Dentsu Design TalkNo.39
モノゴトの全てを設計する(前編)
2015/01/09
2014年12月2日に行われた電通デザイントーク第123回のテーマは「モノゴトの全てを設計する」。広告というドメインにとらわれず、縦横無尽にプロジェクトメーキングをしていく人の思考法やプロジェクトの進め方とは?「丸の内朝大学」や「六本木農園」の生みの親である古田秘馬氏、異業種の専門家が集まるクリエーティブブティック「GLIDER」で企業の課題や社会問題の解決に取り組む志伯健太郎氏、デザインやアートディレクションの概念を商品開発や街づくりに拡張させる電通のアートディレクターの戸田宏一郎氏の3人が、これまでの成果や問題意識を語り合った。前後2回に分けてその内容をお届けする。
モノゴトの上流からスタートし、アウトプットを目指す
戸田:「モノゴトの全てを設計する」という仰々しいタイトルですが、僕たちは、友人であり仕事仲間。ここ数年、モノゴトを上流から開拓し、アウトプットを目指すスタイルに取り組む中で出会った3人です。今年に世に出るホットな事例がいくつも進行中です。
志伯:僕ら3人が全員参加しているのが、今冬開通予定の仙台市地下鉄東西線のプロジェクトです。“みんなでつくる、みんなの地下鉄”をコンセプトに、市民プロデューサーを育成する「WE SCHOOL」や、市民プロデューサーがプロジェクトを実践する「WE STUDIO」、東西線に設置されたデジタルサイネージ「WE TUBE」の3つの柱で、地下鉄を“乗り物以上の存在”にしようと考えています。地下鉄の開業プロモーションを超えた、街づくりへの参画だという意気込みで取り組んでいます。
戸田:ここで、個々人の分野の説明をしましょうか。志伯くんはクリエーティブディレクターで、元はCMプランナー。僕はアートディレクションが専門ですが、最近は仙台地下鉄の仕事のように、広告よりも広域な街づくりや商品開発のクリエーティブディレクションの仕事も増えてきています。
古田:戸田さんには、仙台地下鉄のロゴマークなどグラフィック全般をデザインしてもらっていますが、すごくフレキシブルに取り組みながらも、アウトプットがしっかりしているところが素晴らしい。私は世の中の課題を解決するプロジェクト自体をつくり、世の中に提案していくということをしています。その代表が「丸の内朝大学」。もう9年目を迎える取り組みですが、今でも「朝活」の切り口でメディアにたびたび取り上げられています。私のプロジェクトの基本は、何もつくらない、何も壊さないで、今あるものを全て使いながら、世の中に新しい価値観をつくること。今はいい商品をつくってカッコよく見せるだけでは伝わりません。かといってNPOで地元で一生懸命頑張っているだけでもなかなか伝わらない。クリエーティビティー/仕組みのデザイン/それを伝えるコミュニケーションがそろうことが必要で、それが今日のテーマの「モノゴトの全てを設計する」ということなのかなと思います。
キーワード① 「地方創生」
戸田:自己紹介が終わったところで、次に行きましょうか。今日は僕たちが今気になっているキーワードを12個挙げてきました。どれを選びますか?
古田:では「地方創生」で。今キリンビールさんと「復興応援 キリン絆プロジェクト」を進めています。東北の生産者と消費者をキリンビールさんがつないでいこうと始まった企画です。東北で農業経営者のリーダーを育て、一方で東京で復興プロデューサーを育てるという2つの柱があります。地方創生で大事なことは、雇用を生むことではないんです。雇用をつくれる経営者をつくることです。このプロジェクトでは、東北の農業経営者の皆さんとオランダの最新の農業を視察に行くツアーを組むなど、地方創生の核となる人づくりに注力しています。ポイントは一切の行政補助金を入れていないことで、キリンビールさんのCSVという形で実現しています。単純なCSR(企業の社会的責任)ではなく、しっかりしたCSV(価値共創活動)のプラットフォームをつくることで、プロジェクトが自走するし、企業同士も連携できる。プロジェクトを通じて、企業が地域社会と一緒にどんなビジョンを描けるかが重要だと思います。
戸田:このプロジェクトの場合、キリンビールさんにとっての成果は何になるんですか。
古田:具体的なところでは、今回のプロジェクトに参加している遠野のパドロンというスペインししとうを作っている生産者の農産物を皆でブランディングしたことで、枝豆のオーダーを超えるビールのつまみとしてキリンシティ全店舗で驚異的な売り上げをあげました。
元々は東北復興というところから始まったプロジェクトですから、東北で活躍する人がどんどん生まれること自体も成果です。われわれは「PR」ではなく「SR」(ソーシャル・レピュテーション=社会的評価)という言い方をしますが、2013年にキリンビールさんは被災地支援の社会貢献のイメージランキングで1位になりました。こうしたイメージは、人材確保にもつながります。社会貢献やCSVをどんなKPI(評価指標)で出すのがふさわしいか、今アメリカでも盛んに研究されています。
志伯:企業の予算の使い方が変わってきているんですね。
古田:広告という枠にお金を出すのではないやり方でどう伝えていくか、を企業は考えているんじゃないでしょうか。今「地方創生」で色めきたっている行政の方も多いですが、世界遺産、ゆるキャラ、B級グルメ…といった既存アイデアを横展開するだけでは続かない。なぜそれを自分たちがやるのか?伝えたいことは何か?という視点で発想することが大事だと思います。
キーワード②「テクノロジー」
志伯:僕は「テクノロジー」を選びます。auの「FULL CONTROL TOKYO 驚きを、常識に。」キャンペーンは、auの先進性をアピールし、企業イメージを上げたいというオーダーを頂いて企画したものです。どんなテクノロジーを使えば皆に喜び、驚いてもらえるだろうか?から逆算して映像やキャンペーンを設計しました。まず、スマホを徹底的に研究しました。今のスマホは持っている能力の5%くらいしか使っていない。残りの95%から誰も触れていない機能を見つけようと考えました。着目したのはスマホのリモートコントローラー機能です。電気が通っているものなら何でもコントロールできる機能を使って、スマホで街の灯りをコントロールするテレビCMを流しました。「どうせCGだろう」というネガティブな反応が出ることを見越して、その反応がネットで出たころでイベントを仕掛け、本当にできることを体験させる。そこで驚く参加者の姿をCMで流すという、CMとイベントの無限ループをつくりました。
戸田:視聴者の反応を見越してストーリーを組み立てていったというのが面白い。僕自身も最初はCGだと思ったけど、実写だと分かると、何を見ても本当に見えてきますね。
古田:テクノロジーは何でもできる分、本当に何ができるのか、何を伝えたいのかがすごく試されると感じます。僕自身は、新しいテクノロジーが出るほど、その対極にあるものを常に考える癖があります。農業や、早起きなど、テクノロジーの逆に振れたものの中に真理があるんじゃないかと。メタボ検診によるダイエットブームが起きた時には、「太っていてもいいじゃない」をコンセプトに、太った人のためのライフスタイルマガジン「D30」を立ち上げました。オープン後2時間でヤフーのトップニュースになり、初日に20万アクセス、そして30社以上から協賛の申し込みがありました。世の中が全部一方向に流れていく時ほど、その逆方向に面白いものがある気がしています。
志伯:実際にサイトから派生して何かつくったりしたんですか?
古田:太った人専用車両をつくって、強冷房にして、吊り革広告は全部お肉の広告とか…そんな議論を当時してました。太っていることをまだ認めない、80~100キロの人を「F1層」ならぬ「D1層」と呼ぼうとか…。これ、全くテクノロジーに関係ない話ですね(笑)。
※後編は1/10(土)掲載予定
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