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<考察>企業のクライシスコミュニケーションNo.3

危機収束の鍵を握る初動、そして平常時からの取り組み

2014/10/31

さぁ、どうする?企業のクライシスコミュニケーション_CRISIS COMMUNICATION

個人情報の流出、コンプライアンス違反、製品事故…。事業活動の中で生じ得るクライシスは、近年ますます多様化、複雑化してきている。加えて、ソーシャルメディアの普及が、クライシス発生の可能性と風評拡散のスピードを一気に速めている。企業は、足元に迫る「危機」をどう未然に防ぎ、万が一に備えどう取り組めばいいのか。そして、いざ問題が生じたときに、社会や報道陣に対して、どう説明責任を果たすべきか。3人の専門家に、近年の社会情勢を踏まえた「クライシスコミュニケーション」の在り方について聞いた。

実務編_危機収束の鍵を握る初動、そして平常時からの取り組み_電通パブリックリレーションズ 大森朝日氏

リスクを想定した使えるマニュアル、トレーニングは必須

14年間の記者経験を経て、電通パブリックリレーションズ入社後は一貫してクライシスコミュニケーションに取り組んでいるのが大森朝日氏だ。数多くの企業でメディアトレーニングの実績がある大森氏は、平常時の取り組みこそが重要だと強調する。

「リスクの洗い出し、危機管理体制の構築を行った上で、リスクのシナリオを想定した危機管理マニュアルを作る。そして、模擬の緊急時記者会見などメディア対応のトレーニングも実施する。そのプロセスの中で必ず課題が見えてきます。それを踏まえて、もう一度体制やマニュアルの見直しをする。この積み重ねが、緊急時の初動対応に生きるのです」

平常時、緊急時、収束時の三つの局面では、取り組むべき課題や具体的業務も異なるが(下表参照)、クライシスを増大させるか収束に向かわせるかのターニングポイントは初動対応。その鍵を握るのが平常時からの取り組みというわけだ。

例えば、緊急時の初動対応の一つに、記者会見の準備がある。会場だけ設営すればいいというわけではなく、起きた事態に関するニュースリリースなどの報道用資料も用意する必要がある。1時間程度で資料を作成しなくてはいけない場合もある、と大森氏は言う。

「平常時から幾つか起こり得るリスクを想定して、ある程度ひな型などを準備しておかないと、とてもそんな短時間で全てを用意できるものではありません。情報開示などが後手に回ると、記者は意図的な“隠蔽(いんぺい)”を疑います。『なぜ公表が遅れたのか』と追及がより厳しくなるものです」

これらの資料のひな型も含め、潜在リスク評価を踏まえた危機管理マニュアルの策定は必須になる。マニュアルを備えている企業も増えているが、中には、棚の奥に眠っていたり、細かすぎて理解しにくいものも多いと大森氏は指摘する。そこで「良い危機管理マニュアルの条件」として挙げてもらったのが下の5項目だ。

「危機管理マニュアルにも、広報担当者向け、リスク担当者向け、全社員用のコンプライアンスマニュアルなど幾つか種類がありますが、要は、誰が読んでも分かりやすいこと、活用度の高さが大前提です。報告ルート図や初動フロー図などできるだけ図も多く入れて、直感的にぱっと理解できるものでないといけません」

平常時の取り組みの中でも最重要課題ともいうべき危機管理マニュアルの整備。この出来次第で緊急時の初動対応の成否が決まってしまう。「初動でつまずいてしまうと、信頼回復に向けた労力と時間は、起こした事態よりもはるかに大きなものになってしまう」。かつて取材する側にいた大森氏ならではの重い言葉だ。

危機管理の局面ごとに求められる課題と業務

良い危機管理マニュアルの条件

自社の各規定を踏まえた内容であること
一般論を並べたマニュアルではなく、社の各規定を大前提に置き、その整合性の取れたマニュアルであること。
 
リスクの洗い出し、想定ができていること
自社に潜むリスクをくまなく洗い出し、それらについての頻度、影響度を想定。最悪のシナリオを想定してリスクマネジメント体制の整備につなげていく。
 
危機管理広報の重要4ポイントを分かりやすく網羅していること
重要4ポイントとは、①リスクの洗い出し②体制と役割③初動フロー④TO DO。報告ルート図などを掲載して直感的に理解できる構成にする。
 
必要資料のひな型が配備されていること
プレスリリースなどの必要資料について、特定のクライシスを想定した作成例を掲載することで、実際の危機対応において速やかに活用できるものにする。
 
活用度の高い構成と体裁であること
危機管理マニュアルの各項目について、押さえるべき重要ポイントを分かりやすく整理。また、危機の発生時にとっさの対応が求められた際に、記載内容のエッセンスが一目で理解できる構成であること。