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Dentsu Design TalkNo.40

モノゴトの全てを設計する(後編)

2015/01/10

2014年12月2日に行われた電通デザイントーク第123回のテーマは「モノゴトの全てを設計する」。広告というドメインにとらわれず、縦横無尽にプロジェクトメーキングをしていく人の思考法やプロジェクトの進め方とは?「丸の内朝大学」や「六本木農園」の生みの親である古田秘馬氏、異業種の専門家が集まるクリエーティブブティック「GLIDER」で企業の課題や社会問題の解決に取り組む志伯健太郎氏、デザインやアートディレクションの概念を商品開発や街づくりに拡張させる電通のアートディレクターの戸田宏一郎氏の3人が、これまでの成果や問題意識を語り合った。その後編をお届けする。(前編はこちら

キーワード③「商社と代理店」

古田:商社機能と代理店機能がくっついていくんじゃないかと思っています。三重県で地元の農家と精油会社、行政、商社で組んで「うれし野アグリ」という農業法人をつくりました。地元のバイオマス工場の廃熱を利用した最新型の施設農業の仕組みを、「メード『バイ』ジャパニーズ」としてアジアも視野に入れて広めていこうとするものです。これまで商社は、ものを流通させることには強くても、ブランディングはできなかった。かたや代理店は、クライアントの予算があって始まる仕事のスタイルなので、商社のように新たなビジネスのフィールドをつくることはできない。両者がくっつくことで、地方創生のビジネス化も実現するんじゃないかと思います。

戸田:広告会社にいると、大きな長いビジョンを持って動くことの難しさに直面しますよね。広告表現で目先の成果を挙げようという話になりがちですから。

古田:でも、新しいメディアや価値の創造は、広告会社ならではの仕事ですよね。要は川上と川下をつなぎたいという話なのだけど、それができる人がいないのが課題です。あと、今回は志伯くんに映像を作ってもらいましたが、新しいコンセプトのプロジェクトでは、ビジュアルで「見える化」することがとても重要だと感じます。

志伯:テレビCMを作る技術は、意外といろいろなところに応用が利くんです。何か新しいことを伝えたい人の思いを映像にするのは、一つの技術です。それをソーシャル分野や地域のプロジェクトで生かしている感じです。

キーワード④「イノベーション」

志伯:JINSの「JINS MEME」は、メガネ型のウエアラブルデバイスです。同じウエアラブルでも、外の情報を見るグーグルグラスと違って、JINS MEMEはかけた人の生体情報を取得するために開発されています。いわば“自分の内側を見ることができる”メガネなんです。

古田:人の体調がリアルタイムに分かると、JINS MEMEをかけてスーパーに入った瞬間に、「今日のあなたに必要な栄養素はこのトマトに含まれています」などとお奨めできるようになる。棚づくりも関係なくなって、マーケティングのあり方がガラッと変わりますね。既存のものの価値を少し入れ替えただけで、可能性が無限に広がる。戸田さんの手掛けた「drop」もそうですよね。

 

戸田:サントリーと保温ボトルメーカーのサーモスと、「MY BOTTLE DRINK drop」という新スタイルの飲み物を開発しました。飲み物の容器が瓶・缶・ペットボトルと移り変わっていく中で流行りの味も変わってきた、という過去の事実をヒントに、新容器を開発することで新しい飲み物にたどりつくのではないかという仮説を立てたんです。容器の開発から味の開発、飲み方のスタイルの提案まで、チームで3年かけて進めました。全体のアートディレクションをした上で、プロダクトデザイナーにも入ってもらって。途中で方向性を変えたことも、ゼロベースに戻したことも何回もあって、モノを作ることの大変さを知りました。今ユーザー数は順調に増えていて、セブン‐イレブンやアマゾンでも取り扱われるようになっています。

古田:アートディレクションの範囲がどんどん広がっていますね。デザインをちょっと良くしたり、流通を少し変えたりする「イノベーション」(進化)の次には、「レボリューション」(革命)が必要だと僕は思っています。それまでの“絶対”を壊した瞬間から、面白いクリエーティブが始まる。JINS MEMEやdropはまさにそうで、ここから新しい可能性が広がると思います。

キーワード⑤「東京オリンピック」

古田:「和食」がユネスコ無形文化遺産になりましたが、世界で和食の概念を知っている人は少ない。そこで世界に伝わるキーワードをつくろうということで、「ピースキッチン」というプラットフォームを設計しました。「和食」を単なるグルメではなく、人と人や企業と人をつなぐ食の場として捉える。日本在住の外国人に地域のナビゲーターとして活躍してもらい、海外から日本へ食の旅に来てもらおうという考えです。2020年だけのブームで終わらないように、人が循環する仕組みをつくっておきたいんです。

戸田:リアルなレストランもつくるんですか?

古田:ミラノやバスクで街づくりをしている人たちと一緒に作ろうとしています。このキーワードを投げかけたら、同じようなことを考えている世界各国の人から反応がありました。エリアや業界ではなく、コンセプトで人がつながる時代だなと感じます。

<完>

こちらアドタイでも対談を読めます!

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀