Ad Tech Tokyo 2014 公式セッション レポートNo.3
今、この瞬間にコンテンツを作って届ける:コカ・コーラとサントリーの新エンゲージメント戦略
2014/11/19
2014年9月18日、アドテック東京2014で「One to Oneで考えるコンシューマーエンゲージメント」と題したセッションが開催された。企業のソーシャルメディアでの情報発信が当たり前になった現在において、最新の事例に基づきディスカッションが行われた。
(左から)電通 小西氏、日本コカ・コーラ 豊浦氏、 サントリー 坂井氏 |
瞬間を捉えてツイッターで会話を仕掛けるコカ・コーラ
小西:ソーシャルメディアによって、生活者と長期的なエンゲージメントを築き、消費者一人一人のLTV(ライフタイムバリュー、顧客が長期的にもたらす利益)を高めていくという考え方はここ2~3年で普及しましたが、今新たなフェーズにきているように思います。
今回はあらためて、エンゲージメントをブランドと生活者との本質的な関係づくりとして再考したいと思います。パネリストとして日本コカ・コーラから豊浦洋祐さん、サントリーホールディングスから坂井康文さんをお招きして事例を交えつつお話を伺っていきます。まず、日本コカ・コーラでの取り組みについて豊浦さんお話しいただきます。
日本コカ・コーラ 豊浦氏 |
豊浦:当社では1年前にソーシャルエンゲージメントセンターを立ち上げたのでその活動を紹介します。まず朝一番に主要ブランドのソーシャルデイリーリスニングレポートを作成します。このレポートは次のアクションにつなげることを目的に作成されており、ツイートの件数や内容のポジティブ・ネガティブのセンチメント(感情)分析にとどまらず、ファンの熱い声をピックアップしたりソーシャルトレンドを共有したりしています。
毎日午前中にこのレポートを見ながら編集会議を開催し、ファンとどんな会話をしていくかという戦略を立てます。それを受けて午後から社内のコピーライター、グラフィックデザイナーがクリエーティブを作成し投稿します。
チームとして意識しているのがモーメントを捉えることです。一つはエイプリルフールなどの時事的なイベントに合わせた投稿、もう一つが1対1の対話です。例えば、「コカ・コーラ飲んでテスト頑張る」とツイートした人に、24時間以内にその人のツイッターアカウント名を入れたグラフィック(画像)を作成してツイートを返す。その人は喜んでくれてその画像をツイッターのトップ画像に設定してくれました。ブランドがその人の一部になる瞬間でした。
リツイートの最大化でセカンドフォロワーを1000万単位で増やす
豊浦:ツイッターの活動のビジネス的な価値を評価するために先日調査を行いました。調査では、ツイッターユーザーを、コカ・コーラフォロワー、セカンドフォロワー(フォロワーのリツイートでコカ・コーラのツイートを見るユーザー)、ノンフォロワー(同社のツイートを見ないユーザー)の3つに分類し、ブランド好感度、購買意向を調査しました。予想通りコカ・コーラフォロワーがどの指標も一番高かったのですが、勇気づけられたのはセカンドフォロワーもノンフォロワーに比べてどちらの値も高くなっていたことです。
フォロワーは頑張っても1000人単位でしか増えませんが、フォロワーのリツイートを最大化することでセカンドフォロワーは100万、1000万単位で増やせます。
リツイートの最大化で最も有効なのがリアルタイムエンゲージメントです。これには2種類あって、1つが起こることが分かっている事象に対してそのタイミングに投稿する「リアルタイムパブリッシュ」、2つ目が起こるか不確定な事象に対して準備して、それが起こったら1秒でも早くコンテンツを作成し投稿する「リアルタイムコンテンツクリエーション」です。特に後者にリツイート最大化のチャンスがあります。
例えば先のサッカーワールドカップです。私たちのチームは5×4メートルでピッチの模型を作成し、コカ・コーラのネーム入りボトルを観客と選手に見立てて配置し、試合の場面を再現しました。結果、全体で総リツイート数3万5000、1ツイートで最大8000リツイートという、これまでの活動をはるかにしのぐ数値を達成しました。
こういう活動が有効なのは、日々生活者との関係を築けているからこそだと考えています。筋トレのような毎日の活動の中に、試合という舞台を用意することで、本当のコンシューマーエンゲージメント、絆づくりができます。また運用チーム全体のモチベーションアップにもつながりました。1秒ごとに100単位でリツイートが増える、自分たちの活動の先にバトンを渡してくれる人がいるということが可視化できて良かったです。
小西:豊浦さんのお話を受けて、坂井さんはいかがでしょうか。
坂井:セカンドフォロワーまで含めて効果検証するという考え方が参考になります。フォロワーが増えない中、そこに規模的な活路を見いだせそうです。
豊浦:飲料メーカーにとって規模感はとても重要です。調査によって、デジタルエンゲージメントが実際のビジネスインパクトにつながることが実証できたのは大きいし、日々の活動の自信にもなりました。
小西:この他にも、リアルタイムマーケティングをこれから実践したいという方へのアドバイスがありましたら教えてください。
豊浦:リアルタイムパブリッシングまではできるのですが、リアルタイムコンテンツクリエーションは覚悟が必要ですね。例えば先のサッカーワールドカップで言うと本田選手がゴールするか分からないけれど、信じて企画して準備して進む、さらにソーシャルの文脈に乗れるようなコンテンツを作るという難易度があります。
企業活動の認知も含めたコーポレートアカウント運営
モデレーターの電通 小西氏 |
小西:続いて、サントリーの活動についてお話を伺いたいと思います。
坂井:私はブランドではなく、サントリーという企業アカウントの管理をしており、オウンドメディア、ブログ、フェイスブック、ツイッター、ミクシィ、LINE、ユーチューブなど主要ソーシャルメディア全般を通して発信しています。数多くのブランドのファンをどのように、コーポレートに落としこんでいくかということを考えながら運用しています。
フェイスブックやツイッターではまずは規模感をつくるためにファンやフォロワーを増やし、その中でCMや商品、季節の話題、企業活動などさまざまな話題を投稿しています。特に最近はユーザーに投稿をうながすような呼びかけをして、インタラクティブなコミュニケーションを行っています。
またユーチューブでは、「忍者女子高生」というC.C.レモンの動画が再生回数600万回を突破しました。こちらはブランドと宣伝部でのチャレンジでしたが、特に海外からのアクセスが3分の2を占めるなど、オーガニックに(広告などを経由せず自然に)広がりました。最近ではBOSSのCMでおなじみのトミー・リー・ジョーンズさんにサントリーの企業広告に出演いただいたりもしています。
フェイスブックとツイッターでは、ファン、フォロワー、それ以外の人という形で分けて好感度、購入頻度を調査したところ、顕著な違いが現れました。特に週に4日以上サントリーの投稿を目にする人は一番購入頻度、好感度ともに高く、接触頻度が高いほど効果も高いことが分かりました。
調査ではグループインタビューも実施したのですが、東北の復興支援や森林保護などの企業活動についての投稿についても好意的に受け止められていることが分かりました。実は企業活動の投稿はリーチも反応も下がる傾向にあるのですが、見ている方はいいね!はしなくても、企業イメージの向上につながっていたのです。
ソーシャルメディアとリアルをどう絡めるかが次の戦略
小西:プラットフォーム別の使い分けはしていますか。
坂井:ユーザーの違いを意識しています。フェイスブックページはファンの年齢層が高いこともあってウイスキーの投稿が人気ですが、ツイッターアカウントは若い世代のフォロワーが多いので飲料を中心にした投稿をしています。
豊浦:コカ・コーラのLINEアカウントは1000万人の友だちがいて、メッセージを配信すると40万人くらいに届くトラフィックジェネレーターの役割を果たしています。フェイスブックとツイッターはエンゲージメントを高める目的ですが、フェイスブックは作り込んだビジュアル、コミュニケーションなど、アカウントマネジメントに注力し、ツイッターはカンバセーションマネジメントを意識して運用しています。
小西:フェイスブックのレギュレーション変更により、ファンへのオーガニックリーチが大幅に減少する(※)ということが起こっているかと思います。その点については、何か対策などしていらっしゃるのでしょうか。
※(企業や団体などが運営する)フェイスブックページから配信された投稿が、ユーザー個人のフィードに自然に表示される割合が減少していることを指す。フェイスブック社はフェイスブックページ自体の数と個人ユーザーのものを含めた投稿総数が増加したこと、またそれに伴いフィードに投稿を表示させるアルゴリズム改善をしたことによるレギュレーション変更だと発表している。
豊浦:ページのファン数を100万人規模に増やしましたが、想定していたリーチ試算より下がってしまい、正直これまで労力を注いできた分残念さがあります。とはいってもプラットフォーム側の事情もあるので、100万人規模のコミュニティーを生かして、投稿の頻度を下げて質を上げ、広告でリーチを広げていくような運用にしたいです。
坂井:私も正直悲しいのですが…。以前はメルマガよりもコスト効率がいいのではないかという期待もあったのですが。ツイッターの方が広がりを期待できるのかもしれないと感じています。
小西:最後に今後のソーシャルメディアを絡めた戦略についてお聞かせ願えませんでしょうか。
豊浦:リアルの接点というのは究極のエンゲージメントだと思うので、どうやってデジタルを絡めていくかを考えて、リアルを含めた大きなエコシステムを作りたいですね。
坂井:オウンドメディアとソーシャルメディアの連携を深めること、そしてやはりリアルな接点との結びつきは積極的に取り組んでいきたいです。
小西:ありがとうございました。