読者の顔を思い浮かべて作る(前編)
2015/07/13
コミュニケーション手法が多様化するに従って、情報を独自の視点で加工し発信する「編集力」の重要性が高まっています。その編集力の秘訣について、出版社の編集者と電通のクリエーターたちが対談。それぞれの考える編集力を明らかにしていきます。
今回は、「おフェロ」や「雌ガール」といった若者女子の流行を生んでいる雑誌『ar』の編集長・笹沼彩子さんと、電通アートディレクターのえぐちりかさんが、互いの考える編集力について話し合いました。
編集力に大切なのは、「楽しみ力」
えぐち:以前からarを拝見していましたが、他の雑誌とは違う独自の視点を確立されている雑誌だと感じています。編集を行う上で、何か心掛けていることはあるのでしょうか?
笹沼:心掛けているのは、とにかく自分たちが楽しむことですね。個人としても編集部としても。雑誌は毎月作るものなので、放っておくと“こなして”しまいがち。でも、作り手が楽しめていなければ、読む方には楽しんでいただけない気がするんです。だからこそ、編集部一人一人が一冊一冊楽しんで作れるように。それをいつも考えています。
えぐち:それは私も共感できる部分です。広告も、いろいろなスタッフと協力してみんなで作るので、一人だけ楽しくても良くないし、クライアントもスタッフもわくわくして制作できる企画にすることを大事にしています。一つの方向に向けて、関わる人みんながチャレンジできる部分を作るというか。そうしないといいものはできないし、その過程も編集の一つなのかと思っています。
笹沼:私も、ちょっと暗くなっているスタッフがいると、気になって意味もなくウロウロしてますね(笑)。コピーや企画を練るときも、とにかくこちらが楽しんで。そういう意味で、「編集力」というのは「楽しみ力」や「サービス精神」だと思っています。
やりたいことと、知りたいことのバランスを取る
えぐち:笹沼さんのおっしゃる「楽しみ力」や「サービス精神」は、arの紙面から伝わってきます。楽しく、ときには茶化しながらも、読者をぐいっと引き込む仕掛けが盛り込まれていますよね。「フェロモン」にわざわざ「お」をつけて「おフェロ」という言葉や、小見出しの言葉選びも明らかに楽しんでいて、つけたときに編集部の方で笑っていそうだなって。
笹沼:まさにそうですね。編集部は本当に笑ってました(笑)。
えぐち:企画にも表れていて、「雄ボーイ、僕が恋する雌ガール」というシリーズがとても上手いと思いました。メークのアイテムなどを紹介する広告タイアップのページなのですが、商品開発者である男性にインタビューして、最終的には、その人のタイプの女性像をも明らかにしていくという(笑)。リアルがあるから読みたくなる。その企画のチャーミングさというか、作っている側の楽しんでいる様子まで伝わってきますよね。
笹沼:ありがとうございます。arのような雑誌は、時間のあるときに読んでもらって、気持ちを軽くしてもらうものなので、作る側も気楽に。ときにはノリで(笑)。それは編集部で共有しています。
ただそんな中でも、最後は女の子の読者の顔を思い浮かべて作ることを意識しています。編集者が一番知りたいことは、読者にとって早過ぎるケースがあるので、そればかり載せるとリアルから遠ざかってしまいがち。ですので、そこから一歩下がった企画や定番モノも織り交ぜて、バランスを取っていますね。
えぐち:私たちもそれは似ている部分があって、情報がたくさんある中で、広告はとにかく見てもらうことが大事。ですから、私たちも最後は「世の中の人たちが見たくなるもの、見てうれしくなるものはなんだろう」と考えて作ります。若い子向けの広告なら若い子の気持ち、お母さん向けの広告ならお母さんの気持ちを思い浮かべて。
クライアントの方の伝えたい思いと、一般の人たちの興味を組み合わせて、ついでに作る過程も楽しんでしまうようなこと。私の中での「編集」はそういうことですね。