で、次なにしてあそぶ?(後編)
2015/07/16
前回に引き続き、雑誌『Casa BRUTUS』の編集者であり、絵本『ふうせんいぬティニー』シリーズのプロデュースなども手掛ける奥村健一さんと、電通CMプランナーの東畑幸多さんが、編集力について対談しました。
アイデアを形にするとき、なぜ「好き」が重要か
東畑:「編集力」という意味では、アイデアを形にするプロデュース力や、ディレクション力も大切だと思います。奥村さんは、そのエネルギーもすごいですよね。例えば『ふうせんいぬティニー』のとき川村さんや佐野研さんに、どういう話をするんですか? コンセプトを伝えるんですか? ヒントの出し方ってありますか?
奥村:僕はとにかく大きなベクトルだけ伝えますね。「日本のディック・ブルーナになろう」とか、「世界に通用するモノを作ろう」といったニュアンスで。大きな方向や目指すものだけ示して、あとはお任せ。ニコニコしているだけです(笑)。そもそも、自分が大好きな人にお願いしているので。
東畑:日本のディック・ブルーナになろうって、すごいディレクションですよね。(笑)。シンガタの佐々木宏さんに聞いた話で、ある仕事でCDから「タキシードで授賞式に出席できる仕事にして」と言われて、作るものの中身が変わったと。そういうディレクションって案外大事なんだろうなと。奥村さんの仕事は、全てが「好き」から始まってる。好きとか、感動したときの記憶をたくさん覚えている。「好き」の収集家みたいなところがありますよね。これが奥村さんの編集力の武器なんですね。
奥村:ネガティブなことを探すのはどうしても好きではなくて、それよりはいいところを見つける方が圧倒的に楽しいんです。ですから、「好きなモノだけ集めました」というCasa BRUTUSのような雑誌が合っているんだと思います。
「編集力」は、場所や体験を作ることにも応用できる
東畑:最近では、雑誌や書籍にとどまらず、いろいろなジャンルに越境してお仕事をされていますよね。ふうせんいぬティニーをアニメ化したのもその一例かと。
奥村:それは、東畑さんから「マガジンハウスは雑誌を作る編集力が高い。それを別のジャンルにも使えるのではないか」と言ってもらったことが大きくて。アニメ化は決して目新しいことではないのですが、これからは、例えば空間のプランニングなどにも僕らの編集力を使っていければと考えているんです。
東畑:僕が言ったというより、奥村さんがすでに考えられていたことを聞いて、それを言葉にしただけです。以前、教えていただいた『Monocle』という海外雑誌のお話も興味深かったですし。
奥村:そうですね。Monocleというロンドンが拠点の雑誌では、リアルショップもあって、その商品セレクトや店の作り方は編集そのものだと思います。そういうふうに、編集力はトレンドを発信する「場所」を作ったり、「体験」を紹介したりすることにも応用できるはずなんですよね。これからは、面白い場所や体験を作れば、そこがメディアになると思うんです。
東畑:編集者が持っているEDITする能力って、もっといろいろな場所で活用できると思います。情報だけでなく、体験を編集する、空間を編集する、人生を編集する。マガジンハウス=編集家だと思っていて。地方、教育、親子、働き方、国と国との関係、EDIT力を必要としている場はたくさんあります。
奥村:最近はライフスタイルショップや、フードとファッションが融合したお店などが増えていますが、あれもまさに「場所の編集」。空間は誰が設計して、フードは…と考えるのは、雑誌の紙面でやっていることと近いんですよね。だから、例えば編集者が展覧会を作ったらどうなるのかな、というようなことをよく考えます。
東畑:マガジンハウスって、日本のセンスを上げてきた人たちだと思っていて。今の日本には、もっとグッドセンスが必要な場がいっぱいある。さっき言った、働き方も、教育も、親子の時間も、地方自治体とか。マガジンハウスのEDIT力をどんどん活用したら、もっと世の中が楽しくなると思っています。
<了>