電通スマプラNo.18
スマホ世代の若者たちが、モノを欲しがるのってどんなとき?
2015/09/10
はじめに
こんにちは、電通スマプラの杉原です。突然ですが、皆さんは最近、心から「これ欲しい!」と思えるような買い物をしましたか?
スマホが登場して、人はいつでもどこでも洪水のようにあふれる情報への対応を強いられています。広告や記事、SNSの投稿によるオススメ情報や口コミサイトの評価など。スマホが手に張り付いている限り、常に接続可能な状態です。
そして情報が増えたことで、普段の消費行動において、何かと買わない理由を見つけるくせがついてしまっていないでしょうか。つまりモノに対して、心から「これ欲しい!」と思う気持ちが、薄まってきているのではないでしょうか。
スマホを使いこなす、スマホ世代の若者たちは、“モノを欲しがらなくなった“といわれます。車やブランド品にもさほど興味を持たず、周りから浮かないものを選ぼうとするような、消費にネガティブな存在のように思われています。でも彼らにだってちゃんと欲しいものはあるのです。ただ、「これ欲しい!」と思うまでのプロセスが異なります。
ではどうすれば、彼らに対して強い消費欲求(「これ欲しい!」と思う気持ち)を呼び起こすことができるのでしょうか。
電通スマプラの若手プランナーが主体となって、シリーズを通して、スマホによって人の消費欲求の作られ方はどう変わっているのか、という問いに答えるべく、10代~20代を中心としたスマホ世代の若者に注目します。
まずは実態を捉え、ゆくゆくは、スマホ時代における新たな消費欲求のツボについても、考えていきたいと思います。
「これ欲しい!」が生まれる仕組み: 「わたし視点」と「なかま視点」
そもそも、買い物についてあれこれ悩んでいる若者の中には、常に2つの視点が存在しているのではないでしょうか。ひとつは、自分を主語とするもの。もうひとつは、他者の反応を意識したものです。この2つの視点は常に対になって働き、私たちの「これ欲しい!」という気持ちを引き起こしています。
この2つの視点前者を「わたし視点」、後者を「なかま視点」と呼ぶことにします。それぞれについて、より詳しく考えてみたいと思います。
・「わたし視点」
「わたし視点」とは、自分から見て「これ、いいね」と思えるかどうか、という視点です。いつの時代も、どんな世代の人も持つものです。また「わたし」は、それまでの体験や記憶によって形づくられるものなので、一人一人違う基準があります。
・「なかま視点」
続いて「なかま視点」とは、身近なコミュニティーに属する知人や友人といった「なかま」から見た視点です(ここでは不特定多数の人を含む世間全体より、小規模のグループを想定しています)。この視点は明らかに今の時代らしい性質を持っています。インターネット、そしてSNSの普及に伴い、私たちはマスコミが描く世間や社会といった大きな物語よりも、身近でリアルなコミュニティー=「なかま」の輪に居場所を見いだすようになりました。「これ、いいよね」というリアルで身近な共感に基づくネタや口コミといったコミュニケーションが、「なかま」の関係性を作り上げ、補強しています。
この「わたし視点」と「なかま視点」で判断し、十分納得できるものに対して、若者は「これ欲しい!」と感じるようになります。
スマホ時代の変化
では、スマホとSNSの普及によって、この2つの視点はどう変化したのでしょうか。
変化その1: 「本当に自分が欲しいものはなんだろう?」 「わたし視点」が誰かの疑似体験で作られる。
スマホの普及に伴い、実際に時間やお金、労力をかけて体験しなくても、スマホというデバイスを使って大量かつ詳細な情報をインプットできるようになっています。芸能人や憧れの友人の情報はもちろん、一度も顔を見たことがない人によるおしゃれな投稿まで、あたかも自分で体験したかのような気分になることができるようになりました。
例えば、お金や時間を費やして実際に旅行に出掛けなくても、世界中の美しい景色を知ることができます。実際に有名ブランドの店舗へと足を運んで店員と会話しなくても、あるいは購入しなくても、その歴史や世界観を調べて、知った気分となり満足することがあります。自分の大好きなタレントがライフスタイルを魅力的に発信しているInstagramを見て、自分もすっかりそのスタイルに共感して、同じような商品を欲しがるようになる、なんてこともよくあります。
今や自分から見た「わたし視点」は、どこからか聞きかじった大量の情報によって常に大きく揺らいでいるのです。
変化その二:「 オススメやお墨付きは当たり前。どれを本当に選べばいいんだろう?」~「なかま視点」のフィルター化~
スマホによってSNSに常時接続状態となった若者は常に「なかま」の視線にさらされていることを意識しています。日々、SNS上の交流や発信の場における立ち居振る舞い方を学んでいます。フィードに流れてくる記事や投稿は、すべて可視化された評価(コメント、レビュー、いいね!) が一緒についてくるので、瞬時に取捨選択ができます。
つまり若者たちは、いかに「なかま」から良いと思ってもらえるか(”褒められそう!“ ”これなら浮かない“ ”いい話のネタになりそう”など)という視点を常に持っているといえます。さらに、それを自分が所属している複数のコミュニティー別に、それぞれ「なかま」からどのように評価されるかを瞬時に予測し、行動できるようになりました。
これは、「なかま」の存在感や重要性をますます強めることになり、そして若者たちの「これ欲しい!」を生み出す過程の第一のフィルターとして機能するようになってきたのです。まずこのフィルターを通過できなければ、どんなに良いモノやサービスでも、消費者にとってはただ情報が流れてきているだけ、というふうに捉えられてしまいます。
実際に調査をしたところ、スマホを使いこなす若者は、より「なかま視点」を意識して買い物する傾向にあることが分かりました。
スマホを使いこなす若者に、「これ欲しい!」と思わせるためには
ここからは、電通スマプラの世津が考察を進めていきます。確かに杉原さんの整理によれば、スマホがもたらした変化によって「欲しい!」と思えるまでに新たなハードルができたり、あるいは「欲しい!」という欲求の捉え方自体を見直したりする必要が出てきたということがいえるのかもしれません。ただ、こんな状況の中でも「これ欲しい!」という気持ちを強くかき立て、売り上げを伸ばしている商品やサービスもたくさんあります。そうしたモノやサービスに対する「欲しい!」という気持ちが芽生える仕組みについて、まずは「わたし視点」と「なかま視点」を使って、説明を試みたいと思います。
最近のヒット商品をいくつかピックアップし、商品の購入者及び購入検討意向がある人と、商品に興味はあるが購入検討意向はない人にそれぞれ評価してもらうという調査をしたところ、前者の方が「わたし視点」と「なかま視点」の両方を持つ傾向にあることが分かりました。また、この2つの視点は内容的にリンクしています。一方、購入検討意向のない人は特に「なかま視点」がとても希薄で、あるいは挙げられる視点が分散しています。
つまり、スマホ時代の若者は「わたし視点」もしくは「なかま視点」のどちらかをクリアしているだけでは動かないのです。例えば、“バズっているから周りから受け入れられそう”は「なかま視点」しかクリアしておらず、“自分にとってこれは使える!”は「わたし視点」しかクリアしていません。これら一方だけでは不十分です。
商品のコアバリューを規定するときは、ターゲットにぴったりハマるような「わたし視点」と「なかま視点」について、セットで考えることが必要になってきます。「わたし視点」でメリットを感じてもらい、それを評価する「なかま視点」をどう設計すべきか、仕掛けていくことが今後の課題になるでしょう。
さらにこの情報が多い状況においては、この2つの視点をほぼ同時に、瞬時にクリアできなければいけません。
「わたし視点」と「なかま視点」を同時に満たせるコアバリューを見つけること、つまり、2つの視点の「重なり」の部分をつくることです。しかもそれを、消費者が瞬時に判断できるかたちで示すことが、欲求をつくる鍵になりそうです。
いかがでしたか。次回以降は、さらに具体的なデータやリアルな事例から学びながら、彼らの行動を分析していきたいと思います。
「買い物意識と行動に関する調査」概要
調査方法 :インターネット調査
調査エリア :関東
調査対象:10代~40代/スマホあるいはガラケーの個人使用者(600ss)
調査期間 :2015年6月27日(土)~6月28日(日)
◎「電通スマプラ」とは?
スマートフォンを中心としたスマートデバイス(パソコン、タブレットなど)上のビジネスの立ち上げ、成長・拡大に貢献するプランニング・ユニットです。
チーム内には、スマートフォンのゲームやアプリなどのマーケティング・コミュニケーションの実績が豊富な戦略プランナー、コミュニケーションプランナー、コンサルタント、コピーライター、プロデューサーなど、多種多様な人材をそろえています。また、一人一人が何かしらのオタクであるため、課題への深堀りはもちろん持ち前の個性と人間力でクライアントに向き合うことをモットーに、マーケティング活動を支援していきます。