loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

前に進め、30オトコ。No.4

クリープハイプが贈る、30オトコへの応援歌(後編)

2015/01/05

ロックバンド・クリープハイプが30オトコのために作ったテーマソング――。それが、「二十九、三十」です。企画したのは、30オトコを応援するプロジェクトチーム「THINK30」のメンバーたち。クリープハイプ・フロントマンの尾崎世界観さんと、「THINK30」メンバー・阿部広太郎さんが、楽曲に対する思いや制作秘話を語ります。(前編はこちら

“作りたいもの”と“世間が求めているもの”が重なることで、僕たちは報われる

阿部:「二十九、三十」の中で、僕がもっとも好きなのが出だしの歌詞。「いつかはきっと報われる いつでもないいつかを待った」、この言葉に、グッと心をつかまれました。
僕はコピーライターとして、日々の仕事の中で無数の言葉を考え、書いています。なかなか採用されなくて「報われたい、報われたい」と強く願いながら仕事をしていた時期もありました。だからこそこの歌詞にとても共感できたし、励まされました。

尾崎:「二十九、三十」では、楽曲作りに取り組む“今の自分の姿”を、そのまま歌詞に落とし込みました。ただ自分が作りたいものを好きなように作るんじゃなくて、人に評価され、結果を出し、きちんと報われたい。僕の中で、認められることが報われることにつながっているんですよね。

阿部:それ、とてもよく分かります。プロフェショナルとしてなにかを作る以上は、人に認められることが欠かせないわけで。“作りたいもの”と“世の中が求めているもの”がぴったりと重なり合って、はじめて“報われる”んですよね。

尾崎:いま思えば、スタート地点に立つことだけを目指していたインディーズ時代は、本当にラクだったなあと思います。メジャーデビューして曲を出せば出すほど、“作りたいもの”と“世の中が求めているもの”の違いも見えてくる。かといって、割り切って世の中が求めるものだけを作ることもできないし。僕は、自分がいいと思ったものを世の中に送り出し、投げかけて、みんなにもいいと認めてもらいたい。そうじゃないと意味がないと思っています。

阿部:そういうジレンマに苦しむのが、いわゆる僕ら30オトコの世代なのかもしれませんね。

オトコには、「恥ずかしい位いける様な気が」する瞬間が必ずある

阿部:もうひとつ、「分かるなあ」と思った歌詞が、サビの「あーなんかもう恥ずかしい位いける様な気がしてる」というフレーズ。広告クリエーターなら誰しも一度は経験したことがあると思うんですが、夜中にひとりで企画書を作っているとテンションが上がってきて、「すごいの思いついた!」とか「これ、いけるんじゃない?」とか、つい自分の作ったものを過大評価してしまう瞬間があるんですよね。で、翌朝、見返してみて、「そうでもなかったな」って落ち込む(笑)。尾崎さんは、人知れずボツにした歌詞のフレーズもたくさんあるんですか?

尾崎:それが、ほとんどボツにしたことがないんですよ。前編でもお話しした通り、僕にとって歌詞は、からっぽのチューブを絞り出して、やっと少しだけ出てくるような貴重なもの。だから無駄にできないし、そもそも「無駄になりそうだな」と思ったら、その時点で書きません。書いたからにはきちんと使いますね。
そのあとは、たぶん阿部さんと同じです。「いける!」と思い、「どんな反応が起きるんだろう?」と想像して、ワクワクしながらバンドのメンバーや世の中に投げかけます。自分がいいと信じて作り抜いた曲なので、自信もあるし、覚悟もある。それでも少しだけ、反応が怖いという気持ちもあって。でも不思議と、“出さない”という選択肢を選ぼうという気にはならないんですよね。やっぱり僕は“報われたい”んだなあと、そう思います。

異業種クリエーターとのコラボによって、進むべき道が見えてくる

阿部:尾崎さんは、他ジャンルのクリエーターとの交流もたくさんありますよね。なぜ、他ジャンルの方と積極的に関わりを持つようにしているんですか?

尾崎:いいものや心引かれるものを出している人が純粋に気になるんですよね。僕が責任編集を務めた雑誌『SHABEL』でご一緒した詩人の谷郁雄さんは、当たり前で大切な言葉を、いつもとてもていねいにつむいでいらっしゃる。純粋に「すごい」と尊敬しています。

阿部:僕も谷さんの詩、大好きです。特に「恋」という詩。最後のパラグラフにちりばめられた言葉が、ドキッとして。いやもう、たまらないですよね。

尾崎:さらにすごいのが、ご本人がとても無邪気な方だというところ。ちょっとせっかちでやんちゃな、少年みたいな方なんですよ。書いている詩とのギャップが、またいいんですよね(笑)。

阿部:同世代の方とはどうでしょうか?積極的に関わりたいと思っていらっしゃいますか?

尾崎:はい。異業種のクリエーターを巻き込んで一緒になにか新しいことをやる、という動きは、30代でないとできないというか、30代だからギリギリできるのだと思います。いまのうちに同世代の異業種クリエーターと仕事がしたい、という気持ちはありますね。
そういう意味では、阿部さんとの仕事も刺激になっています。僕が書く歌詞は、トゲや毒を盛り込んだジャンクフードのようなものだけれど、阿部さんをはじめとする広告クリエーターの方が書く言葉は、余計なものをそぎ落として、でも栄養がある“鶏のささみ”みたいな言葉だな、と(笑)。多くの人の心に意識しなくても入ってしまうような言葉を、考え抜いて作っていて。僕はそういう言葉の作り方をしたことがなかったので、びっくりしましたし、「だったら僕はこのまま行こう」という、ある種の確信のようなものを得ることもできました。

阿部:そう言っていただけると、うれしいです。僕をはじめとする広告の人間も、尾崎さんのようなアーティストといっしょに何かつくりたいという気持ちはありますし、そういう成果を残していきたいです。

尾崎:僕は去年の11月に30歳になったばかりなんですが、30歳になっても、特に変わったことはありませんでした。ただ、人がずっと同じところにとどまり続けているということはありえないわけで。変わらないと思っていても、少しずつ、なにかが変わっているのだと思います。だから「変わらない」という事で変わっているんだと思います。「二十九、三十」の中にあるのは、変わらないようで変わっている、等身大の自分の姿。迷い、苦しみ、楽しんでいる、今の自分そのものです。これからも嘘をつかず正直に、自分を表現していきたい。自分に分かる本当のことだけを、素直に、歌い続けたいと思っています。

<完>