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共感を生む物語の力で“自分ゴト化”
視聴者の心に入り込む「解説動画」とは?

2015/03/27

モバイルでの動画視聴が一般化した現在、多くの企業が動画を活用したコミュニケーションに関心を寄せている。そんな中、グローバルでその有効性に注目が集まっているのが「解説動画(explainer video)」というジャンルだ。日本ではまだ販促への活用が中心だが、同ジャンルのパイオニアであるsimpleshow Japan代表取締役の吉田哲氏は「実はインナーコミュニケーションにこそ高い効果を発揮する」と語る。

複雑なトピックが意図通りに伝わる「解説動画」

——2014年は「動画元年」とも言われ、動画を使ったマーケティング手法も定着しつつあります。その中で、解説動画というジャンルで他社に先駆けて市場を開拓してきたドイツのsimpleshowが、9カ国目の展開として日本に本格参入しています。同社日本法人代表の吉田哲さん、まずはこの「解説動画」がどういうものなのか、教えていただけますか?

吉田:「解説動画」は英語で「explainer video」と呼ばれ、一般的なテレビCMやエンターテインメント系のコンテンツ動画とは異なるジャンルとして確立しています。この6、7年で市場ができあがった、新しい事業領域です。

例えば、飛行機内の安全ビデオのように、モノを実際に手にしながら使い方を説明するような動画は以前からありますが、simpleshowの解説動画はそれらとは少し違い、複雑なトピックを分かりやすく、しかも共感できるような物語に仕立てて構成します。その質を左右する要因は、映像表現というよりも感覚的な理解を促すストーリーテリングにあるので、simpleshowでは人の心理に注目して研究を重ね、ノウハウを蓄積しています。

——主に、どういったシーンで使われているのですか?

吉田: Eコマースや営業プレゼンに代表されるエクスターナル・マーケティングと、社内や提携会社間での情報共有あるいはEラーニングなどインターナル・マーケティングの2つが利用シーンです。

まず外向けですと、販促ツールとしての活用がいちばん多いです。複雑なトピックを数分で分かりやすく伝えるのが得意なので、高度で難解な情報の解説によく使われます。特に、BtoBのコミュニケーションは親和性が高いですね。

例えば、製薬会社が分厚い資料を持って新薬の説明をしようとしても、忙しい医師にはその場で目を通してもらえませんし、置いていっても見てもらえるか分かりませんよね。それに、紙だと人は読みたいところだけ拾ってしまう傾向があるので、こちらの意図したとおりに伝えることも難しい。簡潔に意図どおりに伝えるためには、その場で2、3分だけ解説動画を見てもらうことが、非常に効果的なのです。

解説動画を見ただけで直ちに購入に至ることはめったにありませんが、きっかけづくりには十分なパワーを発揮します。ターゲットの関心を喚起し、その次の詳細な説明を受け入れやすくさせるので、成約までにかかっていた営業時間が飛躍的に短くなるからです。

また、BtoB、BtoCを問わず、実写での説明が難しい領域でもよく使われます。先ほどの医療で考えると手術シーンを実写で再現するには表現上の制約が伴います。またITや金融、法律や政策、コンセプトを伝える場面など、実物がないものや撮影できないトピックにも向いています。

グローバル企業での各国スタッフの教育に効果

——非常に幅広いジャンルで使われているのですね。インナー向けでは、どういった活用がされていますか?

吉田:社内スタッフや販売代理店への情報共有や教育です。simpleshowは当社オリジナルのイラストをアニメーション化する手法なので、ナレーションさえ吹き替えれば言語の壁を越えて展開することが容易です。当社は一度納品すれば使用期間や二次利用など権利に関するレギュレーションは発生しないこともあって、特にグローバル企業で、営業スタッフ向けの新製品セールストレーニングや、中途採用者への入社マニュアル、工場スタッフ向けの労務教育など、様々なインナーコミュニケーションで使われています。

社内への情報共有や教育の効率化は日本の企業が抱える直近の課題だと感じています。特に、海外へ進出しグローバルで従業員を抱える企業には、解説動画が非常に有効です。まだ日本では利用している例が少ない一方で、その部分をお手伝いするために、simpleshow日本法人を設立したという背景もあります。

解説動画のインナー活用は、ここ数年で大きく変化しました。自分専用のパソコンを持たない店舗や工場などに勤務する現場スタッフでも、スマートフォンでネット接続できるようになったため、動画でのインナーコミュニケーションが可能になりました。当社では、スマホの小さい画面での見やすさも徹底的に効果検証して、そのノウハウに基づき解説動画を制作しています。

——日本でも、これからニーズが高まりそうだと。

吉田:そうですね。ドイツ人と同じく日本人は真面目なので、インナー向けにも丁寧に資料をつくり込んだりしますが、テキストやスライドの情報だけだと、どうしても受け身になりがちです。企業が伝えたいことをしっかり従業員に定着させるためには、伝達方法をもっと進化させる必要があります。インナーコミュニケーションに限らず、採用活動などのシーンにも、同じことが言えますね。

欧米ではすでに、解説動画と理解度テストを組み合わせてスタッフの評価や人事配置に活用している企業も多く、知識や情報の理解に対する効果が実証されています。日本国内の社内テストを行っている企業も、解説動画を組み合わせてEラーニング展開することで、学習効果をもっと高められると思います。

共感を呼ぶストーリーが“自分ゴト化”を促す

——テキストでは伝わりにくい難解なトピックを分かってもらうには、何が重要なのでしょうか?

吉田:重要なのは、ストーリーテリングです。simpleshowでは物語の構築を最も重視しています。そのため専門の脚本家を社内に抱えています。

当社では、「WhyからHow」へというスローガンを掲げています。普通、商品紹介動画だと新商品の特長、つまり結論から説明を始めがちですが、最初に「なぜ」これが必要なのかという「課題の共有」が導入部分にないと、人は物語に感情移入できません。

実例を紹介すると、イギリスの計測機器メーカーのレニショーが「REVO」という製品のプレゼンに当社の解説動画を使いました(http://simpleshow.com/jp/use-cases/revo/)。この動画では3分のうち最初の1分を、主人公のブラウンさんが抱えている課題の共有に割いています。その上でREVOの機能を知ると、「なぜREVOが彼にとって必要なのか」が実感できます。他人事ではなく“自分ゴト”として共感できるようになるのです。

結果、REVOに対するクライアントの心理的な障壁が下がり、その後のクロージングまでの時間が非常に短くなります。解説動画が営業販促ツールとして多く使われるのは、これによって営業効率が上がるからです。BtoBの場合は、購入に上司の理解を得る必要があることも多いですが、直感的に伝わる解説動画は、クライアント社内のコミュニケーションにおいても効果を発揮しています。実際に、REVOの紹介動画でもクライアントの上司役を終盤に登場させました。

——共感できる物語の構成力が決め手なのですね。

吉田:ええ。simpleshowの根底に流れるのは、「共感をどう生むか」という視点です。イラストのタッチや、画面に映った手がイラストを動かしていく手法自体はまねできるかもしれませんが、共感を生む物語構成なくして解説動画は機能しません。その点では、これまで4000本以上の解説動画を制作する中で蓄積したノウハウを武器に、クライアントの課題をヒアリングして最適な物語に変換するsimpleshow独自のフレームワークにこそ、高度な専門性があると自負しています。

——BtoB事業での活用も、考え方は同じですか?

吉田: BtoBこそ、共感を呼ぶ物語が必要です。専門家同士のコミュニケーションは堅苦しくて退屈になりがちですが、ほとんどの当事者はそれが良いと感じていません。また、BtoBの先には一般の消費者がいるケースも多いので、BtoBtoCの観点で物語を構築するニーズもあります。これは今の広告のスタンダードにも通じると思いますが、なぜターゲットがそれを必要とするのか、「自分ゴト化」できる背景を、先に伝えることが求められていると思います。

独自のノウハウを元に高いクオリティーを実現

——具体的な見せ方としては、どういった部分がポイントになるのでしょうか?

吉田:例えば、シンプルなモノクロのアニメーション中に、精緻なイラストや写真が入り込むと、視覚情報にムラができ、脳が異質のノイズと認識してしまいます。その結果、最も重要な「物語」に、視聴者が集中しにくくなります。当社が使っているまるで子どもが描いたようなイラストも、情報量をあえて削ぎ落としているので、瞬時かつ自然な理解を視聴者に促すことができ、物語を記憶させる効果があるのです。企業のロゴや製品もイラスト化することで、物語に自然に溶け込み、売り込まれている感覚を視聴者に起こさせないようにしてしまいます。

逆にイラストの影を見せたり、場面転換の時に外に掃き出しそびれたイラストを編集しないで残したりなど、わざと脳にオーガニックな刺激を与えることもします。刺激を削ぎ落とす作用と刺激を与える作用の絶妙な調合も秘伝です。

BGMやサウンドエフェクトなども必要最小限にすることで、効果を最大化しています。言われないと気づきませんが、中盤で課題の解決策が登場したときに、BGMを盛り上げていたりするのです。現在はジャズを使用していますが、実証実験の結果次第で、今後別の音楽に変えることも考えています。サウンドエフェクトもイラストの意味合いが効果的に伝わるか否かを検証しながら、3000種類以上自社で開発しています。

また、手の動きも簡単なようでいて、実は非常に緻密に計算しています。指で何かをさされると、人はそれに注目します。人が人の手を見るのは本能的な反応なので、それを活用して大事なトピックを記憶させ、シーン展開にメリハリをつけています。

撮影風景の様子。手の動きだけではなく、摩擦や照明にも考慮し、背景用とイラスト用で異なる紙を用いるなど、綿密な計算を行っている。

——それらのさじ加減は、各国のクリエーターによるのですか?

吉田:いえ、完璧にマニュアル化されています。ドイツ本社にある「シンプルショー・アカデミー」というシンクタンク兼教育機関で、提携大学や各種機関とともに、心理変容や理解度を研究しています。それを元に効果的な手法をマニュアルに反映させ、各国の制作現場へ共有しています。週に2回のSkypeによるテレビ会議に加えて、各職種ごとにEラーニングを課せられます。もちろん、各国の制作現場には「マニュアル化できそうなグッドアイデア」の積極的な提案も求められています。

日本法人は昨年春に営業開始してまだ1年ですが、個々人がsimpleshow共通のEラーニングやテレビ会議で学ぶ以外にも、制作途中作品の本社チェック、さらにアカデミー代表者やクリエーティブトップが来日し、マニュアルに無いノウハウを「口伝」で指導するなど、ドイツと同じ制作クオリティーを保つ努力を徹底してきました。マイスターの国ドイツは、職人さんの仕組みづくりが得意ですが、simpleshowの教育制度は実際に優れていると思いますね。

——では最後に、日本での拡大に向けた期待をお教えください。

吉田:解説動画の可能性は、マーケティング業界で一般的に認識されている以上に広がっています。最近よく驚かれるのは、メルセデス・ベンツの高級車種「マイバッハ」にsimpleshowが使われた海外事例です。ハイラグジュアリーなテレビCMはもちろん必要ですが、その一方で、スマートフォンが生活の中心になっているユーザーに対するクリエーティブを変える必要が出てきているのです。テレビのリーチ力でブランド認知を高めると同時に、CMでは伝えきれない魅力について、スマートフォン視聴を徹底的に意識した解説動画で訴求し、インバウンド効果を高める合わせ技が日本でも一気に増えると思います。また、人事やコーポレート系部門が、グループ社員との情報共有やEラーニングに解説動画を活用する欧米のトレンドも、ここ数年の間で間違いなく波及するでしょう。

心理的障壁を下げる役割を担う解説動画を社内外のさまざまなシーンに提案し、日本のコミュニケーションを一層活性化していきたいと考えています。