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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

デジタルの旬No.8

人気ユーチューバーが語る、

テレビとも演劇とも違う

ネット動画の独自な世界

~劇団スカッシュ

2014/11/18

デジタルの旬

HIKAKIN、はじめしゃちょー、ジェットダイスケ…。そんな名前をご存じだろうか。ユーチューブで絶大な人気を誇る、いわゆる「ユーチューバー」の人たちだ。今や全世界でさまざまな人がユーチューブなどの動画サイトで多くの視聴者を獲得。影響力を持ち、注目を集めている。今回は、そんなインターネット動画の世界でユニークなドラマ動画を展開して評価も高い、劇団スカッシュの4人に話を聞いた。
(聞き手: 電通デジタル・ビジネス局計画推進部長 小野裕三)
 

劇団 スカッシュ
劇団 スカッシュ
ユーチューブでのドラマ動画で人気の4人組ユニット。
2011年「YouTube NextUp」「YouTube Video Awards Japan」を受賞。YouTube Space Tokyo オープニング企画の「Stalking Vampire~隙間男~」は累計再生700万回の大ヒット。作品「New use of kendama」はオランダ公共放送でも紹介された。
 

■ 抵抗を感じながら飛び込んだネット動画の世界

──以前、「(当初は)ついに俺たちもネットに手を出さなければならないのか……と暗澹(あんたん)たる気持ちになりました」と発言されていました。ユーチューブを始めるに当たって、抵抗があったのはなぜでしょう。

スカッシュ僕らは演劇人なので、アナログなんです。そもそもパソコンも持っていなくて、知識もありませんでした。そんな時に、ユーチューブに投稿している知人から勧められたので、やってみようと団員に言ったのですが、すごく気持ちが重くなっちゃって。

──その頃は「ユーチューブを演劇より下のものとして扱っていました」とのことですが、どんな感覚だったのでしょう。

スカッシュずっと演劇をやっていて、思いを込めて舞台をつくってきました。でも映像についてはそれほど知識がない中で、根詰めて本気でつくるっていう感覚がよく分からなかったんです。映画にはどうせ勝てないですし。

──映画には勝てないし、演劇でもない、中途半端な感じということですね。

スカッシュそうです。演劇ならプロと対等に戦える自信があったんですが、映像はただアイデアで勝負してとりあえず出していこうというくらいのモチベーションでした。ユーチューブをやり始めた頃は、話題性だけでいかに(ユーザーにアクセスさせるように)「釣る」かということだけに集中していました。どんな映像だと再生回数が増えるのか調べたりして。例えばその当時の動画のサムネイルは、動画の尺の真ん中にある場面が表示されたので、そのあたりに過激なシーンを入れたりもしました。実際に再生回数は一気に増えて、これしか道はないと勘違いをし始めたんです。再生回数が増えることで収入も得られましたし。

──それほど力を入れないでつくった動画の再生回数が多くなっていくと、ネットをもっと見下していく感じはありませんでしたか。

スカッシュ今もそのジレンマは抱えています。動画を見てもらうようにするのは、結局はテクニックの問題だったりするので、好きなことだけをやると伸びなかったりします。動画の再生回数が伸びたのにチャンネルの登録者数が伸びないこともありますが、それは単に「釣った」だけということです。登録者数増の方がわれわれにとってメリットが大きいので、今は基本的には登録者数を見ながらやっています。

── 一時期は「釣り」動画をたくさんやったので、「アンチの風潮」がネットでできていたということですが、どんな感じだったのでしょう。

スカッシュ一番怖かったのは、ニコニコ動画にアップした時のことです。BB弾を口の中にたくさん撃って、それを一気に吐くという過激な動画をアップしたんですが、その時に、吐いたBB弾は一体どうしたんだということで炎上して、その時やっていたBBSも、上から下まで全部悪口が書き込まれました。自分のチャンネルにも次々にメールが届いて。実はニコ動って、むしろ「炎上して盛り上げる」みたいな側面もあるんですけど、その時僕らはそのことも知らなかった。

──最初から皆さんのやりたいこととネット動画とのギャップがあったという感じがしますが、それは今でもやはりあるのでしょうか。

スカッシュずっとあります。見てほしい動画を見てもらうためにはどうすればいいのか、今も答えはないです。

■ 海外では文化として根付きつつあるネット動画

──震災後にネットの動きを見て、ユーチューブの良さを見直したそうですね。

スカッシュ団員にも被災者がいたので、その時初めて真面目に使おうと考えたんです。支援物資を募ろうと動画をつくりました。思いの外反響が良くて、今まで僕らの動画を見てくれていなかった人も、検索で見つけて送ってくれたりもしました。それまでは演劇の宣伝のためのなんだかよく分からないもので、批判されても褒められても芯に響かないという感じでしたが、こういうコミュニケーションもあるんだと気付かされ大きく考え方が変わりました。

──最初の頃に、例えばネットを使って新しい演劇ができるというような期待はなかったのでしょうか。

スカッシュなかったですね。僕らは演劇でナマを届けて、その空間を共有して一つの作品という考え方だったので、ネットには体温が通ってない感じがしてました。でも、震災での体験と、その時タイミングよくグーグルさんからももう少し真剣にやっていった方がいいとアドバイスをもらい、それから、ネットのこともちゃんと考えるようになりました。

──国内または海外で、ユーチューバーとして注目している人はいますか。

スカッシュ一番気になってるのはユーチューバーというフレーズがダサいってことですね(笑)。海外ではVFXを使う「RocketJump」や「CorridorDigital」をよく見ます。CGがすごくて、素人ではつくれないクオリティーでユーチューブ用にカスタマイズされています。日本では、ユーチューブの動画は面白いけど映画やテレビに比べてクオリティーが低いという認識があると思いますが、この方々は映画と対等のクオリティー。今の日本では劇団スカッシュがやらないといけないのでしょうが、頑張りきれていないという葛藤があります。

──確かに、日本の有名なユーチューバーの中でストーリー性があるものをつくっているのはスカッシュさんくらいで他は「最近こんなの買いました」みたいな商品紹介が多いですね。それに対して海外はストーリー系が多くてクオリティーも高いとなると、日本のネット動画は大丈夫かって気になりますね。

スカッシュそうなんですよ! 未来のことを考えると、テレビや映画のようにしっかりと築かれてきた文化と戦っていくために、ネットにもどうにかしてストーリーが文化として入っていかないとヤバいなと感じてます。商品紹介としてユーチューブが根付いてしまうのは良くないと思います。

日本でも、映画やドラマを撮りたい若手がたくさんいますが、その人たちは結局ユーチューブに来ないんです。この人のようになりたいという人がユーチューブの中に一人でも出てこないと。今の彼らにとってたぶんネット動画はダサいんです。素人に毛が生えたレベルのクオリティーのところで1位取っても仕方ないということでしょう。でも、ネット動画を始めてみれば分かると思うんですけど、馬鹿にしながら続けることはできなくて、どこかで何かにぶつかります。なので、馬鹿にしていてもいいから始めてほしいという思いはあります。

──これから日本のユーチューブでもストーリー性のあるものが増えてきそうでしょうか。

スカッシュたぶん、ネットでいろいろやってる人って、あまり対人関係がうまくない人が多いと思うんです。でも、ドラマをつくろうとすると何人か集めないといけないから、ドラマは難しいのかもしれません。だから、一人でつくれるアニメーションとかCGでは入ってくる余地はあると思います。日本はそれの方が強いと思います。

■ 伸びていくユーチューバーの条件とは

──Web2.0なんてことが言われた頃に、これからはネットを通じて新しい生き方が可能になり、好きなことをやって稼げるみたいな話もありました。そういう人もいますが、現時点ではごく少数です。やはり難しいものでしょうか。

スカッシュめちゃめちゃ難しいですね。作品づくりだけじゃなくて、例えば営業やプレゼン、アイデア出しなど全部自分たちでやらなければっていうプレッシャーがあります。みんなが役割分担して100%で稼働しないといけないんです。普通なら、音声やカメラ、アシスタントなどスタッフも分かれていますけど、僕らは手伝いが1、2人だけで、あとは全部団員の4人でやる。実際、企業タイアップ動画を撮りにいくと、5人くらいで撮影しているということに驚愕(きょうがく)されましたね。

──自分たちがやりたいことと、お金を稼げることが、合致したものはないんでしょうか。

スカッシュ手応えがあったのは、「Stalking Vampire~隙間男~」ですね。いつかは撮れるという気持ちはもともとあったんですが、それがうまくいった作品です。

──あの作品も含め、スカッシュさんの作品にはユーチューバーがたくさん登場しています。ユーチューバー同士の横のつながりってあるんですか。

スカッシュ最初にネットにドラマを出した時に、ジェットダイスケさんとラニーさんというユーチューブの大物が面白いって褒めてくれて、ちょっと自信が付きました。そのあたりから、ジェットダイスケさんやMEGWINさんと一緒に動画をやらせてもらうようになりました。そのMEGWINさんにユーチューバーになっていくなら、他のネット動画を見ないとダメと言われて、登録者数の少ない人も含めて皆さんの動画を見て勉強するようにもなりました。それで、面白いと思った人には声を掛けてます。

──実際のところ、ネット動画は全体として見ると質はどうなのでしょう。

スカッシュ明確に分かれます。面白いなって思う人は登録者数がどんどん伸びます。今この人乗ってるな、というのが分かります。瀬戸弘司さんというやはり演劇出身の方は、見ててすごく面白くて、一緒にやりましょうと声を掛けたんです。当時は僕らより登録者数が少なかったのですが、その後、ぐんぐん伸びてきました。一人だけで分かりやすく商品紹介をして笑いを生もうとする、今までにないタイプの丁寧な編集をしています。他にも、はじめしゃちょーというユーチューバーがいます。彼みたいにイケメンで若いというのは強いですね。僕らはどちらもないんですけど(笑)。

──最近「uuum(ウーム)」などユーチューバー専門のプロダクションができていますが、そのような動きはどう思いますか。

スカッシュすごくいいと思います。商品紹介の個人クリエーターたちはスケジュール管理などに限界が来ていたので、プロダクションが出てきたのは必然だと思います。

──世の中一般にネット動画の影響力は高まってきていると思うのですが、どうでしょう。

スカッシュ演劇だけをやってる頃は街で声を掛けられることはなかったのですが、今は、1カ月に1、2回は声を掛けられるので、こんなにすごいのかって思います。勘違いしちゃいますよね(笑)。僕らでもこんな感じなので、HIKAKINくんとかは私生活に影響が出てるんじゃないですかね。それと、例えば倫理観ができていない人でもネット動画では影響力が出てしまうことがありますから、ちゃんと見極めないといけない。人気がある人だから大丈夫って言い切れることはないです。

■ 映画ともテレビとも演劇とも違う、ユーチューブの文法

──ネット動画でつくるものと演劇でつくるものに違いはあるのでしょうか。

スカッシュつくり方は全然違いますね。演劇の場合は「場」が一つだけで変わらないですが、動画の場合はずっと動きをつけることができます。そもそも考え方を変えないといけないですね。動きのない会話劇でも、映像の場合は風景が変わった方が面白いじゃないですか。それと、ユーチューブと映画も全然違います。例えば、映画では「引き」の絵を長く使うことがありますが、ユーチューブでは意味ないんです。小さいスマートフォン(スマホ)で見て、さらにその中に小さい人がいるというのでは、雰囲気なんて伝わらない。被写体は絶対に大きめに撮った方がいいし、カットは早く切り替えた方がいいわけです。そうなると、そもそもユーチューブは雰囲気を伝えるものではないってことになります。ちょっとでもつまらなかったらチャンネルを変えられてしまうので、一瞬も息をつかせない展開にしていかないといけない。フランス映画みたいに雰囲気から入るようなものもつくりたい。ですが5秒で切られちゃいます(笑)。あれは映画館だからいいんです。たぶん、映画とかドラマをやっている人は、僕らの作品を見て違うって言うと思うんですけど、もともと僕らは映画じゃないものをつくりにいっている。

──映画やテレビの文法、演劇の文法とも違う、ユーチューブの文法があるってことですね。

スカッシュそうです。もしそれが同じならテレビを見た方がいいわけで、それとは違うやり方をしないと、お客さんは離れていきますね。

──例えばVineのように6秒の動画で表現することに可能性は感じますか。

スカッシュ可能性は感じますが、3カ月から半年くらいやって数字を取ってみないと、どんな法則があって何が見られるのかということが見えてこないので、軽い気持ちで行くことはないですね。

──なるほど、6秒動画には6秒動画の文法があるということですね。今後、タブレットやスマホ、ウエアラブルなど、新しいデバイスがどんどん増えてくると、コンテンツの在り方もさらに変わっていきそうです。やっぱり、モニターなどの大画面で見るのとスマホで見るのでも全然違いそうですし。

スカッシュ全然違いますね。実は僕らも、編集の時点からスマホの小さい画面でやってます。そういう作品もDVDにする時があって、その時には大きい画面で見ることになるんですが、展開が速すぎて見づらいんですよ。大きい画面だと3秒くらい動きがなくても耐えられるんですが、小さい画面だと、何をやってるかすぐに知りたいって気持ちになる。なので、作品をつくった後は、まずスマホで見て面白いかどうか判断します。

──なるほど。もう編集時点からそのデバイスに合わせているわけですね。

スカッシュなので、もし僕らが映画をつくることになったら、すごい大きい画面で編集したいですね(笑)。

──そうすると、映画をスマホなどで見るようになってきたら、今の映画の文法は変わっちゃいますね。

スカッシュそうなんですよ。なので、そっちの業界の人が、文法が違うから教えてくれって言ってきたりします。テレビをつくっている人がユーチューブに来た時に、結構トークだけでもいけると思ってそういうものをつくったりするんですが、全然見られないものになったりします。

■ 使い捨ての文化にならないように、ネット動画でもっとできることはある

──広告としての企業コラボもいろいろと手掛けていますが、どう受け止めていますか。

スカッシュ僕はいい流れとして受け止めていますが、同時にもうちょっとちゃんとした形を生み出していかないと、使い捨ての文化になりそうだと恐れています。一般の人は、ユーチューバーはただの流行と捉えてる面があって、それだと文化として根付いていかないのではとも危惧しています。広告についても、今の形からもう一歩踏み込んで、一緒につくらせてもらうというところに行けるといいと思います。企画の段階から関わることができたら、例えばテレビや映画、演劇、ブログと連携した面白いアイデアが出てくるという期待はあります。

──テレビなどと比較してネットでやっている人の強みはどんなところにありますか。

スカッシュネットでやっている人の強みは、メディアではなくてその人自身が登録者数という数字を持っていることだと思います。

──ネット動画に関して課題があるとしたらなんですか。

スカッシュ素人に毛が生えてるって言われることですかね。ブロガーだけは僕らのことを上に見てくれますが、映像業界にいくと、すごく下の人として扱われるんです。そこをネット動画の人たちが何とかしないといけないと思います。

──これからどういうことに取り組んでいきたいですか。

スカッシュ本当は演劇の空気感をみんなに味わわせたいと思っています。だから、演劇とユーチューブをつなげるようなことができればいいなと強く思っています。そういうところで面白いものがつくれれば、オンリーワンの存在にはなれると思うので。面白いアイデアで勝負して、なるべく新しいものにおじけづかずに攻めていきたいと考えてます。そのときに再生回数とか考えないでいいものをつくろうとすると、結局見られないで終わってしまう。僕らはチームでやってるので、のめり込んで作品をつくっても、再生回数を上げるアイデアはどこにあるのかって突っ込み合えるところが利点ですね。