loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

Dentsu Design TalkNo.41

書籍『電通デザイントークVol.2』

小山薫堂×澤本嘉光「アイデアの種をどう育てるか」

2015/01/23

書籍『電通デザイントークVol.2』が2014年12月19日から好評発売中です。
今回はその中のSession1から、映画『おくりびと』などを手がけ、テレビ番組のプロデュースなども手がける小山薫堂氏と、ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ。」など、次々と話題のテレビCMを制作している電通CDC澤本嘉光氏が、映画の制作秘話やものづくりの姿勢について語り合ったその中身を少しご紹介いたします。

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

『おくりびと』の脚本ができるまで

澤本:小山さんはもともとラジオの放送作家出身で、「カノッサの屈辱」(※1)や「料理の鉄人」(※2)などの人気テレビ番組を手がけたり、大ヒットした映画『おくりびと』(2008年 ※3)では脚本を書かれ、映画自体も国内外でたくさんの賞を受賞しています。ほかにも、日光金谷ホテルという老舗ホテルのプロデュースや、ご出身である熊本県のゆるキャラ、くまモンのプロデュースにも絡んでいらっしゃる。一方で、大学の教授もされているし、食べるものに関してもものすごく造詣が深い。知識の幅が広い方で、全てのものについてツウって感じがしています。今日はそんな小山さんと、「アイデアの種をどう育てるか」というテーマで話してみたいと思います。

小山:よろしくお願いします。

澤本:では、まず映画の話をしましょう。僕が『犬と私の10 の約束』(2008 年 ※4)という作品で初めて映画の脚本をオリジナルで書いたときは、最初は単館上映で自分が思うことを表現しようと書いていたんですが、公開の規模が全国になってくるといろいろな事情が押し寄せてきて、そういう気持ちで書くものでは正直なくなってきたんです。色々な注文や条件がついて、それを解決していくという、途中から普段CM でしているクライアント相手の仕事のようになってしまったんですね。それで途中から、自分を表現しようという勝手なものではなくて、たくさんの人が見て楽しんで、きちんと心が動くものを作るというモチベーションで書き始めた。そこから、うまくいきました。おかげでメジャーなものにできたと思っています。小山さんの『おくりびと』は、死生観を扱っているのですごく難しい題材だったと思うんですけど、それをあれだけヒットさせたところがまず、すごいなと思っていて。脚本を書いていたとき、どんな気持ちだったのか聞かせていただければと思います。

小山:僕は、当てようとは全然思わなかったんです。主演を務めた本木雅弘さんが、青木新門さんという納棺師の方の書いた『納棺夫日記』というエッセイ集であり哲学書・宗教本みたいなものを映画にしたいと言っていると聞きました。それで僕もその本を読みまして、面白かったんですけど、映画にはなりにくいと思ったし、僕は伊丹十三さんの映画が好きなのですが、『お葬式』は絶対超えられないなと思いまして、一旦はお断りしたんです。それでもミニシアターで単館上映するような映画にするので、脚本は好きにどうぞと言われて自由に書いたら、原作は2割ぐらいで8割ぐらいが創作になってしまった。それで、本木さん側が原作者の方と話されて、最終的には原作という形ではなく、まったく新しいものとして書き直してくれと言われて、もう一回書き直して今の形になりました。この段階では具体的な制作についても、監督も決まってなかったので、ほとんど映画会社の人は入ってきていません。ですから、僕は幸運にも澤本さんのようなフラストレーションはまったく感じることなく、書き上げることができました。

澤本:うらやましいなと思うのと同時に、あれは脚本が良いから、難しい話もちゃんと笑えるんですよね。

小山:そんなことないです。脚本というより滝田洋二郎監督の力だと思います。

澤本:でも、死と生が隣り合わせで、死生観をふくめ描かれているなかで、そこに笑いを持って構成されているっていうところがすごくいいと思うんです。あれはやはりユーモアの要素があるからみんなが感じてくれるところもあったんですか?

小山:そうですね。そのままやると本当に重たいテーマになってしまうので、いかにあれを軽くするかということを考えまして、なんとなく思いついたんですけど。

澤本:書かれるときは、取材に何回も行かれたんですか?

小山:取材は、納棺師の人に1度だけ3時間インタビューをしました。それと火葬場のおじさんに10分話を聞いて、お坊さんにも1時間話を聞いて、それでベースを作りました。映画を専門にやっている人には怒られそうなんですけど。

澤本:でも、それで十分だったということですよね?

小山:ええ。たまたま話を聞いた人が面白かったというのはあるかもしれないですが、それで十分といえば十分でした。

企画はオリエンテーションを聞きながら思いつく

澤本:僕らの広告の仕事でも、クライアントに行ってオリエンテーションを聞いてきますけど、それも何時間も聞くわけじゃないですよね。だいたいは聞いているときに、思いついたりしませんか?

小山:はい。聞いているときに思いついてますね。あとプレゼンしてるとき。プレゼン中に、「あっ、この企画じゃないほうが面白い」と気づくこともあって、クライアントの方と話しながら、「わかりました。それはこういうことですかね?」と徐々に自分が思っていることを言って、そっちに修正しちゃうということもたまにあります(笑)。

澤本:そういうこともありますよね。

小山:ええ。CM は15秒とか30秒なので、ひとつ思いつけばできると思うんです。オリエンを受けるってすごく大切じゃないですか。広告会社から依頼される場合でも、自分もオリエンの段階で一緒に行ったほうがいいなと僕は思うんですけど、それは広告会社のしきたりとしていけないものなんですか?

澤本:いいえ、行く場合もありますし、行かない場合もあります。本当は行くほうが、やはりその場で考えつくことが多いので絶対にいいと思うのですが。クリエーティブの人たちがあんまり行きたがっていないということもあるかもしれません。面倒くさがっているのかもしれないですね。やり方もあると思うんですけど、基本的には僕もクライアントから直接聞いたほうが、考える量が少なくて済むと思っています。

小山:テレビ番組でも、作っているときに「ここをこう変えてくれ」という要望が来るんですよね。それは誰が言っているのかというのが非常に大切で、クライアントが変えたいと思っているのか、広告会社の人がクライアントの顔色を察知し、いち早く変えようと言って広告会社の段階で変えようとしているのか。あるいはテレビ局の営業が広告会社とクライアントの顔を見て変えたいと言っているのか。それによってすごく変わってきますし、こっちが混乱してしまう。それで変えて、いざクライアントに持っていったときに「なんで変えたんですか?」と逆に言われてしまったりする。ああいうのが非常に無駄だなあと思うんです。

澤本:無駄ですね。僕らで言うと、コマーシャルのオリエンを聞きに行って話を聞いているときに、例えば「職場をシチュエーションとしてください」と言われたら、職場にも色々あるので、「例えばで言うと、こういうことですかね?」と言ってみて、そのときのリアクションを見て、これはないな、と潰していくと、そんなに外れないなと思っているんです。だから、僕はオリエンの場っていうのは聞くというより、むしろ質問をいくつかして、いっぱい考える道のいくつかをふさいで方向を確定していくことをします。そうなるとやはり、自分が行ったほうが楽ですね。

 

<了>

※1【カノッサの屈辱】
1990年から1991年まで、フジテレビで放送された深夜番組。実際の世界史または日本史の出来事になぞらえて、現代日本の消費文化史をユーモラスに解説する。一見すると教育番組のような真面目な形式でありながら、歴史上の著名人や象徴的なビジュアルのパロディなどを用いた現代風刺で人気を博す。レギュラー役の「教授」として、俳優の仲谷昇が案内人を務めた。
 
※2【料理の鉄人】
1993年から1999年まで、フジテレビで放送された料理番組。番組が認定した「鉄人」と呼ばれる名料理人と、毎回ひとりずつ登場するゲストシェフとの料理対決を、有識者たちが審査する。鹿賀丈史による大仰な司会、調理風景のハイテンションな実況など、ケレン味の効いた演出でファンを獲得した。
 
※3【おくりびと】
2008年公開の日本映画。脚本:小山薫堂、監督:滝田洋二郎、主演:本木雅弘。所属するオーケストラが解散し、職を失ったチェリスト・小林大悟の再就職先は、死者を棺に納める作業を行う納棺師の仕事だった。周囲から納棺師という仕事の理解を得られず、家族関係でトラブルを抱えながらも成長していく彼の様子を描く。第81回アカデミー賞外国語映画賞などを受賞。
 
※4【犬と私の10 の約束】
2008年公開の日本映画。脚本:澤本嘉光、監督:本木克英、主演:田中麗奈。中学生のあかりは、ある日偶然拾ったゴールデン・レトリーバーを飼うことにした。前足の片方だけが靴下を履いたように白いことから、ソックスと名付けられたその犬は、それから10年間あかりと様々な困難に立ち向かっていく。あかりとその家族や恋人、そしてソックスを通じて描くファミリー・ドラマ。インターネットで広まった作者不詳の短編詩『犬の十戒』がモチーフとなっている。

本の詳細・購入はこちらをご覧ください。