インサイトメモNo.46
若者はホントにスマホ依存?
テレビ好きは健在?多様化する情報行動
2015/08/26
◆若者たちがテレビやパソコンやスマホを
どう使い分けているのか知りたい
「今の若者がスマホで何をしているのかよく分からない」
「若者はテレビを見ないでずっとゲームをやっているの?」
最近、そんなことがよく騒がれて、ニュースに取り上げられたりしています。
ソーシャルメディアや動画共有サービス、ソーシャルゲーム、キュレーションメディアなどの新しい情報サービスやコミュニケーションサービスが次々に登場している近年。
同時に、これらの新しいサービスを利用して、映像やテキスト情報に触れたり、友達とやりとりするために、スマートフォンやタブレットなど、大小さまざまな画面(スクリーン)を備える新しい端末も普及しました。
その結果、従来のテレビやパソコンにとどまらない、多様なスクリーンメディアに向けたさまざまなサービスが普及し、生活者の情報行動も飛躍的に多様化しました。
これらのメディア普及の影響を最も受けているのは間違いなく若者たちです。
「若者たちはどのようにスクリーンメディアを使い分けているのか」
最近はビジネス視点からも注目が集まるようになったのです。
しかし、若年層に限定して多様なスクリーンメディアの使い分け行動を分析するには、大規模サンプルの詳細データが必要になるため、その答えがなかなか得られないままでした。
◆詳細データで若者たちの情報行動を解き明かす
そこで電通総研メディアイノベーション研究部は、2014年度から調査規模が拡大したビデオリサーチのメディア接触環境調査データ「MCR/ex」を利用して、スクリーンメディアの多様な使い分けの様子をパターン分類してみることにしました。今回の分析ならではの特徴として次の2つが挙げられます。
スクリーンメディア利用行動を12のパターンに分類。
スクリーンメディア利用を、テレビでの①「地上波視聴」②「BS・CS視聴」③「録画再生視聴」④「(DVDなどの)パッケージ再生視聴」⑤「テレビゲーム利用」、パソコンでの⑥「メール利用」⑦「ネット利用」⑧「SNS利用」、スマートフォン・ガラケー・タブレットでの⑨「メール利用」⑩「ネット利用」⑪「SNS利用」⑫「パソコン・モバイルゲーム利用」と細かく分けることで、より詳細な行動を把握しました。
平日と休日を再定義し情報行動を把握。
メディア接触行動は平日と休日とで大きく異なることが知られています。しかも、近年は職業の多様化やサービス産業の拡大によりさまざまな勤務形態が出現し、土日祝日が必ずしも休日になっていない実態があります。そこで、平日を「一日のうち少しでも働いた/学校に行った日」、休日を「一日のうち少しも働いていない/学校に行っていない日」と個人ごとに定義することで、より正確な情報行動の把握を試みました。
なお今回は、コミュニケーション意識や価値観などは一切考慮せず、若年層(15~29歳)の「スクリーンメディア接触時間」だけを使ったメディアクラスターを作成し、その後各クラスターのプロファイリングを行いました。
以上の結果、若年層のメディア接触行動のパターン分類から、全部で10クラスターを抽出することができました。うち7つのクラスターを通して、若者たちのスクリーンメディアの使い分けを紹介します。
◆見えてきた、地上波テレビ放送視聴と他メディア利用の共存
いくつかのクラスターからは、スクリーンメディアの利用が多様化した若年層の間でも、地上波テレビ放送視聴と他メディアの利用を、生活の中でうまく共存させている様子がうかがえました。
圧倒的に「地上波視聴」中心の若者は健在である。
『地上波志向女子学生』クラスターや『地上波志向主婦』クラスターなど、「地上波視聴」を中心とした情報行動を行う若年は約28%存在していました。
【クラスター1】 地上波志向女子学生
【構成比 】5.2%
【主な職業】女子高校生、女子大学生
【ターゲット特性】
・平日と休日の地上波視聴が非常に多く、モバイルSNS利用も非常に多い。
・全体の約70%が女性。
・モバイルのSNS利用は全クラスターの中で圧倒的に一番多い。
・テレビの事をSNSに書き込んだり、SNSをきっかけにテレビを視聴することも多い。
【クラスター2】 地上波志向主婦
【構成比】22.9%
【主な職業】子どもと同居している主婦、事務・販売職のOL
【ターゲット特性】
・平日と休日の地上波視聴が非常に多く、休日のモバイルネットが多い。
・全体の約60%が女性。
・既婚率が一番高いクラスターで34.2%。
・情報行動においてテレビの占める割合が非常に多く、「テレビは自分にとって楽しめる」などポジティブな印象を持っている。
両クラスターとも、休日には平均4時間ほど地上波放送を視聴するなど、テレビの占める割合が多く、他のスリーンメディア行動といえばモバイルの接触時間が多い程度でした。メディアが多様化している現代においても、圧倒的に「地上波視聴」を中心としている若者は健在なのです。
「地上波視聴」と共存可能な「録画再生視聴」「BS/CS視聴」「パッケージ再生視聴」。
『TVコンテンツall-rounder』『多チャンネルユーザー』『パッケージマラソニングビューアー』の3つのクラスターは、「地上波視聴」時間が多く、かつそれぞれ「録画再生視聴」「BS/CS視聴」「パッケージ再生視聴」時間も多いのが特徴です。
【クラスター3】 TVコンテンツall-rounder
【構成比】7.5%
【主な職業】事務職系OL、小売業、飲食業、医療福祉業など、時間が不規則な職業の社会人女性、女子高校生、女子大学生
【ターゲット特性】
・平日と休日の地上波視聴が多く、録画再生視聴も非常に多い。
・全体の約60%を女性が占める。
・好きなテレビジャンルはドラマからバラエティーと幅広い。
・モバイルでの動画視聴行動が多いことからも、動画コンテンツへの親和性が高い。
【クラスター4】 多チャンネルユーザー
【構成比】1.2%
【主な職業】労務作業職の独身男性、男性自営業、男子大学生
【ターゲット特性】
・平日と休日に地上波視聴とパソコンネット利用が多く、さらにBS・CS視聴が非常に多い。
・全体の約70%が男性。
・好きなテレビジャンルは、海外のドラマや映画、野球など多チャンネルならではの番組が好まれる。
【クラスター5】 パッケージマラソニングビューアー
【構成比】1.3%
【主な職業】子どもと同居している既婚男性、女子短大生、女子大学生、女子大学院生
【ターゲット特性】
・平日と休日に地上波視聴が多く、さらに休日にパッケージ再生視聴が非常に多い。
・男性が約60%、女性が約40%。既婚率が約31%。
・休日にパッケージ再生視聴が多く、休日にまとめて映画などを視聴するマラソニング視聴をしているか、子どもと一緒に視聴している。
これらのクラスターは基本的に映像コンテンツが好きなクラスターであるため、1つの映像メディアに偏ることなく地上波テレビ放送も含めてバランスよく映像情報を摂取しています。従って「地上波視聴」や他の映像メディアである「録画再生視聴」「BS/CS視聴」「パッケージ再生視聴」などは、競合するものではなく、むしろ共存するものと考えた方が自然です。
「地上波視聴」と比較的共存可能な「パソコン・モバイルゲーム」と「モバイル利用」。
『地上波共存ネットゲーマー』『24Hモバイルメーラー』の2つのクラスターは「地上波視聴」時間も比較的多く、かつそれぞれ「パソコン・モバイルゲーム利用」「モバイルメール利用」時間も多いのが特徴です。
【クラスター6】 地上波共存ネットゲーマー
【構成比】10.6%
【主な職業】男性ビジネスマン、男子高校生、男子大学生
【ターゲット特性】
・平日と休日とも、地上波視聴とパソコンネット利用、モバイルネット利用が多く、特にパソコン・モバイルゲーム利用は非常に多い。
・全体の約70%が男性。
・パソコンオンラインゲームやソーシャルゲームの利用が多く、インターネットでラジオも視聴している。
【クラスター7】 24Hモバイルメーラー
【構成比】1.2%
【主な職業】女性の正社員販売サービス職(飲食業、不動産業)、医療福祉業従事者、女子大学生、女子高校生
【ターゲット特性】
・平日と休日の地上波視聴が多く、モバイルメール利用が非常に多い。
・全体の約60%が女性。
・パソコンネット利用は極端に少ない。好きなテレビジャンルは海外ドラマ。
・仕事柄、携帯電話のネット利用率が高く、頻繁に携帯メールを使用する。
『地上波共存ネットゲーマー』は、「地上波視聴」「パソコン利用」「モバイル利用」「パソコン・モバイルゲーム利用」とスクリーンメディア内でそれぞれ同程度の時間を消費しており、若者の中でそのシェアは約10%を占めます。
パソコン・モバイルゲームをするからといって、他のスクリーンメディア利用行動が極端に減少するわけではなく、むしろ他のスクリーンメディア利用行動とうまくバランスを取っています。シェアが約10%あることからも、パソコン・モバイルゲームという情報行動が生活の中に普通に浸透していると推測され、現代では決して珍しい情報行動ではないことが確認できます。
また、『24Hモバイルメーラー』は「モバイルメール利用」が非常に多く、職業柄一日中仕事で利用していると推測されますが、その他のスクリーンメディア行動では「地上波視聴」がほとんどの時間を占めます。従って、「パソコン・モバイルゲーム利用」「モバイルメール利用」も比較的「地上波視聴」と共存できる可能性が高いと考えられます。
以上のように、スマホ依存の若者が増えている中で、圧倒的な「地上波視聴」中心の若者が約28%も健在していたのは大きな発見でした。今後も、テレビ中心に生活する若者、パソコンを中心に生活する若者、モバイルを中心に生活する若者、ゲームを中心に生活する若者など、情報行動が多様化するのは間違いありません。だからこそ、より客観的な詳細データが必要であり、定量データから冷静に分析する必要が今まで以上にあるのかもしれません。