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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.48

大学生に伝えたかったこと

2015/01/22

前回、あん餅のお雑煮(高松)について書いたところ、会社のとある先輩から「秋田の正月は納豆汁だぜ」とレシピをいただきました。早速教わった通り、細かくすりつぶした納豆の味噌汁に、里芋、豆腐、油揚げ、わらびを入れてつくってみると、ヌルヌル、トロトロが楽しい一品が出来上がりました。そういえば秋田県人が愛してやまないハタハタの鍋も卵のヌメリが特徴です。粘り気のある食感が好きな県民性なのでしょうか。

セリ
セリ

でも、今回の主役は「納豆汁の仕上げには農家をやってる兄貴が育てたこれを入れると良いよ」と頂戴した芹(セリ)。「必ず根っこも食べてね」と言われて恐る恐る口に運んだのですが、これが旨いのなんの。芯のところというか、株の一番下のところはほろ苦さが甘く、香りも豊かで。根はちょっとエノキダケにも似たシャクシャクとした歯触りが楽しくて。あっという間に食べきっちゃいました。スーパーの店頭でも通年入手できるセリですが、旬は2月から4月だそうで、鍋が恋しくなるこの季節にぴったりの野菜です。

「この季節」といえば、大学ではそろそろ期末試験が始まります。1年間、毎週毎週顔を合わせていた学生さんともお別れです。
慶応義塾大学のメディア・コミュニケーション研究所では「広告特殊講義」を担当したのですが、さて。何か学生さんたちのお役にたてたのでしょうか。

学生
これが今年の学生さん(撮影:インド帰りの堀江さん)

履習者全員の顔と名前を覚えるだけでもひと苦労だったこの授業のメインテーマは「アイデアのつくり方」でした。ぐるぐる思考でいろいろな課題に取り組んだり、世の中のイノベーション事例の中にあるアイデアについて議論したり。将来、どのような分野へ進むにせよ、知識労働者として働く限り身につけた方が良いアプローチについて考えたつもりです。

でも…実際はどうかなぁ。1週間前の記憶ですら怪しかった彼らが、1年後、その詳細を記憶しているとも思えません。自分の学生時代を思い返してみても、あまり期待しない方が良さそうです。

それでも「これは心に残ればいいな」と思っていたのは「言葉の定義をしっかりしよう」ということ。別の言い方をすれば「一見格好の良い専門用語を連発することで何かをやっている気になるのはやめよう」ということです。なので講義でも極力専門用語は使わず、中学生レベルの単語で議論をしました。残念ながら社会人の中にも「戦略」「課題」「コンセプト」「マーケティング」「デザイン」といった単語を曖昧な意味合いで便利に使っている人が大勢います。たしかにこの種の言葉に「リードマネジメント」や「コンテンツマーケティング」「共創コミュニティー」といった流行語を混ぜれば、なにかとても素敵な感じがしますよね。でも学生の皆さんはそういうワナに落ちてほしくない、もっと本質的に考える習慣をつけてほしかったのです。

とはいえ、どうかなぁ。ぼくだって時々「便利な言葉」を使って思考を誤魔化すことがあるもんなぁ。となると最後の一点。せめて、せめてこれだけは覚えていてほしいと願うのは「仕事って面白いぞ」ということです。

もちろん会社生活には楽しいこともつらいこともあります。でもぼくの場合、何を伝えれば人の気持ちを動かすことができるのか、あれこれ考えるのが大好きです。テニスをするときも、居酒屋でクダを巻いているときも頭の片隅では取り組んでいる課題のことをちょろちょろ考え続けています。仕事とプライベートについて考える「ワークライフバランス」はとても大切な概念だと思いますが、とはいえワークとライフはそんなに簡単に分けられるものでもないと思うのです。

柳宗悦や濱田庄司とともに民藝運動を推し進めた河井寛次郎は、「別の生涯をもし与えられたとしても、やはり陶器を作りたい。今まで自分のして来たようなよくない言動などないような、仕事一方の清純な生活を送りたい」というような言葉を残しています。
広告会社の一サラリーマンが日本を代表する陶芸家の言葉を引用するのもおそれ多いことですが、それでもこんな風に考えられるなんて、とても素敵な人生だと思います。ぼくの講義が、前途洋々たる若者の好きな仕事にチャレンジする小さなきっかけにでもなったら、というのが密かな願いだったりします。

ともあれ5年後、すっかりたくましくなった彼らと一杯やる日が待ち遠しいです。若者の話をすると、どうも文章が老けちゃいますが、仕方がない。セリの苦みが美味しい年齢になっちゃったんですもんね。

セリのおひたし
セリのおひたし

それでは、また次回。

どうぞ召し上がれ!