半径ワンクリックNo.9
和田裕介(ボケて)×土屋泰洋:前編「ゆーすけべーの作り方」
2014/12/22
今回の「半径ワンクリック」は、人気ウェブサービス「ボケて」を開発する株式会社オモロキでCTOを務める「ゆーすけべー」こと和田裕介さんに、プランナーの土屋泰洋さんがお話を伺いました。前編では、和田さんがご自身でウェブサイトを作り始めてから、「ボケて」が誕生するまでを語っていただきました。
CDのセールスランキングとユーチューブを掛け合わせた
土屋:和田君とは大学が一緒で、当時からプログラミングしたり映像を撮っていた記憶があります。そこから、今の「ボケて」を作るまでのいきさつを教えてください。
和田:まず大学院卒業後、父親とワディットという会社を立ち上げました。何を事業にしようか考えて、少人数だと映像で稼ぐのは難しいから、それならウェブサイトか、その中身のシステムを作ろうと。プログラムのいいところは、エディターソフトと、それを確認するブラウザーだけあればいいっていうことですね。映像とは違ってレンダリングの待ち時間とか無いのがいい(笑)。
土屋:最初は、いろんな会社のウェブサイトを受注して作る、という感じだったんですか。
和田:そうです。でも知り合いのおばさんが経営しているブティックとか(笑)。「ネットショッピングやりませんか」って営業に行ったり、全然仕事にならなかった時期もありました。でも、仕事と関係なく自分で作ったウェブサイトを公開していたら、徐々に個人のプレゼンスが上がってきて「こういうの作れませんか?」って声をかけてもらえることが増えてきたんです。
土屋:2006年くらいですか。当時いろいろ作ってたよね!その中で手応えがあったものはありますか。
和田:当時いろんなサービスやコンテンツを組み合わせるマッシュアップという手法が流行っていて、CDのセールスランキングのデータとユーチューブを掛け合わせたら、テレビでやってるようなランキング番組がウェブで自動的に作れるなと思って。実際にやってみたら、見応えのあるものができたんです。当時はユーチューブでプロモーションビデオを見るっていう文化や作法が今ほどなかったので、かなり話題になりましたね。
土屋:なるほど。今やアーティストが新曲出したら、ビデオを自らユーチューブにアップして多くの人に見てもらうのが当たり前だけど、当時はまだ自ら上げる人は少なかった。
和田:そうですね。だから、この企画はむしろ今っぽい考え方かも。インターネットで曲を知って、気に入ればCD買うし、ライブも行くし、音楽に出合う機会自体が増えるのは単純に良いことだと思っていました。
土屋:これはマネタイズしたんですか。
和田:ほとんどなかったけど、サービス自体を「買いたい」っていう会社がいました。頓挫したけど。
土屋:すごい!「サービスを丸ごと買うよ」と。じゃあ結構トラフィックはあったんですね。
和田:ユニークのユーザーとしては、かなりあったと思います。
土屋:どういう人に見られているか、分析はしてましたか。
和田:当時は分析ツールもなかったし、してなかったですね。でも『ネットランナー』という雑誌から賞をいただいたりしたのですが、聞いた話だと、いわゆるコアなネットユーザーというよりも、主婦や一般の人たちが見てくれていたようです。
情報を発信することで勉強会でぼっちにならずに済んだ
土屋:その頃、そうしたサービスを「こうやってつくりました」みたいな話を、当時からブログで公開してたじゃないですか。そこにプログラマーたちが集まってきて情報交換していた印象があるのですが、そこから仕事につながるような広がりはありましたか。
和田:今もそうですけど、ブログはすごく影響力が強い。自分のブログは基本技術者しか見てないからなかなか直接仕事にはならないけど、そのかわり仲間というか「困った時には、この人に聞けばいい」というような関係ができました。あとは、エンジニアとして憧れる・憧れられるという関係値もあって、ロールモデルができたり、そういう関係が勉強のモチベーションになっていましたね。東京近辺ってエンジニアの勉強会がすごく多いんですよ。「IT勉強会カレンダー」っていうのをグーグルカレンダーで作ってる人がいて、それを見ると曜日によっては1日10件以上あったりする。
土屋:そんなにあるんですか!? 和田君自身も勉強会を主催していますよね。
和田:やってますね。この前は渋谷ヒカリエで場所を借りて、80人ぐらいの規模で勉強会をしました。20分のトーク、10分のトーク、5分のトークを何本かずつ入れて、その後に懇親会というような感じです。
土屋:勉強会は、例えばプログラミング言語や領域ごとにいろんな種類があるわけですか。
和田:言語別だったり、あとはデータベースのサーバーの種類によっていろんな勉強会がありますね。
土屋:なるほど。それぞれ先鋭化した世界があるんですね。
和田:広いところでは、例えば「デブサミ(Developers Summit)」っていうイベントがあります。少し前まではエンタープライズ寄りだったけど、今はウェブに近づいてきている。前回は、僕もキーノート的な立ち位置で参加しました。
土屋:ウェブ関係の勉強会が増えているんですね。
和田:どうしてもそうなりますね。ゲームなんかもそうですが、どんな分野でも今や必ずウェブとつながるので、ウェブ関係の勉強会はものすごく盛んです。
土屋:ウェブサービスをつくったり、ブログで仲間ができたり、そうした勉強会に参加したり主催するうちに「ゆーすけべー」としてのプレゼンスが出てきた感じですか。
和田:そうですね。ブログでもTwitterでも、続けていると勉強会でぼっちにならなくて済むんですよ(笑)。急に勉強会に行くと「積極的に話し掛けないと!」ってなるけど、ブログとかTwitterで勉強会に行くことを発表すると、「あの記事書いた人ですよね」とか「あの記事読みましたよ」って声をかけてくれるんですよ。
土屋:名刺代わりになる。
和田:そうそう。逆に、ブログやTwitterを書く習慣がないとか、会社に縛られて情報発信を制限されてると、キビしいと思う。
土屋:確かにそうですよね、情報発信をしていない人は、そもそもどういうことが得意で、どういうことに興味があってみたいな、人となりが分からないですもんね。今いろんな会社や団体、個人が勉強会を開いていて、その中でエンジニア同士の交流もあったりすると、自然とその勉強会を通じて転職の機会が生まれたり、といったこともありそうですね。
和田:「知の高速道路」という言葉がありますが、勉強会って企業にとっては「人事の高速道路」でもあるんですよね。
土屋:やっぱり、すごいって評判のエンジニアがフリーだって分かったら「うちの会社にきませんか?」ってなりますよね。
和田:実際にブログでフリーエージェント宣言したら、すごい数のオファーが来たって人がいました。その人は、自分で書いたソースコード、つまり成果物を全部公開していた。オープンソースに貢献することで、自分の実力を見てもらえるわけです。
土屋:自分が書いたソースコードを、例えば「GitHub」(ソフトウエア開発プロジェクトの運営をサポートするウェブサービス)で公開していて、そのURLさえ送れば「この人が、あのライブラリ作ったんだ!」みたいのが分かるんですね。
和田:実際に、優秀なエンジニアは履歴書が自分が開発したライブラリのリストが載ったURL1行だけだったっていう伝説もあるくらいなんですよ。
土屋:URL1行! もう、見れば分かるって感じなんですね。腕は確かなのは分かった! じゃあ「この魚をさばいてみてよ」って。流れ板みたいですね。キーボード1台だけ持って日本を流れ歩く…、みたいな(笑)。
和田:本当に、そういう世界ですね。
すでに世の中にある情報でサービスを作る
土屋:ウェブサービスを開発している企業だと、優秀なエンジニアが集まって、みんなで開発作業をしていると思うんですが、和田君はウェブサービスを作る時には一人で開発していたんですか。
和田:当時は一人でやってました。だから、そのうちメンテナンスできなくなって「ごめんなさい、やめます」みたいな感じ(笑)。
土屋:以前、男性向けサイトも開発してましたよね。
和田:それは今でもメンテナンスしてますよ。
土屋:あれも、いろんなサイトのサーバーにあるファイルをひっぱってきてランキングにする仕組みですよね。
和田:もともと動画を紹介するサイトやブログって、広告へ誘導するためのだましリンクが多いという問題があったんです。それで、女優さんの情報と動画共有サイトの動画をうまく紐付ける仕組みを開発して、それを使ってデータベースを作っていった感じです。
土屋:なるほど。だましリンク以外の正しいリンクだけ効率よく抽出してリストアップするサイトを作った、ということなんだ。
和田:そう。今で言うキュレーションですね。
土屋:確かに(笑)。情報のソースになるサイトやブログは、手動で筋のいいソース、いわばホワイトリストみたいなものを作る感じなんですか。
和田:それって難しいし大変じゃないですか。だから、まず女優名のリストを自動的に生成するような仕組みをつくるんですよ。これは例えばウィキペディアのデータを使うという方法があります。さらに、グーグルのブログ検索やツイッターで女優名が書かれている記事を探してくる。
土屋:なるほど。自動巡回させて、どんどん学習させていくんだ。すごく分かりやすいですね。
和田:今って、「SmartNews」とか「Gunosy」、それこそ「Naverまとめ」もそうですけど、情報をつくるというより、どうやって見せるか、どういうタイミングで見せるか、どういう体験をさせるかってことが重要で、すでに世の中にある情報を整理することでサービスをつくる傾向があるのかなと思ってます。
土屋:先ほど和田君が言ってた「マッシュアップ」っていう手法自体がそもそも、すでにあるデータや記事など別のサービス上で自然発生的に増えていくリストを掛け合わせて新しい価値をつくる、という考え方ですもんね。
和田:例えば、ブックマークサービスで、みんなが欲しいって言ってるモノだけをピックアップして、アフィリエイトをするという浅ましいサイトを作ることもできますよね(笑)。
土屋:情報の流れを常に監視して傾向をつかんで、そこをいかに自動化するか、みたいな発想がサービス化しやすいんですかね。
和田:ただ、やっぱり人様の情報はコントロールしにくいし、つまんなくなったら本当つまんないんですよ。キラーコンテンツにはなり得ない時もあるので、マネタイズはしにくいんです。
ウェブ上の1次ソースをつくるサイトとしての「ボケて」
土屋:では、そろそろ和田君が会社としてやっている「ボケて」の話を伺いたいと思うんですが、まず「ボケて」はいつスタートしたんですか。
和田:先ほど話をした父親と一緒につくった会社とは別の「オモロキ」っていう会社で、2008年の9月からサービスを始めました。大学時代からの友人でオモロキ代表の鎌田武俊と2人で、横浜のアパートにこもって、大体2カ月で作りました。
土屋:たった2カ月で作ったんですか!?
和田:大体2カ月あれば作れると思いますよ。「ボケて」は、ユーザーが情報を作るウェブサービスで、お題の画像が投稿できて、それに対してボケのテキストを投稿する。例えばヒラリー夫人が何か指をさして目を見開いている写真があったとしたら、「はい、UNOって言ってないー!」ってテキストをつけてみる、とか。
これは勢いのある方のボケなんですけど(笑)。「ボケて」は、こういうボケをどんどん生み出して、みんなで評価していこうというCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)のサービスです。いままでつくっていたサービスが人さまのコンテンツを整理して見せるというものだった一方、「ボケて」はいわば情報の一次ソースをつくるサイトです。
土屋:そもそも「ボケて」を始めようと思ったのはなぜですか。
和田:すごい単純で、鎌田とオモロキを立ち上げて「なんか2人で作りたいよね」って…そう言うとなんか気持ち悪いけど(笑)、まず何を作ったら面白いか話して、出てきたアイデアを実装したんです。
土屋:もともと大喜利やお笑いが好きだったんですか。
和田:僕も好きですが、鎌田がとにかく好きなんですよ。学生時代はバラエティー番組を全部録画してましたからね。ボケてのアイデア自体は、「一人ごっつ」や「ボケましょう」に近いですよね。
土屋:今オモロキは何人いるんですか。
和田:オモロキ自体は6人で、エンジニアは僕1人です。規模が大きくなるとマネジメントが必要になるじゃないですか。僕らはそれが嫌で、自分の担当を全うできる人をオモロキのメンバーにして、パートナーという形でアプリを開発する専門の会社さんと、広告関連の会社さんという座組みでやっています。受託とかそういう関係じゃなくて、レベニューシェアです。完全に対等な関係でやるというのを大切にしてるんです。
土屋:「ボケて」はアプリも人気ですよね。アプリは、今どのくらいダウンロードされているんですか。
和田:今で400万ダウンロードくらいです。PVは、ウェブとアプリ合わせて月間2億PV以上で、その9割がアプリからの利用です。
土屋:ところで、ボケの元ネタとなる画像は、どこから持ってきているんですか。
和田:基本はユーザーが撮影した画像を投稿してもらう形です。あと今は「flickr」のCC(Creative Commons)ライセンスの画像も使えるようになっています。
土屋:いろんな企業さんとコラボもしていますよね。
和田:そうですね。企業さんに写真を提供してもらって、ユーザーにボケてもらう。そのボケが面白ければ、みんな見るから広告になるよねってことで、パッケージにしています。
土屋:なるほど。確かに面白いネタが生まれれば画像が自然に広まってくれるわけだし、キャンペーン的な用途にも向いていますよね。
和田:ずっとやってくれているのが講談社の「Dモーニング」さんです。「Dモーニング」には「会長 島耕作」が連載されているから、権利的に問題ない島耕作の画像でみんながボケることができるという(笑)。
土屋:それは楽しい(笑)。
和田:編集者さんも乗り気で、熱心に素材を提供してくれるんですよ。あとは宮崎県とのコラボというものもやっていますね。宮崎の面白スポットと連動するというものです。
(次回につづく)