「ふたりで、花そう。Happy Valentine’s Day 2015」制作の舞台裏No.1
若手クリエーターが探るデジタル表現の可能性【前編】
2015/02/06
街の雰囲気も華やぐバレンタインの季節。電通は、若手クリエーターとともに、都営大江戸線六本木駅のデジタルサイネージを花で彩ります。「大事な人のことを思い出したり、カップルの距離感を縮めたりするきっかけになれば」と、企画を担当した多田明日香さん。舞う花びらに、撮影時も歓声が絶えなかったという企画「ふたりで、花そう。Happy Valentine’s Day 2015」の舞台裏を聞きました。
「ふたりで、花そう。Happy Valentine’s Day 2015」
電通が昨年に開発・設置した都営大江戸線六本木駅ホーム上のデジタルサイネージ「六本木ホームビジョン」で2月9日(月)~15日(日)、「ふたりで、花そう。」をテーマに電通若手クリエーターによる花を使用した映像インスタレーションと、人の動きで操作可能なシステムを活用したインタラクティブな花占いを展開。クリエーターの活躍のチャンスを増やすことをミッションとする電通クリエーティブ・ディレクション・センターとOOH局との共同プロジェクトで、自社および社外の若手クリエーターとともにデジタルクリエーティブの可能性を探る目的で実施。
花びらが風で舞い上がると…
——今回は、プランナーを務めた多田明日香さん、コピーライターの可児なつみさん、そしてフラワーアーティストとして個人で活動するスズキアキコさんに集まっていただきました。生花を使うというのは、元々あったアイデアなんですか?
多田:私は美大のころから押し花の作品を制作したり、仕事でも花を使ったアートワークをしたりしていたんですが、今回クリエーティブディレクターを務めた渡邊哲也さんに「花で」と言われたわけではなかったですし、自分でも決めてはいませんでした。
まずはフラットに「バレンタイン」を調べてみたら、日本では女性から男性にチョコレートを贈るのが一般的だけど、海外では「男性が女性にお花を贈る習慣がある」ということを見つけたんです。それで、バレンタインの機会に「大切な人に花を贈ろう」という文脈でメッセージを発信できると思って、やっぱり花の企画にしようと決めました。そこから、「花びらが風で吹かれると『LOVE』などの花文字が残る」というイメージが膨らんでいきました。
——スズキさんと可児さんが加わったのは、多田さんの発案ですか?
多田:そうですね。スズキさんは美大の先輩でもあって、これまでも何度かお仕事をご一緒していました。今回「花でいこう」と思ったとき、ぜひお願いしたいと思って。スズキさんに具体的な花選びや、花文字のフラワーアレンジメントなどをお願いしました。
カメラを通したときの花の見え方を検討
——それが、今回の企画のひとつである「フラワーインスタレーション」ですね。スズキさんは誘いを受けて、どう感じましたか?
スズキ:花の業界では、海外だとバレンタインに男性から女性へ花を贈るというのは少し前から知られていたので、その点でも興味を持ちました。最初の段階で多田さんから、使う色味や、花文字の「LOVE」なら「LOVE」に近い花言葉が提案されていたので、それを出発点に実際に使う花などを一緒に詰めていきました。
——普段はアレンジメントのお仕事が中心だと思いますが、今回のような花を使った動きのある企画はどうでしたか?
スズキ:今までやってきた仕事の進化版、という感じでした。私の中で特に難しかったのは「撮影して映像で見る」という点です。肉眼とカメラを通して見るのとでは、花の見え方が全然違うので、風で花びらを吹き飛ばした後に残る花文字がちゃんと読めるようになど、どこまで作り込むかをすごく考えました。
——可児さんは、主にもうひとつの「ふたりで、花占い」(※)のほうにかかわったとのことですね。これは具体的にどんなふうに表示されるんですか?
※インタラクティブコンテンツ「ふたりで、花占い」は、2番線ホーム 東京ミッドタウン側34番柱の片面のみでの実施。
可児:2人でサイネージの前に立って、画面の指示にしたがってジェスチャーをすると、それを感知して相性占いが始まります。「もっとキスしていいタイプ」とか…普通に読み上げるとちょっと照れもありますが(笑)、そんなタイプ診断と、解説が表示されます。フラワーインスタレーションの花文字の下にも、その花文字から連想したコピーが入っています。
占い企画は、インスタレーション企画のあとに持ち上がったので、多田さんとスズキさんの方向性を受けて考えていきました。
多田:渡邊さんやOOH局の方々とも話をする中で、サイネージならではの技術を盛り込める企画もやろう、という話になって。
このサイネージは音声センサーやモーションキャプチャーを設置することができるようになっていて、前に立った人の動きに反応したり、電車が来る音に反応させたりすることができるんです。そこで「花」と関連があって、バレンタインデーに気になる人と一緒に参加して楽しめるようなもの、ということで「花占い」という案が生まれました。この段階でコピーが要りそうな企画になったので、可児さんに加わってもらうことになりました。
まだぎこちない2人の距離を縮められれば
——1月上旬くらいに2つの企画の方向性と布陣が固まった感じですね。コピーライターは、企画やコンセプトをつくる段階から参加する場合と、その後に加わる場合があると思いますが、今回は?
可児:今回はコンセプトが固まりきる前に入れてもらった感じです。なので、まだいろいろと一緒に練っていけそうだなと思って、企画にかかわれる期待も高まりましたね。
多田:最初は「男性から女性へ花を」というアイデアでしたが、実際にコピーを書いてもらったら「あまり性別にこだわらなくてもいいかもね」と皆が思ったりして。考えてみれば、駅のホームはさまざまな人が行き交う「公の場」なので、見る人を限定しないほうがいいのかな、と思い直したりもしました。
結果的に、フラワーインスタレーションの文字も、花占いのメッセージも男女問わず自然に受け入れてもらえるようにしました。
——先ほど「気になる人と一緒に楽しめるように」というお話がありましたが、バレンタインの企画ということで、特に意識したことはありますか?
多田:お話をいただいたときから、単にデジタルサイネージの新しい技術を発表するだけのものではなく、表現にきちんとメッセージがあるものにしたいと思っていました。今回はバレンタインがテーマだったので、サイネージを見て「今日は花を贈ろうかな」とか、実際に見た人が動くきっかけになったらいいなと。
サイネージの反応を生かしたインタラクティブな企画については、どういうものなら誰かがやっているのを見て参加したくなるかと皆で話して、「占い」にたどり着くまではけっこう難航しましたね。占いが始まる動作や表示されるコピーがあまり乙女チックだと恥ずかしいので(笑)、ちょっと笑えたり、まだぎこちない2人でも仲良くなれたりするような効果を期待して、絞り込んでいきました。
スズキ:バレンタインは日本人なら誰でもちょっとは気になるイベントだと思うので、そこに花が結びつくと、記憶に残りやすいなというのは最初から考えていました。
特に、やっぱり恋愛の思い出は印象深いですよね。花は、生花だと本当に一瞬を楽しむものなので、ある瞬間の思い出をつくるときにそこにあることがおもしろいし、そういう思い出づくりができる仕事をずっとしていきたいと思っているんです。なので今回は、生花を使いながら、映像の力を借りてそういう瞬間をつくりたいと考えました。
可児:お花って、もらうともちろんうれしいし、小さなサプライズですよね。いつも通る駅でやっているちょっと変わったこともサプライズだなと。これをきっかけに、普段は話さないことを話したりして、2人の間にサプライズが生まれたらいいなと思って、甘めのものからくすっと笑えるものまで入れてみました。
3人をメインにした総勢20人以上のプロジェクトチームが制作した「ふたりで、花そう。Happy Valentine’s Day 2015」は、2月9日(月)~15日(日)の期間で公開。大江戸線をご利用の際は、ぜひ足を止めてみてください。座談会の後編では、撮影本番や実施前日深夜の現地でのお話、またデジタルサイネージの可能性についてなど聞いていきます。
Special Thanks
CD渡邊哲也 (クリエーティブ・ディレクション・センター)
AD/プランナー 多田明日香 (1CRP局)
CW 可児なつみ (1CRP局)
dir イトウガク (太陽企画)
Pr.藤崎克也 栃原啓孝 (太陽企画)
PM 長沼千春 (太陽企画)
Cam 小竹康方
Light 土井立庭
Flower Artist スズキアキコ(密林東京)
ED 小田部俊彦 (太陽企画)
デジタルサイネージ監修 安田晴彦(クロマニヨン)
特別協力 木下一郎(クリエーティブ・ディレクション・センター センター長)、
尾島洋子 清水拓 吉行由里 岡井昭憲(OOH局)