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ブランド・グロースハック―ビジネスの成長を約束する「マーケティング×IT」新手法−No.2

「実行動データ」って本当に使えるの?
―顧客探索をハックする―

2015/06/26

「マーケティングのIT化」の時代、ブランドの持続的成長を顧客の育成視点で捉え、高い技術力(データ、テクノロジー)を駆使して実現する「ブランド・グロースハック」。その根幹をなす「見つける」「育てる」「整える」の3つのプロセスについて、3回にわたってご紹介していきます。

今回は最初にして最も大切な、今アプローチすべき顧客を「見つける」プロセスです。「顧客創造」はマーケティングの永遠のテーマですが、マーケティングのIT化により、顧客の行動をデータで簡単に捉えることができ、手法も従来のウェブ調査やグループインタビュー、行動観察以外にも、新たなものが増えてきました。

Ⅰ 顧客創造を、360度視点で考える

「ブランド・グロースハック」では、まず顧客創造で取り組むべきチャンスや課題を、360度視点で見つけていきます。

この一連の優良顧客化までの流れの中で、「今、どこにチャンスや課題があるのか?」「優先的に取り組まなければならない部分はどこか?」を探っていきます。概念的に分かっていても、いざ実務で取り組もうとすると、これが意外と難しい。「ブランドへの好意や購入意向が高くても、その人は本当に購入してくれるのだろうか?」「一度購入し、満足度が高かった人は、次も本当に購入してくれるのだろうか?」など、従来の意識レベルのウェブ調査結果だけでは、実は、確実なことは誰も分からないからです。そのもやもやした悩みに、昨今ヒントを与えてくれるのが顧客の実際の行動を捉える「実行動データ」と呼ばれているデータです。

実行動データには、どんな人が、いつ、どこで、何を実際に買ったのかがわかる「購買データ」、テレビCMを見た人が実際にその後ウェブ上でどのような行動をしたかが分かる「テレビCM×デジタル行動データ」、自社サイト以外のウェブサイトの実際の回遊行動が分かる「ウェブ回遊データ」、どんな人が、対象ブランドについて実際につぶやいたかが分かる「SNSデータ」、既存顧客の実際の購買状況が分かる「CRMデータ」などが該当します。

スマートフォンの登場以前は、購買プロセスは複雑ではなく、極論を言うと、テレビCMで認知向上やブランドイメージを高めれば「マス広告→ウェブ検索→購入」の直線ルートで購入までつながっていたので、ウェブ調査でブランドの認知やイメージを把握しておけば、マーケティングはマネジメントでき、実際にモノは売れていました。しかし今は、スマートフォンやSNSの登場で、身近な友人・知人の評判、第三者の評価、競合商品含む様々なデジタルコンテンツの影響で、購買プロセスが複雑化・ブラックボックス化し、単に認知やブランドイメージを向上するだけでは、購買まで結びつかない商材が多くなっています。

しかし、この「実行動データ」を活用すれば、購買までの複雑な導線や再購入の実態が見える化され、ボトルネックが分かります。その改善をすることで売上の数値に直結するので、使わない手はありません。

スマートフォンやSNSの普及は購買プロセスを複雑にしましたが、一方で「実行動データ」のビッグデータ分析で購買プロセスを可視化させ、マーケティング戦略をより精緻に設計することもできるようになったのです。ターゲットの購入までのルートが可視化されたことにより「潜在顧客→見込顧客」「見込顧客→顧客」「顧客→優良顧客」というプロセスがだいぶ見えるようになり、売上を上げるためのチャンスや課題を見つけやすくなりました。「実行動データ」の取り扱いは、マーケティングを携わる人にとってもはや必須のスキルになりつつあります。

Ⅱ「実行動データ」の使い方

では実際に、どのようにして「実行動データ」を使って顧客探索していくのでしょうか?今回は3つご紹介します。

①「SNSデータ」で、新規顧客を発見する!

ある美白化粧品のクライアントでは顧客が高年齢化し、競合化粧品も増え、売上が減ってきました。そこでSNS上で、最近1年間分の「美白」に関する書き込みを集めました。すると「高校生の時、なんであんなにガングロにしてしまったのか? 今ではシミで後悔しています」という元ガングロギャルだった30代後半の方々のコメントがいくつか見つかりました。ウェブ調査でサンプル数が少ない場合は、こういう潜在顧客は見つからない可能性が高く、また「自分たちのターゲットは40代後半以降だ」という思い込みで、そもそも調査対象にしなかったりします。SNSの書き込みデータを1年分拾ってくるまでは、40代のすぐ下の層で、本当にシミで悩んでいる30代がいることに気づかなかったのです。いかに思い込みが、新しいチャンスを逃していたか実感したプロジェクトでした。

このターゲット層を「狙うか狙わないか」「ボリュームは多くはないけど口コミの起爆剤になるのではないか」という判断は、戦略構築の重要なポイントになりますが、今はマス広告だけでなくデジタル施策でピンポイントにそのターゲットを狙えます。そのため従来よりもアプローチの初動コストが安くなり、行動を起こしやすくなっているのもマーケティングのIT化時代の特徴です。

②「テレビCM×デジタル行動データ」で、見込顧客を顧客に!

最近ではテレビCM視聴と、その後のサイトへの行動を見える化することも可能になりました。実際に、あるブランドのテレビCMを見た人のうち、そのブランドのウェブサイトに何割くらいの人が来訪したのか、さらにその人がそのブランドを買ったのかどうかが分かるようになっています。対象者の属性も分かるので、どのような人がテレビCMに反応し、視聴後にサイトに行ったかが分かり、さらに追加の調査で「興味はあったけど購買に結びつかなかった理由」なども聞けます。それを基に今後の商品改良に役立て、興味を持った見込顧客を次回獲得することを目指します。

また自社サイト以外のウェブサイトの回遊が分かる「ウェブ回遊データ」の例ですが、ある金融商品で「比較サイト」経由でそのクライアントのサイトに来た人は、最終的にそのクライアントの金融商品を契約しなかった、ということも分かったりします。その比較サイトでは該当金融商品が全く評価されていなかったのです。このキラーデータを見て、そのクライアントはすぐに比較サイトで指摘されていた弱点を克服する新商品開発に踏み切りました。実行動データ1つが、経営の意思決定を動かした瞬間でした。実際の生活者のウェブ上の行動のデータなので、説得力があり、経営の意思決定やアクションにつながりやすいのです。

③「購買データ」で、顧客を優良顧客に!

直近3カ月で、最も多く購入したビール銘柄と、2番目に多く購入したビール銘柄を覚えていますでしょうか? はっきりと自信をもって言える人は少ないのではないでしょうか。しかし「購買データ」を使うと「直近3か月で、A銘柄を実際に最も多く購入し、B銘柄を次に多く購入した人」を精緻に、簡単に抽出してくれます。抽出対象者の絞り込みが精緻だと、分析結果も精緻になります。ウェブ調査でこのような対象者を集めようとすると、対象者は過去の購入記憶を呼び戻さねばならず、実は思うように精緻に対象者を集められていなかった可能性もあります。

ある健康機能性ビールのケースでは、メーンの購買層は「健康意識の高い人」で次の購買層は「こってり料理が好きな人」だということが分かりました。ビールの健康機能よりも、そのあっさりした味がこってり料理に合うために飲んでいることが分かったのです。他にも、たとえば他銘柄のスッキリ味の◯◯ビールにブランドスイッチしがちだということも「購買データ」なら時系列で購買を追えるので、すぐに対策が可能になります。このケースでは他銘柄にスイッチさせず、優良顧客化するための施策をすぐに検討しました。

以上が最近徐々に使われつつある「実行動データ」を活用した顧客探索の事例です。「実行動データ」はマーケティングの戦略立案において、精緻な分析結果を提供し、顧客理解をより深めてくれます。しかし、2点だけ「実行動データ」を取り扱うに当たって留意すべきことがあります。

1つ目は、購入理由が分かりにくい点です。「なぜ」そのブランドを選ぶのか? 「実行動データ」からは推測でしか読み取れません。そこでウェブ調査やグループインタビューなどの追加調査で補足する必要があります。購入理由をはっきりさせ、好調不調の原因を明らかにする必要があります。

そして2つ目は、単に過去の購買行動結果だけでは次にどのようなアクションをしたらいいか、決めることが難しい場合があるということです。たとえば、Aタイプの顧客が6割、Bタイプの顧客が4割だということが精緻に分かったとしても、次に注力すべき顧客タイプは、ボリュームの多いAタイプなのか? 今後伸びそうなBタイプなのか? 「実行動データ」だけでは判断出来ません。戦略立案する人の将来の見通しが大事なのです。

「WHY SO(なぜそうなるのか?)」「SO WHAT(で、この先どうする?)」といったことが「実行動データ」分析からは、読み取りにくいのです。「実行動データのビッグデータからは何も分からない、価値が分からない」と言われる場合があります。それは半分その通りの面があり、やはりウェブ調査の「定量意識データ」やグループインタビューなどの「定性内容」との掛け合わせで、判断していくことが大事です。

Ⅲ「実行動データ」で小さなイノベーションを誘発する

「実行動データ」分析、マーケティングのIT化で、新しいターゲットに対して、安価なデジタル施策でトライアルしやすくなりました。そのため、分析ばかりして仮説の構築に時間をかけるより、安価なコストで、デジタル施策をテストトライアルし、仮説を検証しながらその精度を高めていくことができるのです。これまでは「分析」と「施策」が断絶していましたが、「実行動データ」の導入で、連携をしやすくなりました。

先ほどの例では「元ガングロギャルだった30代後半の人が、本当に自社のブランドに興味を持ってくれるか?数は少ないけど、口コミの発信源になってくれそうか?」「比較サイトに来た人が、新金融商品で、契約までしてくれるのか?」「機能性ビールをあっさり味だから選んでいた人は、こってり料理プレゼントに応募してくれるのか?」などの仮説は、バナー広告やデジタル上のキャンペーンをミニマムに実施して「実行動データ」で、仮説検証を精緻に実施することができます。

このようにしてデジタル施策上でテストトライアルして好成績を残せば、今度はマス広告施策で大きく勝負をかける意思決定もできます。つまり、「実行動データ」分析とテストトライアルの組み合わせは、低コストで、イノベーションを起こしやすい環境を生むのです。

ただ、ここでも留意しないといけないことがあります。デジタル施策で一人ひとりの個別対応施策ばかりし過ぎると、結局そのブランドは八方美人でブランド価値が散漫になってしまい、顧客も結果的に離れていく可能性が高まるということです。

「マーケティングのIT化」の時代、ブランドは「変えてはいけないこと」と「顧客一人ひとりに合わせないといけないこと」の、ハイブリッド・マネジメントが大事になってきています。ブランド価値の全体設計と個別設計のバランスの問題です。次回はこのようなことも課題として認識し、ブランド・グロースハックの「育てる」プロセス、「新しいブランド価値体験で、顧客育成をハックする」をご紹介します。お楽しみに。