loading...

ICT×教育No.3

保護者にも支持される、タブレットを使った教育システム

2014/12/01

立命館守山中学高等学校とイノラボが2014年7月にスタートさせた「SNSを活用したアダプティブラーニング(適応学習)」の実践プロジェクト。中学・高校の新入生約500人、一人一人がタブレットを持ち、教育プラットフォーム「RICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)」を通して、授業や家庭学習で新たな学びの環境を実現するという試みです。

運用開始から、約4カ月。生徒や先生方に受け入れられ、定着しつつあることは前回のコラムでもご紹介した通りです。では、気になる保護者の反応は、いったいどのようなものなのか…? 今回は、タブレット導入時の保護者の反応、今後の展望などについて語ります。

SNSを活用したアダプティブラーニング

「教育とICTは切り離せない」もの。保護者の理解が、RICSを後押しした

2014年4月、立命館守山中学高等学校に、約500人の新入生が入学しました。学校側が「春からアダプティブラーニングを実現したい」と説明したのは、入学式のわずか2カ月前のこと。入学説明会で初めて、保護者にタブレット端末の購入をお願いしました。

タブレットの購入を保護者にお願いする場合、受験前の学校説明会などでお話しするのが一般的。ですから、今回は異例のケースといってよいでしょう。説明会を行うまでは「高価なタブレット端末を買わされるなんて」「ゲームやSNSに熱中し過ぎて勉強しなくなったらどうするのか」といった拒否反応が起こるのでは…、と心配していたのですが、ふたを開けてみたら、皆さん意外なほど好意的に受け入れてくださいました。

私と同世代の保護者たちは、今の子どもたちを取り巻くインターネット環境について、十分に理解しています。例えば、塾からの成績や学習予定表をサイト上で確認したり、配布物をダウンロードしたり…。子どもの教育とICTが密接につながっていることを、体験を通して知っているのです。既にタブレットをお持ちのご家庭も多く、日常生活での利便性をしっかり享受しており、学習面でタブレットを利用することに対しては、そもそも抵抗が少ないようでした。

外に目を向けると、2011年あたりからタブレットを採用する私立中学・高校が登場しはじめました。「学習の質が高まった」と話題になったことなどもあり、「教育とICTは切り離せないものになってきている」という理解が進んだように思います。「自宅にWi-Fi環境がない」というご家庭は、ひとクラスで2、3程度。「入学前からタブレットを使った学習を実践していた」「合格祝いとしてタブレットを購入した」というご家庭もあり、保護者は学習におけるタブレット活用に対し肯定的であることを実感しました。

制限せずに「使わせること」が、成功への第一歩

「一人一人にタブレットを与えてしまうと、例えば、こっそり授業と関係ないサイトを見始めたり、チャットをしたりする生徒も出てくるのではないか…」、そんなご懸念を抱いている方もいらっしゃると思います。これまでいろいろな学校の公開授業を見学してきて、ごくたまにではありますが、実際に、授業と関係ないサイトを見ている生徒を見かけたこともありました(笑)。そんな時「こんなにたくさんの来校者がいるのに度胸がいいなぁ。すごいすごい」と私は思ってしまいます。

でも、このような事態は、決してタブレットだから起こっているわけではありません。昔から、授業中にラクガキしたり手紙を回したり、教科書をかぶせて漫画を読んでいる子どもはいたではありませんか。最近では、机の下でこっそりスマートフォンでゲームをしたりメッセージを送り合ったりしている猛者もいます(他校の話です)。駄目と言っても決して変わらなかったこと、これは今も昔も同じです。多様性を持った今どきの生徒たちを引きつける授業を展開するのは大変なことだと思いますが、魅力的な授業を行えば「よそ見問題」は解決するものと思います。

立命館守山では、アプリケーションやサイトの使用を制限するよりは、「まず使わせる」という方針を取っています。ただ、学校も子どもたちも保護者も初めての試みで不安が大きいのは確かです。基本は制限しない…とはいえ、やはり保護者からのリクエストはあり、いくつかのSNS系のアプリケーションは、MDM(Mobile Device Management)と呼ばれるデバイス管理の仕組みによりブラックリストに載るようになっています。指定のアプリを子どもがダウンロードした場合、該当する子どもの情報がICT推進の先生方にアラートとして届きます。先生方は、該当する子どもを呼んで、アプリケーションの削除を直接指示しています。また、中学生と高校生でもその心配の質は異なり、問題や課題が生じたときに、いかに共有・検討・解決し、乗り越えていくのか、まさに試行錯誤しながら進めています。

先生や保護者の側でRICSを管理して、子どもたちが閲覧しているサイトをチェックしたり、アプリに制限をかけたりすることも、機能として装備しようと思えば可能です。でも、教育ってそういうことじゃないと思うんです。子どもと一緒にICTを活用した教育スタイルを作り上げていく、今は挑戦の時期です。

蓄積されたデータで情報共有とあらたな発見が!

保護者も生徒たちも、期待感を持ってRICSに向き合ってくれているなと感じています。これまで見えにくかった「学習の進捗や理解度」や「先生や生徒同士のやりとり」が可視化されるおかげで、学校と保護者が情報を共有することが可能となりました。これらの情報は、今後、個人面談などにも活用されていく予定です。学校と保護者が、おのおの最適なタイミングで子どもたちに手を差し伸べたり、お尻をたたく(支援するの意味です…(笑))ことができるようになり、RICSを通して、これまで見えなかったわが子の傾向や特徴に気づくことができるようになるでしょう。

また、子どもたちは自分自身と向き合い、友達とのやりとりを通じて、やる気や気づきを高められる手段をひとつ手にいれました。

現代を生きていく子どもたちにとって、ネットを介したコミュニケーションはごく当たり前の手段です。これまでリアルでは見えてこなかった生徒同士の関係性が、RICSにより見えてきます。勉強でも運動でも同じ目標の友達に対し、保護者世代は「自分の頑張りを隠す」ことが主流でしたが、今は友だちに対してオープンに「一緒に頑張ろう」という感覚が主流です。単に学習の効率や成績を上げるだけでなく、意識の変化、学びに対する考え方の変化、友達との関係性の変化を知り、子どもたちがより能動的に主体的に学習できるように、蓄積データを生かし、質の高い学びの環境を追求していきます。

ICT教育やアダプティブラーニングというと、やれ「タブレットを導入した」だとか、「専用のアプリやプラットフォームを開発した」とかの事実ばかりが注目されがちですが、導入以上に、根付かせることの方が大変です。先生、生徒、保護者を巻き込みながら、しっかりPDCAサイクルを回していきたいと思っています。