【続】ろーかる・ぐるぐるNo.64
宮崎で出会った「海の幸」
2015/09/03
旅先の居酒屋は格別です。長い年月、地元のお客様に支えられてできた空間は宝物のようで、そこにこっそりお邪魔して土地の肴をつまんでは、地酒をちびりちびり。幸せをかみしめる瞬間です。
静岡にも、長野にも、博多にも、札幌にも、この街に来たら「行かなくちゃ!」なお店を見つけたのですが、残念ながら毎月1回出張で訪れている宮崎市内にはまだ「コレ!」というお店がありません。もちろん美味しい料理とお酒を楽しめる割烹のようなところはたくさんあるのですが、ちょっとすすけたような、老舗らしい雰囲気を醸し出すお店にはまだ巡り合えていません。
「宮崎にいい居酒屋はないんですかね?」と酔ってくだ巻くぼくを「よそにあるものを探しても仕方がないでしょ? 宮崎にしかないものを楽しみましょうよ」としかり飛ばし、一枚の写真を見せてくれたのが宮崎日日新聞の松本さんと市内でBIOワインと発酵食品のバルを経営している藤田さん。そしてそこに映っていたのが「石波海岸」でした。正直完全な一目ぼれ。こうして前回ご紹介した山深い秋元集落から一転、夏休みの後半は太陽がさんさんと降り注ぐ日南海岸が舞台となったのでした。JR九州が誇る観光列車のひとつ、名産「飫肥杉」をふんだんに使った車両で有名な特急「海幸山幸」に揺られて一路、南に下りました。
日南海岸もご多分に漏れず旨いものが目白押し。カツオといえば土佐が有名ですが、近海モノの一本釣りでは宮崎がその高知に倍近い差をつけてぶっちぎりの日本一なんだとか。天然記念物にも指定されている在来種「地頭鶏(じとっこ)」に由来する地鶏をたたきで楽しめたりとか。きゅうりやトマト、なす、ピーマンといった夏野菜はもちろん宮崎の得意とするところだったりとか。もちろんお酒は地元の焼酎で、とか。
そんな土地の味をのんびり楽しんでいたのですが、衝撃的だったのは最終日の夕方、松本さんと藤田さんに連れて行っていただいた念願の「石波海岸」でした。その写真がコチラ!
どうですか? 南仏の海岸をほうふつとさせるような、でももっとスケールが大きくて、ぜいたくな空間がそこにありました。そしてそこで地元の畜産家が育てたダチョウ肉(これがサッパリした赤身肉で、塩コショウだけで旨いんです)や日本で初めて「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定するなど有機農法に熱心な綾町の農作物をジュージュー。これに美味しいBIOワインを合わせれば、嗚呼、ホントに天国です。
「なんでこんなにすてきな空間なのに、誰も来ないんだろう?」という素朴な疑問にお二人が答えてくださるには、
「写真を見てここに来たがるのは、東京の人なんですよね。誰もいないのが素晴らしい!って。でもそういう方々は遠くてなかなか来れない。で、宮崎の人はって言うと『良い場所かもしれないけど、誰も来てないじゃん』って笑うんです。誰も行かないから、誰も来ないんです(笑)」
その一方で、きっと「自分で発見」しなければ、その魅力に命懸けで取り組もうと思わないだろうな、とも思います。うまくいかなくても「やっぱりダメか」となってしまうからです。
他人の気持ちになって「発見」するのは難しいことですが、以前もお話しした自分の中に「こびと」を住まわせる方法が有効です。今回の件でいえば「東京の人」の視点を持ち、「自分自身」の胃袋や欲望で反応する「半分自分、半分他人」な存在です。心の中でそのこびとに対し「こういうことは好きですか?」「お金を払います?」という対話を繰り返すことで、自分だけの感覚では反応しないことまで魅力を探していくことができるのです。
そして「こびと」を心に住まわせるためには、やはり多くの人と出会い、観察し、会話をし…いろいろな経験を重ねなければなりません。なかなか難しい技術ですが、必要不可欠です。
正直、「石波海岸」にレストランができ、人ゴミでごったがえすなんて想像するだけでもイヤです。こっそり通っていたお気に入りの居酒屋が急に人気店になっちゃうのと同じ。でも宮崎の皆さんにはもっともっとその魅力を情報発信してほしい。そんな相矛盾する気持ちを抱えながら、今度はお休みではなく出張で向かう宮崎の道中、この原稿を書いているのでした。
「よし、今晩仕事が終わったら居酒屋探索はやめて藤田さんのお店で飲むか!」
ここにお店の詳細情報は載せられないのですが、機会があれば皆さんも文中のヒントで探してみてください。名店です。
どうぞ、召し上がれ!