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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.31

ちきりんさん、ここまで教えちゃっていいんですか!?
『マーケット感覚を身につけよう』

2015/03/13

そんな悲鳴が社内外から聞こえてきそうです、ほんと。
「これから何が売れるのか?」分かる人になる、というキャッチコピーは、ダテじゃありません。

今回取り上げるのは、ちきりん著『マーケット感覚を身につけよう「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法』(ダイヤモンド社)です。

マーケット感覚とは、価値発見力

マーケット感覚という言葉から想像されるもの。
それはたとえば個人商店をグローバルブランドにまで育て上げてしまう天性の商売センスだったり、株取引で一夜にして億万長者になってしまうような嗅覚だったり。
なんだか天賦の才能といったイメージが強い気がします。

ちきりんさんは本書の中でこう述べます。
マーケット感覚は論理思考と対になる能力であり、学んで伸ばすことができるものなのだ、と。
変化が激しく、先の見えない現代。今必要なのは、「何を学ぶべきか?」「自分は何を売りにすべきか?」という「本質的な価値」を見抜く能力であり、それこそがマーケット感覚なのだと。

全国から注文が殺到!北海道・いわた書店のマーケット感覚

いやー、そうは言ってもなんだか難しそう。
ということで、ここでひとつ事例をご紹介します。
それは北海道砂川市にある小さな街の書店、いわた書店です。
この本屋さんが始めた新サービスとは、「あなたに合う本を一万円分選んでお送りします」というサービスでした。

書籍って、商品数が多すぎる上に価値のばらつきが大きく、ぴったりの一冊を選ぶのはなかなか大変なもの。この本屋さんは優れたマーケット感覚をもってして、「本そのものを売ること」ではなく、「本を選んであげること」を商品にしたのです。
こうした感覚は、知識や経験とはまた違ったものでしょう。

「良い本を置いても売れない。出版界の未来は暗い」と考える本屋さんがいる一方で、「本屋の価値を、本ではなくて目利き力と提案力にすればチャンスはある」と考えたいわた書店。潜在的な価値を見抜く「マーケット感覚」ひとつで、こうも結果は変わってしまうのです。

広告人必須スキル? インセンティブシステムを利用して課題解決

例えば、年配の方が数万円もするのに高いカツラを買うのは、カツラではなく「バレないカツラ」に価値を感じているから。
もう一つ例を出すと、高校のあらゆるクラブ活動の中でも甲子園がひときわ巨大市場なのは、「全力で戦ったにも関わらず時の運で負けてしまう理不尽さ」や「(プロに比べて)技術レベルが低くても、気合いと根性でカバーしようとする若者たちの物語」に人々が価値を見いだしているから。

こうしたマーケット感覚を磨くために、本書では5つの方法が紹介されています。

①プライシング能力を身につける
②インセンティブシステムを理解する
③市場に評価される方法を学ぶ
④失敗と成功の関係を理解する
⑤市場性の高い環境に身をおく

私自身が一番刺激を受けたのは、②の「インセンティブシステムを理解する」でした。これ、海外広告賞などでよく見られるアプローチそのものなんです。
本の中で挙げられている例をご紹介します。

朝が苦手なエンジニアの多かったドワンゴは、出社時刻を早めようとある仕組みを導入します。それは午前中に行われる社内体操に参加したら、ランチのお弁当が無料になるというもの。「社員が早く出社したいと思う動機付けの仕組みをつくる」という発想が素晴らしいですよね。
…この発想、広告キャンペーンでよく見かけませんか?

ゴミ箱を使わない市民が多いから、使いたくなる仕掛けのあるゴミ箱をつくる。
信号無視が多いから、無視できないくらい愉快な信号機をつくる。
「行動を変える前に、動機付けの仕組みを変える」という方法論は、実はすぐにでも仕事に生かせるものです。

問題があれば、まずは人間のインセンティブシステムを利用してなんとかできないか、考えるべきなのです。そうすれば嬉々として、問題を解決する人が現れるのですから。(P178)

変わらなければ替えられる

ふむふむ、ほうほう、なるほど。
そんな感じでサクサクと読み進めると出てくる最終章のタイトルがこちらです。
正直、心の中で悲鳴上げました。
端的で、静かなたたずまいでいて、なんとも言えないプレッシャーのかかるこの言葉。
「変わることを拒否するモノは、替えられてしまう」のです。

嗚呼、おそろしや。
例外なんてありません。
市場も、モノも、サービスも、そして人間も…。

ちきりんさんが書名に「身につけよう」だったり「分かる人になる」といった「自分が主語」なフレーズをきっちり入れているのも忘れ、紹介されている例を読んでちょっと感覚磨かれた感じがして悦に入ってしまいそうになったところでこの章ですからね。やられましたよ、ズドンと。

広告の世界はどうなっていくのだろう。
そこで働くクリエーターはどうあるべきなのだろう。
自分はどうだ。
きっとそんな風に、読むと考えを始めてみたくなる一冊です。

【電通モダンコミュニケーションラボ】