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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.65

「正解」という幻想

2015/09/17

nori
丸徳海苔の商品

今年度の上期も明治学院大学で経営学特講「イノベーションとクリエイティビティ」を担当しました。いつも通り毎回の授業で行う小テストで30%、授業中の発言で30%、期末テスト40%で成績評価。聴講生含めた60名くらいの学生さんの意欲は例年にも増して高く、出席率も過去最高レベルでした。そして今回のテスト問題がこれです。


 

広島で焼き海苔、味付け海苔などを加工・販売する「丸徳海苔」。最近、なかなか海苔が売れないなか「もっと多くの人に楽しく海苔を味わってもらいたい」というビジョンのもと新商品を開発することになりました。
さて、どうすればよいでしょう?


皆さんならどんな商品(コンセプト)アイデアを考えますか?

この問題に込めたのは「正解なんてない。でも『その手があったか!』という良解はある。それを求めて七転八倒しよう」という思いでした。ベストセラー『知的複眼思考法』著者の刈谷剛彦オックスフォード大学教授も日本の学生を評して「どこかに正解がある、と思っているふしがある。自分の頭で考える力を鍛えなければならない」という旨のことをおっしゃっています。今まで受けてきたテストの大半には「正解」があったであろう彼らに、現実社会で直面するのと同じタイプの問題に取り組んでほしかったのです。

実際、丸徳海苔の悩みは一筋縄では解決できません。食生活の変化や贈答需要の落ち込みなどから業界全体が低迷しています。かつては地元広島湾でも採れた海苔の収量も激減し、海外に比べるとかなりコスト高です。社内の職人は高い技術を誇っているのに、それを生かす場も年々減っています。

こうした状況を一定程度はぼくから説明し、さらに問題発表からテストまで2週間の時間があったので、彼ら自身であれこれ材料を集められたはずです。コンセプト(アイデア)をつくる方法論は半年間の講義で伝えてありました。採点基準のひとつとして「他のテストなら他の人と答えが一緒だとうれしいでしょ? でもこれは『その手があったか!』のチャレンジだから、他の人と同じじゃダメ。正解を当てにいくんじゃなく、フルスイングで考えよう」ということを挙げました。その結果。

渋江美羽さんが生み出したのは「野菜に食べさせる海苔」。肥料にできるのではないか、という発想です。その主な論拠としては①豊かなミネラル成分は野菜の育成にもプラスなこと、②はたき海苔(食品としては価値がない色落ちした海苔)の扱いが業界の課題であること、③研究はされているが商品化には至っていないことを挙げていました。

ほとんどみんなが当然こととして考えていた「海苔は人間が食べる物」という常識を覆そうとした点が素晴らしかったです。欲を言えば「なぜ商品化に至っていないのか?」「海苔の肥料を使えば付加価値がつく野菜って何だろう」といった、もう一歩の「なぜ?」があればもっと良くなったと思いますが。

同じく「食べ物」という常識を疑ったのが本間統己さんでした。彼が提案したのは「海苔の入浴剤」。ミネラルが肌によく、お風呂が磯の香りで包まれるのが気持ち良い、というものです。正直「美容・ダイエット系」の解答がいちばん多かったのですが、その中では圧倒的にたくさんの海苔を消費できそうな案でした。風呂のパイプが詰まっちゃいそうですが、それはまぁ、ご愛嬌。

食べ物という領域の中で「のりたまって、なぜ『ふりかけ』なんだろう?」という問いを突破口にしたのは望月志保さんでした。子どもも含めみんなが大好きな「あの味わい」をフレッシュな生卵と最高級の海苔、だし醤油で再現すればもっと美味しくなるのでは?というアプローチです。きっとふりかけ開発担当者がどうやって卵や海苔の香りを再現しようか苦労したであろう商品から「逆転の発想」をしたわけで。これには思わず「なるほど」と笑ってしまいました。

皆川耕介さんはビジョンにある「楽しさ」を表現するには味わいだけでは不十分と考え、「家庭菜園」をヒントに「育てる海苔」を編み出しました。他にもスイーツにしたり、ランプシェードにしたり、カラフルにしたり、パスタにしたり、みんな結構自由に考えてくれたので、正直、採点していて退屈することはありませんでした。大学の講義はそれなりに骨の折れる作業ですが、それに十分見合うだけの刺激をもらえます。

meiji
明治学院の仲間たち

学生さんのコンセプト(アイデア)をご紹介することですっかりハードルが上がってしまいましたが、実はこの丸徳海苔に関する「問題」はぼくが実務の中で取り組んだものでした。来月、ようやく新商品を発売できるので、次回は「ぼくの解答」を恐る恐る提出しようと思います。

学生の皆さん、お手柔らかに(笑)。それが「正解」じゃないからネ!!

どうぞ、召し上がれ!