loading...

「オリーブ少女」がひもとくカワイイ文化

2014/12/26

    1982年に創刊され、2000年の休刊から10年以上がたった今でも世代を超えて支持されているファッション誌オリーブ(Olive)。2015年に出版元のマガジンハウスが創立70周年を迎えることを記念し、「オリーブプロジェクト2015」と名付けられたプロジェクトが始動。12月15日、東京・汐留の電通ホールでそのキックオフセミナーが行われ、「オリーブ少女の心をつかむものは何か」をテーマにレクチャーやトークショーが繰り広げられた。

    読者目線も交えてオリーブ的「かわいい」を分析

    金沢21世紀美術館・高橋氏

    セミナー冒頭に登場したのは、金沢21世紀美術館で学芸員を務める高橋律子氏。日本の少女文化に詳しく、自身もオリーブ読者だったという同氏は「『オリーブ』ルール」ということばを用いながら、今や世界共通語になった「かわいい」の変遷を切り口にオリーブが表現してきた世界観を紹介した。

    ファッションの文脈で「かわいい」が使われ始めた1960年代は「『愛らしい』『美しい』という表現から転化した、ロマンチックな世界観をあらわす言葉だった」と同氏は分析。その後70年代に入ると、ハローキティ人気や少女漫画ブームなどにより、「キュートで乙女チックであることが『かわいい』に変容していった」という。

    そのような時流の中で、80年代に登場したオリーブは「あえて60年代的な世界観を背景にした『かわいい』を前面に出していて、とても勇気を持った『かわいい』だった」と高橋氏。高校生をターゲットにしていたこの雑誌は、フランスのリセエンヌ(lycéennes、仏語で女子高生の意)をファッションアイコンにして、「『かわいい』はロマンチック」だと定義。当時主流だったキュートなかわいさと一線を画していたことがオリーブのアイデンティティーだったと述べた。また、「オリーブのリセエンヌ像はセンスがあってチープシック(おしゃれだけれど自分たちの身の丈にあった服・物選び)で、自分なりの工夫で『かわいい』をつくり出すという精神が宿っていた。」とも語った。

    これらの異なる時代背景から生まれた「かわいい」の違いを高橋氏は「70年代に浸透した『かわいい』は友人など他者との共感によって醸成される、コミュニケーションが根底にある『かわいい』で、一方のオリーブが目指したロマンチックな『かわいい』は、自分の身の回りや世界観をかわいくしたいという内省的な『かわいい』」だと解説。このオリーブ的な「かわいい」が、現在30~40代の元オリーブ少女と呼ばれる女性たちや、元オリーブ少女の家庭で育った「お母さんはオリーブ少女世代」(高橋氏)の若い世代の間で、ファッションだけにとどまらず、ライフスタイルの羅針盤として生き続けているとまとめた。

    当時のスタイリストを囲みオリーブの魅力に迫る

    高橋氏のレクチャーに続いて、当時オリーブでスタイリングを行っていた大森伃佑子氏と、雑誌GINZA編集長の中島敏子氏もステージに上がり、高橋氏も交えた3人で「あの頃の『オリーブ』」と題したトークセッションが行われた。

    3人の中で唯一オリーブの編集に携わっていた大森氏は、編集部を「まさに女子校でしたね」と振り返り、チーム内が女子校的な雰囲気だっただけでなく「全員が生徒のようで、その意味では読者と同じ気持ちでページをつくっていました」と、作り手として読者目線を常に意識していたことも語った。

    また、「同じ出版社にいながら、オリーブ編集部を『かわいいことやっている人たち』と憧れながら見ていた」という中島氏。現在GINZAの編集長を務める目線から、当時の女性誌としては画期的だったアウトドアファッション特集など編集の切り口にも独自の魅力があったと述べると、大森氏は「雑誌は編集長のものと考え、編集長のカラーの中でいかに各自が遊べるか」を意識していたと答えた。読者のお手本になる世界観を出すため、コーディネートに値段の制限があったことや、店舗で売っている服以外は掲載しないといった“校則”を守りつつも、モデルに下駄を履かせるなど自由な作り込みをしていたという。高橋氏、中島氏も「ファッションページだけでなく、太宰や村上といった文学や映画などサブカルが取り上げられていたのも女の子の感覚に深くさ刺さった」「何を買うかより、どう着るかのお手本だった」と読者目線でコメントした。大森氏も「インターネットがない時代だったので、たとえば輸入雑貨のカフェボウル1つなどからいろいろなものをくみ取っていた」とインスピレーションの源についても回顧した。

    (左から)GINZA編集長・中島氏、スタイリスト・大森氏、金沢21世紀美術館・高橋氏

     

    時代を越えて生き続けるオリーブが復刻

    最後に中島氏は、今年5月にGINZAの中でオリーブを特集したところ、「10ページの特集でも1カ月間SNSの拡散が止まらないほど反響がすごかった」ことから、2015年3月12日発売号のGINZAでも別冊付録でオリーブが“復刊”することを発表。5月の特集に続きスタイリストを担当する大森氏も「他のメンバーと一緒にオリーブのバックナンバーを読むところから始めています」とコメント。

    また復活企画の背景には、元オリーブ少女たちからの根強い人気のみでなく「2015年春夏のパリコレを見てもピュアでナチュラル、そしてしなやかな女性がクローズアップされている。ハイヒールで肩ひじ張ってというスタイルが全盛の時代とは変わってきていて、オリーブの世界観とシンクロしてきている」ことも追い風になっていると中島氏は語った。