US発★グーグル「アルファベット」、型破りのシリコンバレーは健在
2015/09/10
8月10日、グーグルの経営組織再編と持ち株会社「アルファベット」の設立が発表された。アルファベットの傘下には、グーグルを筆頭に、自動運転車やドローンなど次世代技術の開発を行っている研究機関「グーグルX」やスマートホーム開発の「ネストラボ」、投資機関の「グーグル・ベンチャー」と「グーグル・キャピタル」、ライフサイエンスと老化抑制に取り組むバイオテクノロジー部門「キャリコ」などが、グーグルから独立して子会社となる。クリエーティブ系専門コンサルタント企業、米リッピンコットのジョン・マーシャルCSO(最高戦略責任者)はアドエージで、「ルールを書き換えるのはいつもシリコンバレー」ということを示す出来事だと指摘する。
現在主流のブランド構築戦略は極めて簡潔で、「強力な親ブランドを築いて投資をつぎ込み、自社の従業員から投資家、消費者に至るまで、浸透に向けてその親ブランドを徹底的に用いる」というものだ。当然、個々のブランド独自の戦略も存在するが、一つの強力な親ブランドという構造は不動のものとして今も広がっている。市場ではブランド数を絞り、買収したブランドを統合する傾向が主流だ。3Mやゼネラル・エレクトリック(GE)、IBMといった世界的なブランドはどれも、一つの強力な親ブランドの下に独創的なブランドファミリーを築くことに成功している。一般的には「ブランドシステムはシンプルに」が鉄則だ。
しかし、グーグルは違う。持ち株会社アルファベットを設立し、グーグルという強力なブランドの上に置くという大胆なアイデアに打って出た。過去10年間で、最大のブランド誕生となるかもしれない。グーグル・ファミリーのブランドポートフォリオは縮小するどころか拡大しており、複雑な組織体制による煩雑さやマルチブランドによる多額の支出などまるで意に介さない様子だ。アルファベット設立によるグーグルの新組織体制は、一つのブランドに照準を合わせるのとは逆に、多くのブランドを並列させる余地を生むかもしれない。
シリコンバレーの「型破り」はグーグルにとどまらない。オンライン映像配信サービスのネットフリックスは、人事規定改革で画期的な無期限休暇を打ち出し、世界中の人事担当者たちを驚かせた。タクシー配車サービスのウーバーは人員をほとんど雇用しないまま、時価総額500億ドルを維持している。アマゾンもサプライチェーン改革でセブン-イレブンなどと提携し、チェーン店舗に配達ロッカーを導入する。その配達にはドローンを使用する可能性もあるという。
これら企業の戦略の中でも、グーグルのアルファベット設立は突出している。「企業らしくない」独創的企業がずらりと並ぶグーグル・ファミリーを傘下に置くことだけが役割のブランドなどあり得るのか。複雑な組織体制から価値を生むことはできるのか。グーグル自体の特異なブランド性は、事業規模の限界が予測できる検索ビジネスに活動を絞っても維持できるのか。
こうした問いにグーグルはこれから答えを示すだろうが、それはどの企業にも通じる普遍的なものではなく、やはりグーグルのDNAだからこそあり得る答えとなるのだろう。それでも、トレンドに逆行して単純ではない道を進むグーグルが示す答えは刺激となるに違いない。ブランドとはロゴを貼って大事にしまっておくものではなく、「呼吸する生き物」だということ。そして型破りのグーグルが示す「自分に忠実であれ」というメッセージこそが、ブランドルールの最も重要な基本ということだ。