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企業とNPOの未来的関係

2015/05/01

2005年に約2万団体だったNPOは現在5万を超え、この間に企業とNPOの関係も変化してきた。
経団連1%クラブのコーディネーターとして、NPOと経済界の連携体制を草創期からけん引してきた長沢恵美子氏と、電通の社会貢献活動の一つ、NPOのコミュニケーション力向上支援プログラム「伝えるコツ」推進の中核を担った元電通執行役員の白土謙二氏が、これからの企業とNPOとの関係について語り合った。またNPOの現状について、日本NPOセンター常務理事の田尻佳史氏とETIC.代表理事の宮城治男氏に話を聞いた。


NPOの視点が企業の本質を捉え直す契機に

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長沢:1990年に経団連1%クラブ(*1)が設立され、企業もNPO(*2)を社会貢献活動のパートナーとして強く意識するようになりました。95 年の阪神・淡路大震災の際には、むしろNPOに学ぶべき点が多々あるという認識が生まれましたね。

白土:私が長沢さんをお訪ねしたのはちょうどそのころですね。「被災地で実際に活動をしている団体を訪ねて、話を聞いてみるといいですよ」と助言を頂いた。

長沢:阪神・淡路大震災は、企業とNPOとの関係性が変わる大きな契機でした。

白土:支援する・されるという関係から、互いに学び、高め合う関係と言えばいいのか。あれから20 年。長沢さんにもご協力いただいて多くのNPOの方と協働する機会を得ました。課題の背景や本質を深く捉える視点、課題解決にとことん取り組む姿勢、周りを取り込むエネルギーなど、注目すべき点がたくさんあります。

長沢:課題を解決するという未来志向の観点からすれば、NPOも企業も立ち位置は同じですから、パートナーとして、より緊密に取り組んでいくことができるはずですね。

白土:彼らの視点を取り入れることで、十分に描ききれていなかった企業としての将来像や、気づいていなかった課題、その解決のヒントが得られることがあります。それが、企業の本質を捉え直す契機にもなります。

大きな課題の解決には、オープンでフラットな連携が必要

白土:地球環境工学が専門でもある元東大総長の小宮山先生も「大きな課題はみんなで解くしかないぞ、一人では解けんぞ」とおっしゃっていました。多様なステークホルダーが連携して、大きな課題解決に向き合っていく。われわれはマルチ・コンスティテュエンシー(支援者)・アプローチと呼んでいますが、これからの新しいアプローチだと思います。

長沢:そうですね。単体組織や政府だけでやってきて解決が難しい課題に対して、知恵と資源を寄せて向かうしかない、ということを実感し始めていると思います。東日本大震災も大きな契機となりました。

白土:これまでの時代は、アイデアのひらめく天才がイノベーションを起こすというイメージだったんですね。でも、国内外に多くの課題が顕在化している今の時代は、未来の視点から課題を捉える想像力や構想力が求められています。そのためには、天才の登場を待つよりも、オープンでフラットな形で、多様な人たちがつながって、課題に立ち向かっていく必要がある。

長沢:最近NPOの間では、フューチャーセッションという取り組みがよく行われています。企業側の参加者が、何年後かを見据えて、こういう事業をしていきたいという課題を掲げて、いろいろな人たちと一緒に意見を交わすわけです。

白土:企業は中期経営計画などで、計画や予測を立てることに慣れてはいても、往々にして自分たちに都合の良い構図になりがち。NPOの人たちに道案内役として入ってもらうと、少し違った視点やヒントが得られる。企業の成長にとっては、少し効率が悪かったりスピードが遅くなったりするかもしれないけれど、自分たちの事業の本質から持続可能な成長を捉え直すことができる。その点を、企業はもっと評価すべきでしょう。

無理や矛盾を突破するクリエーティブを今こそ

長沢:国際会議で日本企業とNPOの連携事例を報告すると、こんなことをやっているのかと注目や評価を集めることがあります。日本から世界へ提案・提示できることもあります。これからの両者の関係で重要なのは、尊重しあうだけでなく、そもそもNPOが持っていた企業を監視し、警告してくれるといった姿勢と、企業側がそれに耳を傾けるといったある種の緊張感を保つこと。もう一つは、社会的な先端ニーズを捉えて、事業を一緒に生み出していくこと。

白土:両者の関係から生まれた成果について、効率や量ではなく「質」をどう評価するかという大きな課題もあります。想像力や構想力といったクリエーティブの力をどう生かしていくかも重要ですね。かつてクライアントの役員から「無理や矛盾を突破するのがクリエーティブだ」と言われたことがあります(笑)。さら にこれからは、新しいお金の流れや、お金の生み出し方まで考えていく必要がある。従来とは違うお金の流れが、新しいアイデアを生み出す可能性も出てきていると思います。いろいろな可能性が、企業とNPOの間に、まだまだ眠っているのではないかと感じています。

*1 経常利益や可処分所得の1%以上を自主的に社会貢献活動のため支出することを目指す企業や個人が参加する団体。
*2「Non-Profit Organization」の略称。社会的な使命を達成することを目的に活動する民間非営利組織の総称。

「一方的な支援先から、一緒に事業に取り組む協働先へ」

日本NPOセンター 常務理事
田尻佳史氏

田尻佳史氏

企業とNPOの関係は、寄付などの一方的なNPO支援から進化し、企業が自社の事業をNPOの活動とリンクさせることで、両者の成果につなげるという事例が増えてきています。ある製菓会社では、糖尿病の子どもが食べられる商品を開発し、糖尿病の子どもを支援しているNPOと組むことで販路を強化、商品を必要としている子どもたちに届けることができました。商品開発の段階からNPOと連携する企業も増加傾向にあります。また新しい展開としては、株主優待の商品をNPOに寄贈するプログラム。ある製菓会社では、株主一人一人に寄贈希望の有無を確認、まとまった株主分の菓子に企業が同額のマッチングを行い、NPOを通じて障害のある子どもたちに届けることで、株主からも高い評価を得ています。

企業単体で取り組むよりは、NPOと組むことで、より強く広く成果を出せる可能性があります。NPOとの新たな関係づくりに興味・関心がある場合は、全国に約300カ所あるNPO中間支援組織や、日本NPOセンターに相談することをお勧めします。あらゆるジャンルのNPOの情報提供やアドバイスを受けることができます。まずはNPOを知ることから始めてみてください。

日本NPOセンター www.jnpoc.ne.jp/


「企業の将来を左右するパートナーとしての可能性」

ETIC.代表理事
宮城治男氏

宮城治男氏

社会起業家やイノベーション志向のNPOは、未来の可能性を開くパートナーとして企業から意識され始めています。しかし、アプローチ方法やメリットが分かりにくいために、アクションが起こせない。では何から始めるべきか。事業連携などの落としどころが見えなくても、まずはCSRの一環としての活動支援から接点を広げていくことはできます。また、社員個人の社会的な活動を推奨し、新規事業やソーシャルなプロジェクトの提案ができるような道筋を社内につくっておくことも大切です。今は、小さくても接点を広げ、双方が協働の経験値を上げていく時期。私はビジョンや覚悟を持ち、先んじて動きだせる組織こそが、未来を創る、成長を続ける企業となるのだと思います。

「自分の企業がどのように社会に役立っているか?」「働く意味とは?」。若者たちの価値観は大きく変わりつつあります。最も優秀な人材が社会起業家になる、変革を起こす原動力と期待される人材こそがNPOに転職する、といったトレンドが世界的で進行しています。新しい時代の企業の在り方を考える上でも、ベンチャーマインドを持った社会起業家やNPOとつながることが今、求められているのです。

ETIC. www.etic.or.jp/


NPO支援プログラム「伝えるコツ」

「伝えるコツ」は、NPOのコミュニケーション力向上をサポートする電通の社会貢献活動です。NPOにとってコミュニケーション力は、組織をまとめ、理解者・協力者を広げ、活動を進めていく上での基礎力であり不可欠なもの。オリジナルのテキストを基に、電通社員らが講師となり、ワークショップ形式で展開しています。これまでに全国で110回以上開催され、約4500人が参加しています(2015年3月末現在)。12年目となる今年、テキストの刷新が予定されています。

「伝えるコツ」 www.jnpoc.ne.jp/tsutaeru/

ワークショップ
「伝えるコツ」キャラクター
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