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汐留メディアリサーチャー時評No.1

世代別音受容の研究が、音楽定額配信サービスに生かせそうな件。

2015/08/28

私たち電通総研メディアイノベーション研究部は、メディアや情報通信環境の変化、そしてオーディエンス(視聴者)の動向を探ることをミッションとするシンクタンクです。さまざまな媒体でリサーチの結果を発表しているほか、ここウェブ電通報でもリサーチプロジェクトの知見をお伝えする「インサイトメモ」という連載を継続しています。

この新連載「汐留メディアリサーチャー時評」は、そうしたリサーチの知見をベースにして現代のメディア環境を読み解いていこうという時評企画です。その時々のメディアやオーディエンスに関連するトレンドをピックアップし、当研究部員のナレッジを踏まえて分析と考察を行っていきます。

第1回のテーマは「音楽定額配信サービス×音受容の研究」です。

タイトル

今年は音楽の定額制配信(いわゆる「サブスクリプション」)サービスの「元年」と位置づけられるかもしれません。相次ぐ大手IT企業によるサービスローンチが話題となっていますが、海外では既に幅広く受け入れられているこのサービス形態が日本ではいったいどれだけのインパクトを持ちうるのか、注目度は高まる一方です。

サブスクリプション型音楽サービスの特徴は、曲単位で対価を支払うのではなく、定められた月額料金を支払うことによって「聴き放題」で音楽を楽しめる点にあります。自分以外のユーザーが作成したプレイリストを聴くことができるなど、ソーシャルな機能が含まれているのも今日的な側面でしょう。

初めのうちは「新しいもの好き」なイノベーター層やアーリーアダプター層を中心に普及していくと思われますが、より多くのユーザーへと普及していく中長期的なトレンドを見越す上では、「音の受容性」の観点から考察することが何かしらのヒントを与えてくれるかもしれません。

当研究部と宇都宮大学大学院工学研究科・長谷川(光)研究室は今年2月に、105人の被験者を集めて一斉に音源聴取を行う、ホールテストを共同実施しました。この「音の受容性研究」から、示唆的な結果をいくつかご紹介します。

図1は、実験用のリズム音源でBPM (Beat Per Minute:楽曲のテンポを示す値)ごとの「好き」の度合いを聴取し、チャート化したものです。横軸がBPM、縦軸がそのBPMに対する「好き」という回答をスコア化した値になります。

世代別「好き」なテンポ比較

図2は、マイナーコードのキー違いでの「心が躍る」スコアを測定した結果を示すもので、横軸がキー、縦軸が「心が躍る」という回答をスコア化した値です。

世代別「心が躍る」スコア~マイナーコードのキー別比較

図1によれば、76世代(ナナロク世代/1976年前後生まれ)は他世代に比べてハイテンポな音を好むという結果が読み取れます。就職氷河期という経済的な時代要因の中で育ちながらも、「アゲ」な音の趣向性を持つ世代だと言えそうです。

また一方でバブル世代と形容される66世代(ロクロク世代/1966年前後生まれ)は、意外にもマイナーコードを好むという結果が図2から解釈できます。ゆっくりのテンポを好むという結果も出ており、66世代についての今まで知られていなかった側面が音の受容性から明らかになっています。

こうした傾向の把握は、より個人の好みに応じた曲を提供するレコメンデーション機能などへの活用によって、サブスクリプションサービスの利用率向上に寄与する可能性を持つでしょう。

その他の結果として、56世代(ゴーロク世代/1956年前後生まれ)や96世代(キューロク世代/1996年前後生まれ)は、さまざまなジャンルの音への受容性が高いという知見も得られました。96世代については、ネット上で音楽を聴く習慣が根付いていることがこうした結果に結び付いていると推察することもできます。

このように音への受容性が全般的に高い世代に対しては、サブスクリプションによる意外な出合いの提供が功を奏する可能性があるという点は注目に値すると考えます。

音楽に限らず、コンテンツのアーカイブ化とその配信というトレンドは今後も続いていく趨勢ですが、今回のように世代論的なオーディエンスインサイトと結び付けて、さらに考察を深めることもできるのではないでしょうか。


電通総研メディアイノベーション研究部×宇都宮大学大学院工学研究科・長谷川(光)研究室
「様々な音の受容性に関する実験」概要
■調査対象者
女性を対象に、56世代(1956年前後生まれ)、66世代(1966年前後生まれ)、76世代(1976年前後生まれ)、86世代(1986年前後生まれ)、96世代(1996年前後生まれ)それぞれ20名程度の合計105名
■調査方法
会場に集まって被験者が一斉に音源聴取を行うホールテスト調査
■調査日時
2015年2月14日(土)

電通総研メディアイノベーション研究部では、メディアや情報通信環境の変化を着実に捉え、進化し続けるオーディエンス(視聴者)の動向を探っていきます。世の中のキザシをいち早く発見し、オーディエンスとの「最適なコミュニケーション」を提案しています。

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