企業トップの「スピーチ力」の磨き方
2014/11/17
先の米国中間選挙では、民主・共和の両党がしのぎを削った選挙戦を繰り広げた。特に重要となったのが、各選挙区に入っての演説。 激戦区における次代のリーダー候補者の発言など、その一挙手一投足に大きな注目が集まり、ニュースメディアやソーシャルメディアを通じて発言内容が拡散し、評判が形成されていった。
本稿で伝えたいポイントは、選挙演説においても、企業のプレゼンテーションにおいても、大切となるのは「コンテンツ」であること。次いでそれを伝える「デリバリースキル」。この二つをプレゼンター任せではなく、組織的に磨き上げることの重要性についてだ。
■「コンテンツ」×「デリバリースキル」の最強タッグ
最も大切な「コンテンツ」とは、プレゼンターが発する「言」=言葉である。つかみやキーメッセージ、さらには全体構成・ストーリー性などさまざまな要素を適切に組み上げてコンテンツをつくり上げる。もちろん、投影するスライドや動画、さらには手に持つ小道具やフリップもプレゼンターの言葉を補う大事なコンテンツと考えていいだろう。
そして「デリバリースキル」とは、コンテンツを「魅」せる、魅力的にするためのスキル。声の大きさ、高さ、トーンやスピードなど言語そのものにまつわる部分に加え、ジェスチャー・表情・姿勢・アイコンタクト・ステージ上の動き方・マイクの持ち方など言語以外(ノンバーバル)の部分も重要な要素と考えている。どんなにいい話をしていても、抑揚がなく原稿棒読みでは眠くなるだけだ。聴衆を引き込むような魅力的な話法はリーダーがリーダーたる素養の一つであろう。さらには「応」。質疑応答など、聴衆とのやりとりにも独特の経験値が必要となる。
欧米ではこうした、公衆の面前でコミュニケーションする能力を鍛え上げるために、初等教育から「パブリックスピーキング」の授業が行われ、コンテンツ構築とデリバリースキルについてのトレーニングが行われているそうだ。
■ スピーチライターの採用率は23.4%(企業広報力調査より)
2014年初頭、日本の上場企業479社を対象に行った「第1回 企業の広報活動に関する調査」において、われわれ企業広報戦略研究所は、企業トップのリーダーシップコミュニケーション能力を問う設問を下の10問としている。トップと広報部の連携や、従業員との会話などインターナルコミュニケーション系、またメディアとの定期情報交換の場の設置などの実行率を以下のグラフで示す。
この中で多くの企業の広報責任者が関心を寄せたのが「トップのメッセージを専門的に作成する社内・外の体制がある」だ。いわゆるスピーチライターの存在有無を問う設問で、全体平均では23.4%と約4分の1の企業しか体制を構築できていないが、調査で総合点が最も高かったSランク企業(73社)に限って集計すると64.4%まで跳ね上がる。
最近のトップはいろいろなところでプレゼンテーションをする機会が飛躍的に増えてきている。記者発表会、コンベンションなどでの基調講演、従業員向けのスピーチや、フォーラムなどでのパネルディスカッション、機関投資家との対話、テレビ番組のインタビュー、さらにはネット系メディアへの出演など、トップの登場回数が増え、トップが発するコンテンツとデリバリースキルが、その企業のイメージ、ブランドに大きな影響を与えるようになってきている。
こうした状況で、シーンやメディアに応じて的確にコンテンツを使い分けることは、よほどの場慣れしたトップでなければ難しいのではないか。
コンテンツ=スピーチライティングを、トップ任せにするのではなく、組織的に運営する体制を構築することが、ダイアログ(対話)やアカウンタビリティー(説明責任)への社会的要請が高まる昨今において、重要となってきていると考える。
■ スピーチライティング3つのコツ。キーワードは「6」。
スピーチライティングにおいて重要なポイントを3つほど紹介したい。
①結論を先に。「結起承転」。
パネルディスカッションや、テレビ番組のインタビューなど公の場で話す場合にぜひ心掛けてほしいのが、スピーチやセッションの冒頭で結論を先に述べることだ。「私は○○がとても大切だと考えている。そのことについて今から話をしたい」など。昔から言われていることだが、意外とこれができていないトップが多い。丁寧に説明をしようとするあまり「起承転結」で説明するのだが、聞く側の集中力・理解力がついていかない。伝えているが、伝わっていない状況を自らつくり出している。「起承転結」ではなく、結論を先に「結起承転」とすることからスピーチを始めていただきたい。
②ニーズに合わせたストーリー
スピーチライティングにおいて最も重要なポイントは、聴衆のニーズを把握することだ。10分でも120分でも、何を期待してその講演を聞きに来ているのか? どのような職業の方々が、どのような情報を求めてその会場にいるのか? でき得る限り事前に聴講者のニーズを把握し、それに寄り添うストーリーを構築し、プレゼンテーションすることが大切だ。話したいことを話すでは、なかなか伝わらない。プレゼンテーションの目的・ゴールを明確に定め、その上で聴衆の聞きたいことと、プレゼンターが話したいこととの折り合いをつけるのがスピーチライティングのコツのひとつだ。
③キーワードは“6”
ツイッター、テレビインタビュー、新聞記事においても、いずれも情報量には制限がある。結果、メッセージは非常に短い言葉で表現され、伝達されていく。このことを強く意識して、スピーチライティングの際に、強調したい部分を表す“キーワード”をつくり込んでいくことが重要である。新聞などをよく見ていただくと、記事の見出しは10文字前後。接続詞などを除く純粋なキーワードは「6」文字が限界だ。テレビのインタビューでは以前は15秒以内をワンセンテンスにと言われたものだが、最近のカット割りが多いニュース構成を見ていると「6」秒程度で社長のコメントがどんどん切り取られていく。スピーチのコンテンツを拡散していくメディア事情をよく踏まえてキーワードを創造していく必要がある。「アベノミクス」「ウエアラブル」いずれも6文字だが、流通しているキーワードを日頃から研究していくことで、短く表現する能力が向上していく。
■ ファンを増やすも減らすもトップのプレゼンテーション次第
パブリックリレーションズとは、社会との良い関係性を築いていくこと。組織を代表するトップが社会と良い関係を築き上げていくには、受け手のニーズを踏まえた分かりやすいメッセージを創造し、発信し、共感を獲得できるかが勝負となる。ファンを増やすも、減らすもトップのプレゼンテーション次第。広報部門には、プレゼンテーションを組織的に磨き上げる中心的役割をこれまでに以上に果たすことが求められている。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。