ICT×教育No.2
運用開始から4カ月。着実に進化するアダプティブラーニング
2014/11/10
前回のコラムで、立命館守山中学高等学校とイノラボが2014年7月にスタートした「SNSを活用したアダプティブラーニング(適応学習)」の実践プロジェクト、その概要について紹介いたしました。
中学・高校の新入生と担当教師の約500人が一人一台タブレットを持ち、授業や家庭学習で最適化した教材コンテンツを活用するというプロジェクト。「RICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)」と名付けられたこの取り組みは、機能拡張をしながら着々と進行しています。運用開始から、約4カ月。学校にどんな変化が生まれ、先生からどのような声が上がっているのか、“アダプティブラーニングの今”についてレポートします。
「できた!」の声が湧き上がる、能動的な学習スタイル
RICSは、主に英語と数学の授業と家庭学習で活用されています。授業では、先生が準備した資料やあらかじめ出版社から提供されているクラウド上の課題を生徒の端末に配信し、生徒は配信された資料や課題を見ながら、答えを考え解説を参照し、正誤結果やコメントをタブレットに入力しています。課題が解けたら、すかさずタブレットをタップして「できた!」と通知。すると、この情報がクラス全員に行き渡り、「最初に課題を解いた生徒」が共有されるのです。「少しでも早く通知したい!」と、課題への取り組みが早くなったり、逆になかなか問題が解けなかった場合、タブレットを通して素直に「分からない、教えて」と質問ができるようになっています。早く出来た生徒は、まだ出来ていない生徒のフォローにあたる、そんな場面も見られるようになりました。また、先生は生徒の解答状況に合わせて、次に出す課題の難易度を変更したり、再度ていねいに解説をしたり質問に答えてあげることがリアルタイムで可能となりました。習熟度別のクラス分けをしなければ実現できなかったような授業が、習熟度が混在する一般のクラスでも行えるようになるかもしれません。
先生側の画面。課題を提出済みの生徒が一覧で確認できる。
任意の教材や資料を配信する仕組みは色々ありますが、RICSの特長の一つは個々の習得レベルに合わせたコンテンツアダプティブです。学校という先生が介在する場でのアダプティブは、全て自動でレコメンドすることが最善ではないのではないかと、プロジェクトメンバーは頭を悩ませています。先生がたが生徒の状況をいかに把握し、課題を選択しやすくするか、また家庭学習ではいかに生徒が迷わずに課題を選んで取り組めるか、実践を通じUIもロジックも変えていきます。
将来的には、個々の特性に応じたアダプティブ(書くより視覚・聴覚でインプットした方が効率的に学べる生徒もいます)も視野に入れていますが、今はデータを集めている段階です。課題の正誤結果のほかに、解答速度、正答率や間違いやすい問題傾向、学習手段など、さまざまなデータを蓄積し分析を行う事により、ICT活用だからこそ見え、授業に結びついていくことがあると考えています。
家庭学習面では、今は特定のレベルの生徒達をグループ化して、そのグループに応じた課題や教材配布を行っていますが、RICSのもう一つの特長であるSNS(コミニュケーション)機能が生徒達のモチベーションを支えています。一つの課題コンテンツに対し教え合ったり、学び合ったり、また近しい友人から教材を勧めてもらうことにより、一人で勉強しているという意識が低くなるようです。
2学期になってから、先生がたより「テストでも使えるように、課題を一斉配信する際の精度を上げてほしい」ですとか、「課題を確認したり、答え合わせをするときだけに使うのではなく、答えを入力できるような“タブレット完結”の仕組みをつくってほしい」などなど、RICSをより有効的に活用したいという前向きなご意見をいただくようになりました。
生徒の課題一覧画面。
こうした声を受けて新しい機能を追加すると、気付いた先生や生徒たちから「あー、変わってる!」なんていう、うれしそうな歓声が上がってくる。運用し始めてから、たったの4カ月ではありますが、着実に、学校が変わり始めているのを感じています。
先生にとってもうれしい、タブレットならではの魅力とは?
先生がたから評価されている点が、紙を用意する必要がなくなったこと。授業のたびに数十人分の資料を印刷し、整えるのは、とても骨が折れる作業です。ところがタブレット端末なら、一つの資料をアップするだけで、生徒にパパッと配信できる。「印刷の負担がなくなっただけでもありがたい」と、とても喜んでいただきました。
また意外だったのは、英語・数学以外の先生も、頻繁にRICSを活用していたという事実。アダプティブラーニング用の学習コンテンツは、英・数の2教科分しか用意していなかったのですが、教材がないにもかかわらずRICSを使われる先生が多く、中でも家庭科の先生がフル活用してくださっているとのことでした。若い先生だけでなくベテランの先生にも、広く受け入れられていると感じとても嬉しく思っています。
現在プロジェクトメンバーは英語、数学以外の教科についても、コンテンツを拡大していこうと教科出版社に対しコラボレーションのお願いをし、前向きに検討いただいています。この反応は2年半前の隠岐の島での実証実験ではなかったもので、時代の変化を感じています。
ICT教育の浸透には、コアになる先生の存在が欠かせない
一見、順調に運用されているように見えるRICSですが、課題がないわけではありません。
ITやタブレットが苦手な先生にとってはなかなか受け入れがたいようで、中には「まだ一度もRICSを使ったことがない」という先生もいらっしゃるのも事実です。この状況を打開するため先生がたから、「先生のためのポータルサイトをつくって、意見交換を行ったり、サポートをする体制を整えよう」という話も出ています。
また、中学と高校で、RICSの浸透度に少しだけ開きがあることも気にかかっています。中学生と高校生という年齢の違いをどう吸収し、そしてICT活用推進のコアメンバーとなる先生への負荷をどう軽減していくかが、カギとなりそうな気がしています。
今後も体制を整えながら、機能拡充、コンテンツ拡大を進めていきます。テクノロジーの力で、一人一人に合った自発的な学習環境を確立するために、立命館守山中学高等学校とともに新しい学びのカタチをつくり上げていきます。