個人メディアの進化と見直されるブログの価値:前編
2015/03/25
今、ブログの価値が改めて見直されています。TwitterやFacebookにはないボリューム感、半永久的に情報を溜め続けることができる仕組み。SNSでは実現しづらい「ストック型のコンテンツ」として、再び熱い注目を集めています。また、ブログの情報がSNSによって拡散され、新たなトレンドが生み出される…という現象も定着してきました。多くの人や企業が再注目する、ブログとブロガーたち。その現状と今後の可能性について、「ネタフル」ブロガーのコグレマサトさん、アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦さんと、電通iPR局の落合直樹さんが語り合いました。
「しっかりした長文を書きたい人」が、ブログへと戻ってきた
落合:ここ数年、TwitterやFacebook、Line、Instagramなど、さまざまなSNSが急速に普及しています。このような状況のなかで、ブログというメディアはどのように変化しているとお感じになっていますか?
コグレ:SNSに押されて影が薄くなってしまったブログですが、2013年辺りから、再び注目を集めるようになってきたと感じています。その理由は、「しっかりした長文を書きたい人」「コンテンツをアーカイブしたい人」が、ブログへと戻ってきたから。日記的な雑感や短文を書きたい人たちはTwitterやFacebookに残り、主に「まとまった情報を残したい」と思う方がブログを活用するようになってきました。同時に、ブログを自己実現のツールとして捉える方も増えたように思います。「本を出版したい人」「仕事につなげたい人」、そういう人が多くなりました。
徳力:昔は、日記を書きたい人、価値ある情報を残したい人、仕事につなげたい人などなど、みんながいっしょくたにブログをやっていましたからね。最近になってやっと、気軽に短文を投稿したい人はTwitter、友だちとつながりたい人はFacebook、まとまった情報をアーカイブとして残したい人はブログ、などのすみ分けができるようになってきました。コミュニケーションのバリエーションがそろってきたことで、ブログの立ち位置が明確になったというか、再定義されたというか…。初期とは異なる役割を担い、存在感を発揮するようになったのだと思いますね。
落合:僕もそう思います。ただ、なかには「ブログは一世代前」「過去のものだ」なんて言う方もいらっしゃるようで…。
徳力:恐らく、「ウェブサービスは新しいものほどクールである」というイメージがあるからじゃないかと思いますよ。次々と新サービスが生まれ入れ替わっていく、そんな印象をお持ちの方も多い。ただそれは、今までが「なかったものが出来上がっていくフェーズだったから」というだけで。一通りのコミュニケーションサービスがそろったことで、注目されるサービスが年単位で入れ替わる時代から、選択と組み合わせの時代に変わってきたのだと思います。ブログは数あるコミュニケーションサービスの中でも、古く、歴史あるツールです。クールさや今っぽさはないかもしれませんが、今やメールのように、ある意味あって当たり前のツールとして定着しているように思いますね。
SNSとリンクすることで、ブログは「個人メディア」に進化した
落合:SNSの隆盛によって、やや存在感が薄まった感のあったブログですが、最近はSNSとリンクすることによって、より存在感を示すようになってきました。この変化は大きいですよね。
徳力:はい。最初の頃は、ブログを作って記事を書いて、定期的に見に来てもらうという一連の作業を、書き手自身がブログ単体で、地道にがんばるしかありませんでした。ところがSNSとリンクできるようになって、ブログの内容が次々とシェアされ拡散されるようになりました。ブログが読まれやすい環境になり、ブログが改めてメディアとして認められるようになってきた。
日本ではマーケティング関係者もふくめ、ブログを個人の趣味の記録として捉える方が多いようです。しかし、今やブログの記事が企業メディアの記事と同じようにSNS上で話題になることは珍しくありません。その上で個人的に注目しているのは、ブログは書き手の意思や思いが強く出ることからクチコミコンテンツとして機能する点です。クチコミは、中立性を求められるマスメディアにとって扱いが難しい領域ですが、マスメディアの対極にある個人メディアによってクチコミコンテンツが増えているのは、なんとも面白いですよね。
コグレ:最近では個人メディアがマスメディアに影響を与えるケースも増えてきました。例えば、とあるオンラインメディア。編集長がインタビューで、「iPhoneがメインの記事じゃなくても、タイトルにiPhoneという文言を入れて、注目度を高めるよう工夫している」というようなことをおっしゃっていました。たぶん、過去のマスメディアや企業メディアだったら、こういうPVをかなり意識したタイトルライティングは、やらなかったと思うんですよね。ブログやまとめ記事に影響を受け、作り方が変わり、そしてどんどん、マスメディア・企業メディアと、個人メディアの境目があいまいになっている。企業と個人が同じ土俵に立つ時代になったんだなあと実感しています。
ブロガーは演歌歌手!? 人と企業を動かす、ブログにしかない魅力とは
落合:コグレさんのブログ「ネタフル」は、月間で100万を超えるPVをお持ちですが、ネタフルが発端となって、企業や商品が話題化したケースなどありますか?
コグレ:意外にあります(笑)。たまたまAmazonで、餅がつける激安パン焼き器を見つけレビューしたところ、商品が売れ切れてしまったり。5000円 ぐらいの安いキーボードをiPadにくっつけて「ショボかわいいキーボード」として紹介したところ、飛ぶように売れてしまったり。なかでも印象に残ってい るのが「Evernote」を巡る出来事です。海外で始まったばかりの「Evernote」サービスを、ブロガーのいしたにまさきさんと一緒になって「こ れはすげーぞ!」と紹介したところ、日本の盛り上がりに一役買ったようなんですよね。
で、アメリカ本社の方が「日本ではほとんど報道されていないはずな に、なんでだ!?」と、日本にやってきたところでお会いして。ブログがきっかけでブームになっていることをお伝えし、日本法人設立にもつながったようで す。僕といしたにさんもアンバサダーに任命され、日本でもEvernoteが普及していきました。個人のブログからもこんなムーブメントが起こるんだとい う、シンボル的な出来事だと思います。
落合:なぜここまで、人や企業が動かされるのでしょう?
コグレ:そこに物語があるから、じゃないでしょうか。ブロガーは、いわば演歌歌手みたいなもの。そのときの仕事、立場、家庭環境などに影響されて書く記事の内容が変わり、読者と一緒に成長する生き物です。そういう人間くささやドラマのようなものが、人や企業を引きつけるのかもしれませんね。
徳力:そう、書いている人の価値観やホンネがハッキリ見てとれるからいいんですよね。中立な立場のマスメディアに対して、主観全開で、ある意味偏っていて。ブログやブロガーは、個人メディアにしかない魅力を持っているのだと思います。
(後編へ続く)