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前に進め、30オトコ。No.3

クリープハイプが贈る、30オトコへの応援歌(前編)

2014/12/29

心に刺さるような切ない歌詞、疾走感あふれるメロディー、そして、中性的なハイトーンボイス……。独特の魅力で多くのファンを虜にし続けているロックバンドが、クリープハイプです。フロントマンの尾崎世界観さんに、30オトコを応援するプロジェクトチーム「THINK30」のメンバーでもある電通の阿部広太郎さんがインタビュー。30オトコの応援歌「二十九、三十」についてお聞きしました。

30オトコの背中を押す、テーマソングを作りたい

阿部:僕がクリープハイプを知ったのは3年ほど前のこと。クリープハイプをたまらなく好きになって、いてもたってもいられなくて、2013年にレコード会社の方にラブレターのような企画書を持ち込みました。
今ではジャケットのデザインや宣伝のクリエーティブを任せていただけるようになって、あらためて振り返ってみると奇跡のようだなぁと感じています。
「二十九、三十」は、「THINK30」をいっしょに立ち上げた大貫元彦くんを中心に、「30オトコをテーマにした歌がほしいよね」「社会で奮闘する30オトコの背中を押すような主題歌があったら、どれほどすてきだろう」と話したことがきっかけで始まった企画です。尾崎さんは今年(2014年)ちょうど30歳を迎えるし「これはもうクリープハイプしかいない!」と思いました。TOKYO FMで待ち伏せして尾崎さんにプレゼンをしたことは、今でも忘れられません。
いきなりわーっと押し掛けていって、立ち上げたばかりの「THINK30」や、30オトコについての思いを熱く語ってしまったわけですが……、率直なところ、あのときどんなふうに思われました?

尾崎:自分と同世代の人たちが新しいことを始めようとしている、という事実を、素直に面白いなあと受け止めました。「どうなるか分からないけど、やりたいからやる」みたいな動きがいいなあと感じたし、30歳前後の人たちにしかできないようなことを進めようとしているところにも力を感じたし。その手助けを僕ができるならうれしいなと思いましたね。

阿部:オファーを受けて楽曲を作る、ということに抵抗はありませんでしたか?

尾崎:まったくありませんでした。僕、どっちかというと、オファーを受けて楽曲を作る方が好きなんですよね。期待しているから声を掛けてくれるわけで、求められているという実感を得ることができる。
むしろテーマがあるということに面白さや挑戦のしがいのようなものを感じます。それに、どんなお題であっても、結局は自分が作った、自分らしい曲にしかなりませんから。狭くてニッチなテーマほど燃えますね。

30オトコは「得をすることより損をしないことを選ぶ」?

阿部:僕が所属する「THINK30」はプランナー、コピーライター、デザイナーなど、企業のワクを超えたクリエーターが集まって、日々、30オトコを応援するためのプロダクトや企画を考えています。
チームを立ち上げて、最初に行ったのが、30代の男性1000人を対象にしたオリジナル調査。
主に「仕事・プライベート・コミュニケーション」の3つの項目に関する質問を行い、30オトコの意識と行動を分析しました。その結果、浮かび上がってきたのが、「ロールモデルとなるような人物を持たない」「得をすることより損をしないことを選ぶ」などの特性です。尾崎さんご自身も30歳になられましたが、30オトコから見て、これら“30オトコの特性”をどのようにお感じになりますか?

尾崎:分かるような気はします。僕自身も、特に目指している人がいるわけではなくて。あくまでも自分自身が、このやり方でどこまで行けるのかを試したい、と思っているだけなので。ただ、「損をしないことを選ぶ」ということはありませんね。
例えば、「結果が分からない方がラクだから曲を出さない」という選択肢は選ばない。選ばないというより、選べないと言った方が正しいかもしれません。どんな結果が返ってくるかも分からないし、曲が人の心に届かないことによってつらい思いをすることも少なくありません。けれど、世間に問いかけなければ、なにも始まらないんです。問いかけずにはいられないというか、衝動的に問いかけてしまうというか。
誰かの人生を変えるぐらいのつもりで曲作りをしているので、それを届けたい一心ですね。

からっぽの状態から、言葉を絞り歌詞をつむぐ

阿部:制作中、「歌詞が出てこない」と、かなり悩んでいらっしゃいました。あのとき、どんな気持ちだったのでしょうか?

尾崎:同世代の人になにを言ったらいいのか、見えてなかったんです。僕の原動力は、ただただ「人に認められたい」という気持ちで、「こういうメッセージを伝えたい」とか「誰かの気持ちを代弁したい」みたいな、激しい衝動と同じくらい、その気持ちが強いんです。
「二十九、三十」のときに限ったことではなく、どの歌を作るときもそうなんですが、使い切った歯磨き粉を想像してもらえると分かりやすいと思います。限界までチューブを絞り出して、ぺったんこになっているようなイメージ。絶対なにも出てこない、もう書けないという状態から始めて、絞って絞ってむりやり言葉を生み出している。とても苦しい作業ですが、こうしないと、絶対にちゃんとした歌詞は書けません。言いたいことがたくさんあるときほど言葉がぼやけて無駄になる。だから一回からっぽにして、なにもないところからスタートしなくちゃいけないと思っています。
「二十九、三十」は、言葉が出てこない今の状態をありのままに歌詞にしようと思って書き上げました。確かレコーディングの最中も書いていて、ギリギリの段階で、なんとか間に合わせることができました。

阿部:まさに極限状態ですね……。きっといろいろな意味で限界だったからこそ、ああいう“刺さる”歌詞が生み出せたのでしょう。

尾崎:そうかもしれないですね。歌詞が出来上がるたびに「もうダメだ、これ以上、絶対に書けない」と思います。でも、そう思うことで、スタートラインに立つことができる。どうしようもないつらさや、あとがない苦しさに押しつぶされそうになりながら、どこかで“始まり”にドキドキしている自分がいるんです。からっぽからなにかが生まれる、そういう瞬間を、僕自身が楽しみにしているのかもしれません。

※対談後編は1月5日(月)掲載予定