ICT×教育No.5
教育ICTが動き出す! 「エデュカッション」レポート
2015/02/02
今回は、2014年10月~12月の間に行われた、「エデュカッション」についてレポートします。
2014年10月17日に、通算5回目、約3年ぶりのエデュカッションを開催。公立学校、私立学校の先生とともに「教育とICTの今」について、たっぷり語っていただきました。続く12月5日には10人の英語教育関係者が出席。12月26日には、約40人の先生、Ed Tech(教育系ベンチャー)、高校生らが参加し、白熱した議論を交わしています。
異なる立場、異なる視点を持つ関係者が議論を深めることで見えてきた、意外な事実とは…? 教育ICTの現在と未来、その全貌についてご報告します。
教育ICTの成功のカギは、「無理強いせずに、少しずつ仲間を増やす」こと
10月17日のエデュカッションには、私立から3人、公立から1人、計4人の先生がご参加くださいました。司会進行を務めたのは、私、関島と、教育ICTのコンサルティング業務を手掛ける、フューチャーインスティテュートの為田裕行さん。特にテーマなどは設定せず、思いつくままに「今、どんな環境でタブレットを使っていますか?」「どうしたら先生方がICTを活用してくれるようになると思いますか?」といった質問を投げかけていきました。
私立学校の場合は、「トップが導入すると決めたらどんどんプロジェクトが進行する」とのこと。生徒たちにiPadやiPad miniを配布している学校もあり、「だからこそ、学校による格差が広まりやすい」との問題点も浮かび上がりました。一方の公立学校は「先生が私物として、自費でタブレットやApple TVなどを購入しているケースが多い」そう。アプリケーションについても、無料のものを活用してしのいでいるとのことでした。学校全体の動きとして取り組むのが難しく、他の先生に広がりにくい。「積極的に取り入れたいけれど、どうやって周囲を巻き込んだらいいのかわからない」とお悩みの様子でした。
そこで私立の先生に“教育ICTを広めるコツ”をお聞きしたところ、「無理強いせずに少しずつ仲間を増やすこと」という回答が。「導入したからには使ってほしいと思ってしまいがちだが、『絶対に使え』と言って押し付けると、『絶対に使わない先生』が出てくる」のだそう。「押し付けず、ちょっとでも授業で使ってくれたら褒めるようにしている」とお話しくださいました。そうこうしているうちに、貸し出し用の棚に並んでいるプロジェクターの持ち出し率が上がっていき、今度はカラの棚を見て「みんなが使っているから私も使ってみよう」と動き出す先生が現れた。現在、とてもよい“利活用の連鎖”が生まれているそうです。
教育ICTの導入で、学校の文化が変わる!?
関西のとある私立学校の先生は、「『自分が使いたいから』という理由で、自らタブレット端末の導入を提案した」と話してくださいました。周囲の先生方を納得させるのはとても大変だったそうですが、何度も話し合いの場を設け説得したとのこと。アプリケーションについては、教育ICTの導入に成功している先進的な学校のセミナーなどに参加し、使用ソフトのリストを入手して、そこから選定していったと教えてくださいました。
もっとも反応が大きかったのが、とある先生が「人の授業を見に行ける環境をつくった」とおっしゃった瞬間。先生方の間では、「他人の授業をむやみやたらと見に行ってはいけない」という暗黙のルールがあるそうで…。「どんどん人の授業を見に行って、ICTの活用法を学び、みんなで授業の質を高めよう!」という雰囲気をつくったことで、先生同士のコミュニケーションが活発になり、学校の文化そのものが変わったとお話しくださいました。
他にも、Wi-Fi環境の整備方法や、データの活用方法など、興味深い話題が盛りだくさん。3年ぶりのエデュカッションということもあり、始まる前はドキドキしましたが(笑)、おかげさまで大成功のうちに終えることができました。
続く12月5日には、6人の先生、1人の塾講師、2社のベンチャー企業をお招きし、「英語教育」をテーマにしたエデュカッションを実施。ベンチャー企業2社は、日本の英語教育における問題点を指摘し、各種の課題をITで解決する方法についてプレゼンテーションしてくださいました。ここでも「英語を英語として理解するのではなく、英語を日本語に変換しようという日本独自の文化がある」「こうした文化が、『教育ICTのガラパゴス化』につながりつつあるのではないか」などの意見が出され、有意義な議論ができたものと確信しています。
2020年に向けて、今新しい枠組みで一緒に一歩を踏み出す
12月26日に開催されたのが、「エデュカッションSpecial ~School for 2020~」。前2回とは趣向を変え、さまざまな立場の参加者がクループディスカッションによって学びや気付きを深めていくスタイルを採用しました。参加者は、学校の先生、自治体関係者、Ed Tech(教育系ベンチャー)、現役高校生、保護者など、総勢約40人。2020年の東京オリンピックに向けて急速にインフラ整備が進むなか、教育はどのように進化すべきか、デザインされるべきかについて語り合いました。
司会進行を務めたのは、「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」代表理事の川辺洋平さん。7~8人程度のグループに分かれ、互いに質問を繰り返す「相互質問法」という手法で議論が深められていきました。ある程度議論が煮詰まったところで、“交換留学”を決行。グループの中からひとり留学生が選ばれ、他のグループへと旅立ちます。旅立った留学生は、これまでにない視点をもたらすイノベーターとして、留学先に新たな風を吹き込むことになるのです。
あるグループでは、「社会としてあるべき未来から逆算して教育を考えるべき」という提言がまとめられ、またあるグループでは、「なぜ先生はメルアドを持っていないの?」という身近かつ深い疑問がクローズアップされていました。他にも「人ならではの教育に集中するためICTが活用されるべき」「教育ICTの評価制度が整備される必要がある」「民間との密な連携が欠かせない」などなど、注目すべき意見が出されました。なにより印象に残ったのが、「新しいテクノロジーを使うことで、授業が楽しくなり、生徒が先生をリスペクトする」という発言です。この言葉に、教育の未来のようなものが凝縮されていると感じました。
エデュカッションが目指しているのは、「みんなで、一歩進むこと」。教育の転換期である今こそ、関係者が力を合わせて、新しい枠組みを生み出さなければならないと考えています。子どもたちが希望を持って生き抜いていけるように…。今後も継続して議論の場をつくり、まずは地図を描いて、そこへ向って歩き出していきたいと思っています。