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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

Dentsu Design TalkNo.38

「自分」こそが、最高のメディア。

2014/12/05

11月11日に行われた電通デザイントーク第123回のテーマは『「自分」こそが、最高のメディア。』。クリエーターの高城剛氏は、1980年代からメディア・コンテンツ産業で活躍し、2008年からは海外に拠点を移して、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、世界を俯瞰する視点で創造産業全体に鋭い提言を発信し続けている。そんな高城氏に、LINEの田端信太郎氏が社会、メディア、人間について問いかけたトークの模様を紹介する。

力のある個人の時代 個人と組織の関係はどう変わる

田端:僕は高校生の頃からの「高城フォロワー」で、今も高城さんのメルマガを欠かさずチェックしています。そんな憧れの方に、今日は「『自分』こそが、最高のメディア。」をテーマにお聞きしたいと思います。携帯メールが流行り出したころの高城さんの名言に、「女子高生にとって最大のキラーコンテンツは彼氏からのメールである」というものがありました。今、個人がどんなコンテンツより面白い時代です。組織と個人のパワーシフトが起こっていて、かつての「組織で下積みをする」とか「組織が個人を育てる」考え方が通用しなくなっている。イケてる個人が組織に属す意味が見えづらくなっています。

高城:出版社から本を出すと印税は10%だけど、キンドルで個人出版すると70%入る。世の中、直販モデルになってきていて、それは音楽の世界でも起きている。間違いなくテレビ(映像)でも起きるでしょうね。カナダ発の「ヴァイス マガジン(VICE MAGAZINE)」なんてその典型で、フリーペーパーから始まって、今では世界最大のインデペンデントメディアになりつつある。メディア王といわれるルパート・マードックが出資したのも、彼らがテレビではタブーだとされるような話題に切り込んで、視聴者が見たいものを提供しているからですよね。

田端:電子化というと、「紙VSデジタル」の構図ばかり言われてきたけれど、直販モデルかどうかが問題だということですね。

高城:自分でアイデアやマーケティングセオリーを持っている人は、個人でいくらでも生かせると思うよ。インターネットがすごいのは5年後も7年後もずっとお金が入ってくる仕組みを個人が持てることです。

田端:でも、本当に面白いものを作れる人って、そんな降ってわいたように出てくるのかな?という疑問もあります。あえて保守派的な立場から言わせてもらうと、そういう人って結局、テレビ局やプロダクションから出てくるのでは?という気がするんですが。

高城:アメリカの状況を見ていると、既存メディアに関わる人が7割、全くのニューカマーが3割くらいという感覚かな。

田端:そういうニューカマーはどう育つんでしょう? 大学出たてでマーケティングセオリーを持たない人間が、組織に属さずにどう育つのかが気になります。インターンとか?

高城:インターンは、コネづくりなんですよね。郵便物を仕分けして各部署に届けているうちに顔を覚えられて、人手不足の時に「あのインターンはよさそうだから任せてみよう」という話になる。

ブルックリンと中央線 グローバルマーケティングの作法

田端:インターンの「よさそう」という評判は、どこで決まるんでしょう。

高城:一つはトイレです。皆トイレで色々な部署の人と会って、今どんなプロジェクトをしているのか話すから。もう一つは給湯室。MITの調査で、トイレと給湯室を活性化したら、仕事の効率が上がり売り上げにも結びついたというのがあるくらいです。

田端:トイレと給湯室ですか。「あの子よさそう」の先にチャンスをつかめるかどうかは?

高城:運じゃない(笑)。あと、趣味が「バスケットボール」のやつはだめだとか。

田端:え!?そうなんですか?

高城:アメリカではそう言いますよ。フェイスブックに趣味がバスケと書いている人はまず共和党だと思われるから。イギリスでも、例えば日本の家電メーカーが進出するとします。DSPを逆解析して西ロンドンでは売れないと分かったら、東ロンドンから攻める。ここで売れれば当然ケンブリッジでも売れる、そうするとスコットランドでも売れる。となると、この地域のクリエーターを雇って一緒にマインドセットをつくっていって…という話になる。

田端:なるほど。そういう常識、空気みたいなものは住まないと分からないですね。

高城:でも、それが分からなかったら売れないですよ。この間クアラルンプールのクリエーターとの打ち合わせがあって。この案件はマーケティングコストが少ないからマンハッタンには広告を出せない、ブルックリンから始めよう。じゃ日本は?という話になった時に「中央線はリベラルな割に広告費が安い。中央線から始めるべきだ」って彼らが言ったんですよ。クアラルンプールのクリエーターがそこまで言うんですよ。

田端:ええ!?その人、日本に住んでたんでしょう?

高城:住んでないよ。データで出てきますから、分かるんです。だって、そういうことが分からないと広告以前にものも作れないじゃない。それがグローバルマーケティングだから。

田端:高城さんから見て、日本が競争優位になれるのはどんな分野ですか?

高城:日本はお金はありますから、進むべき道は投資じゃないかな。既得権益を壊さないと新しいことはできないけど、日本は壊せないでしょう? だから新しいことをしているところに投資するのがいいと僕は思います。

身体とメディアの未来 スマホもクルマも将来タダになる?

田端:最後の質問です。高城さんは、世界中を移動することに並々ならぬこだわりを持たれているし、しかも移動しながら身体も鍛えている。最近、五感で感じる全体の情報価値についてよく考えていて、いくらいい体験をしても五感を研ぎ澄ましていないと意味がないから、身体を鍛えることの意味ってそういうところにあるのかなと思っているんです。どうですか?

 

高城:身体性ということでいえば、メディアってこれまで身体の外にあるものだったけど、どんどん身体の中に入ろうとしているよね。家の隅にあった電話を持ち歩くようになって、ウエアラブルになって身体にくっついて、最近は耳の中に埋め込んだり、コンタクトレンズ型になったり。DNAでかかりやすい病気も分かるようになったり、動かない足をロボット化すると、以前の状態より良くなるなんてことも起きる。その先に何が起こるか。今、30センチぐらいの小さい自分を携帯する研究が進んでいるんですよ。持ち歩いて、ちょっとコーヒー買ってきて、みたいなことができる。

田端:小さい自分? それって、ペットみたいなものですか?

高城:そのロボットが小さくてかわいいと社会的なハードルが高そうだなと思っているんですよ。でも、聖なるおじいさんのようなキャラクターにすれば、おそらくそのハードルを超えられると思うんだよね。

田端:でも、ペットロボットの「アイボ」を捨てても、「あの人、ひどい」とはなりませんよね?

高城:世代と人によるよ。この間日本の大学生に彼女と別れた話を聞いていたら、彼女と会って別れ話をした瞬間は泣かなかったんだけど、ケータイのデータを消した時に涙が出たんだって。

田端:どっちが本体でどっちがサブなのか分からないですね。

高城:テレビが壊れても悲しくないけど、スマホが壊れたらすごく悲しいと思う。スマホは個の象徴で、一方的に情報が来るテレビはそうじゃない。個の象徴になるものが生き残る。

田端:若者のクルマ離れも、アイデンティティーの象徴じゃなくなったからなんでしょうか。

高城:将来、タクシーもクルマもスマホもタダになると思います。クルマやスマホそのものがメディアになって広告費で運営されていくんじゃないかな。

田端:僕は雑誌メディアの出身で、広告クリエーティブという“食べ物”をいかに美味しそうに見せる“お皿”や“テーブルセッティング”が広告メディアの役割だ、と思ってやってきたところがあるんです。でも、そんな情緒的な世界は…リアルタイムビッティング(RTB・自動入札)の世界では古き良きノストラジーかもしれないですね。

高城:確かに、そういう感性はどんどんなくなっているよね。

田端:でも、RTBのような広告をうまく使えたら、タクシーを無料にしていくくらいのポテンシャルはあるわけだから、広告ビジネス自体には面白い未来が開けていますよね。

高城:RTBって安く買いたたくイメージがあるけど、価格が変動するということは、逆に青天井に吊り上がっていく可能性もあるわけですよ。今後、あらゆるものがビッティングになっていくと思います。ホテルのネット予約料金はもう変動制になっているわけだから、次はレストランとかね。サーバーやロボット開発に投資して、そういう仕組みの提供者になったところが全ての広告を支配して、勝者になるでしょうね。

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀