに表現すると、「YESと言い続けてたら、警察がきた。」が出てくる。
このように、比較したり、何かに喩えたり、ものごとを誇張してみるだけでも、表現がずいぶんたくさん見つかるものです。切り口と表現のかけ算で、言葉の幅は飛躍的に広がります。たくさん書けないと悩んでいる方は、ぜひ試してみてください。
絵/沼澤祐治(電通 第5CRプランニング局) |