電通スマプラNo.17
トップクリエーターと考える、スマホゲームの未来。後編
(ミストウォーカー×エイリム×電通スマプラ)
2015/05/18
みなさん、こんにちは。電通スマプラの山本です。
スマホアプリの売上げの約9割を占めるというスマホゲーム市場で今、ユーザーから求められるゲームとはどんなモノなのでしょうか。前編に引き続き、最前線で活躍する方々と一緒に考えていきます。
FINAL FANTASYの生みの親でもあり、最近では「テラバトル」が話題の坂口博信氏と、「ブレイブ フロンティア」を開発したエイリムの早貸久敏氏、高橋英士氏の3名をお招きし、スマホゲームの未来についてお話をうかがいました。
課金は諸刃の剣なのか
──コンソールゲームの様に、ある程度のところでエンディングを設け、続編を出していく。そんな遊ばせ方をするタイトルの登場を願っている人は、けっこういるんじゃないかと思うのですが、そういうゲームが誕生しないのはなぜでしょうか?
早貸:運営する立場として、ゲーム内で何万、何十万円とお金を使ってくださったユーザーがいることを、やはり無視できないからでしょう。
坂口:課金の問題だよね。だから、そこまでもうけちゃいけない。上限値を設ければいい。そこでもうけたいと思ってしまうから、身動きが取れなくなって、結果的にIP(Intellectual Property、知的財産)として死んでいく。長い目で見たら、課金に上限を求めてIPとして生かした方が、20年後の総収入としては多いと思う。
高橋:本当にそう思います。言っていることと、やっていることが違うと怒られるかもしれませんが(苦笑)。
でも、1回スマホゲームとして成功させた上で、改めて言おうと思って。「やっぱり、あれは間違っていた」と。やらないで言っているだけだと、単なるひがみにしか見られませんからね。やった上で否定してやろうと思って(笑)。
──そのような過度な課金を良しとしない傾向って、業界内にはありますか?
高橋:あると思いますよ。脱ガチャみたいなことを宣言している骨太の方たちもいらっしゃる。今は売り上げランキングが見えてしまうので、それにユーザーさんも巻き込んで踊らされていると思いますが、本来そういうことってゲームの世界では、気にするものじゃなかったはずなんです。ヒットしたものはヒットしたでいいし、セールス的にヒットしていなくても人に評価されるゲームはいっぱいあったはずなんですが、あの仕組みのせいで、よれた感じに議論が発展している部分はあると思います。
坂口:ランキング上位にするためだけにダウンロード数をブーストさせるようなやり方が存在してしまっている。非常に曲がった形のプロモーション手法で、しかもそれが定着してしまった。あれは良くない。ランキング至上主義になり、業界が正常に発展していかない。
早貸:このままじゃ変な成長をしちゃうだろうなとすごく痛感していて。私たち自身、やりながらも疑問には思い続けています。
坂口:今はやたらとアプリの数が多いので、なにしろ埋もれてしまいます。目立つようにすることがまずは先決。もちろんAppleやGoogleにフィーチャーされたらいいけれど、そこはコントロールできない。あそこのストアの中では、書店に例えるなら「本を平積みできたら」という衝動がみんなあるわけだから、そのときにランキングということしか自分たちはいじれないですよね。それはまあ、今のところしょうがない部分なのかもしれないですね。
──売り上げに大きく影響することとして「海外でヒットするかどうか」もあると思いますが、ゲームを作られるときに海外を見越してこういうような仕様にしようとか、作りにしようとか考えることはありますか?
坂口:ちょっとコンソールゲームの話になりますが、JRPG(日本のRPG)と呼ばれていたものが世界を席巻したものの、最近どうも元気がないよねという風潮がここ数年ありますよね。その流れと、JRPGの制作者たちが欧米で受けるように作り始めたのとは、相関しているはず、というのが僕の意見です。
海外のゲーマーは、JRPGをしたいんです。日本人向けに作られた日本のテイストの何ともいえない異文化のものを遊びたいんです。それは任天堂とかソニーのおかげで、ハードウエアを世界に広めた結果、“J”なものが強制的に認知されて、何かおもしろいぞとカルチャーショックを与えたことから、JRPGのヒットが起こったんだと思います。
それが見様見まねで欧米で売ることを目標にした結果、何とも言えない中途半端なことになった。そして、彼らはJRPGが衰退しているというようになった。日本のクリエーターはどこに行ったと。
だから、日本人向けに作って、日本の子たちが「すごいおもしろい!」と言うものを輸出した方がいいと思っています。その中には、もちろん、輸出に向いているものと向いていないものがあるけれど、それは仕方ないことですよ。向こうの人向けに作っても、少しは成功する可能性はありますが、長期的に見たらダメでしょうね。
早貸:結果的にテラバトルは、今、坂口さんがおっしゃられていた需要にマッチした。鼻とか口とか、文化に根ざしたものを取っ払っていて、絶妙なところを突いていると思っています。あれを変にリアルにしていたら、もっと違う反応が起きたのかもしれませんね。この絵は俺たちには合わないと。
坂口:変な欧米の絵になってしまう。
早貸:それがうまくはまった。すごいと思います。
山本:ブレフロは、いかがですか?
高橋:早貸をフォローするわけではないですけれど、ブレフロのキャラクターから口を取ろうという判断は、海外の趣向を汲んで、彼が狙ってやりました。
坂口:それも、欧米向けというよりはブレフロの個性でしょ。海外を意識したとはいえ、それが個性になってますから。
スマホゲームが抱える大きなジレンマ
──テラバトルやブレフロは、スマホRPGのひとつのカタチを示したゲームだと思っていますが、スマホでRPGをやるということは、今後どういうふうに進化していくんでしょうか?または、どのように進化させていきたいと考えていますか?
坂口:やっぱりキャラクター。キャラクターって、ゲームを進めるためのコマではあるけれど、FFなんかも最初は単なるドットのコマでしかなくて、でもそいつらが芝居をして、大した芝居でもないのに、パロムとポロム(FF4に登場するキャラクター)が石化して道を開けて、プレイヤーを先に行かせてというだけで、プレイヤーが泣くわけじゃないですか。あの時の思い出というのはすごく強くて。大した演出ではないんですよ、設定としても。だけど、ゲームのコマとしてというよりは、生きたキャラクターとしてユーザーの中に根付いている。それは自分が育てたキャラクターであったり、それまで過ごした時間が長くて、思い入れがあるからだと思うんですよ。
──僕もFF5のガラフとエクスデスの戦いでは、涙した記憶があります。
坂口:やっぱりそこにキーワードがあって、自分の育てたキャラクターたちが何かを起こすことで感情を揺さぶられて、感動が生まれる。それがRPGの定義とは言わないけれど、僕がやってきた歴史で言うと「何かこのゲームすごい」という感情が生まれる、意外に大きな要素かなと思います。そこでユーザーを引きつけてしまえば、あとはそのキャラクターたち自体がIPになると思っています。それは、僕が非常にお世話になった、集英社の鳥嶋和彦さんの教えでもあります。FF1がなぜダメかというのは、キャラクターが立っていないよと。ゲームという器で長時間遊ばせているだけで、こんなものはエンターテインメントじゃない、大事なのはキャラクターなんだと。
まるっきりマンガのキャラクターを立ててはダメだと僕はそのとき思ったけれど、でも、ゲームなりにそこを取り入れたら勝ちかなと、鳥嶋さんの指摘を受けて思った記憶がありますね。
早貸:かっこいいですね。下手すると、坂口さんの言うコマみたいなキャラクターがいっぱい出てきて、なかに強いヤツがいて、それを取ったらクリアできて終わり、というだけにゲームがなってしまうと寂しいと思っていて。今はじめてスマホでゲームをして遊ぶ子どもたちに、僕たちが子どものときにワクワクした感動みたいなものを感じてもらいたいなと。
──なるほど。キャラクター化こそ、これからのスマホゲームが乗り越えていくべき命題かもしれませんね。
坂口:その時に面倒くさいのが、コンプガチャ問題とキャラクターのロスト問題なんですよね。
──それは、どういう意味でしょうか?
坂口:やっぱり誰かと誰かがそろったから何か技が出るというのは、これはRPGの基本なんですよね。友情ものなんです。これが我々からすると、変なコンプガチャ問題によって規制されてしまったことが、意外とスマホRPGにとっては弊害で、もうちょっと法律を整備してほしいなと。もしそれが射幸心をあおる課金につながらないのであれば、もうちょっと緩めてもらうとか。
やっぱり大事ですよね。特定の3人で出せる連携技のために、そのキャラクターたちを一生懸命育てたわけだよね。そんなに戦力にならないにもかかわらず。
──クロノトリガーの3人技とか、本当にワクワクしましたからね。
坂口:本当にそうなんですよ。あとはやっぱりキャラクターがロストする問題。シナリオにおいて、あるキャラクターが死ぬという要素はすごく大事なんだけれど、スマホゲームではこれが難しい。
早貸:そのキャラクターを育てるために頑張って課金をしていた場合の問題を、どう回避するのかという解決策が今はないですからね。だから、そういうシナリオはまだ作りづらいですよね。
坂口:この2つをうまいこと解決することが必要なんじゃないの。要は、課金の比率をうまく下げながら、その代わりに友情ものやロストなど、ストーリーは自由にやる。ユーザーは、その方がよりゲームの世界にのめり込んでくれるから、結果的には、もしかしたら売り上げがいくかもしれない。
スマホゲームならではのビジネスモデルをめざして
──長期的に遊んでもらうためにとか、IPとしてどう育てていくかとか、そんな視点でやっていくことが、今後求められてくるのかもしれませんね。本当の意味で、ユーザーから愛されるゲームづくり、と言いますか。
高橋:コンソール向けのドラクエとかファイナルファンタジーとか、「400万本セールス!」って、要するに400万課金ユーザーということですからね。400万人全員が6000円課金するって考えると、すさまじい数字ですよ。優秀なゲームは10%ぐらいの課金率といわれていますので、今のFree to Playのスマホゲームで言うと、トータルで国内4000万人ぐらいのゲームという事になりますから。どれだけ多くのユーザーから愛されていたことか、と考えさせられます。
坂口:スマホゲームを運営していてとても良いと思うのは、無課金でプレイしていたユーザーたちが、ある一段落したところでお布施的に課金してくれるじゃないですか。これはすごく美しいことで、この流れは逆に根付いてほしいですよね。感動したから後から払う。払う場所がゲーム内にあるから、1000円出す。これはものすごくうれしいお金ですよ。ここはもっとアピールしていった方がいいような気がする。単にガチャという装置だけではなく、お布施というユーザーからの心付けがあって、売り上げが生まれている、と。その数字を公開して活用するような動きというか。
高橋:ガチャさえなければ、きれいになるんでしょうね(笑)。
坂口:いや、ガチャは楽しいよ!すごい楽しい。だから、あれはうまく使えばいいんですよ。そんなに憎むべき存在ではないって。
高橋:何が出るか、ワクワクして楽しいのは事実ですよね。でも、あれがダイレクトに売り上になる構図ですから、法律も敏感になる。実際に激怒している人もいっぱいいる。現時点では、そこから離れられないという気がしますが、やっぱり我々の最大の課題ではありますよね。どうやって変わっていくのか、変えていけるのかなと。
早貸:基本はゲームが楽しいと思ってもらえて、このゲームだったらもう少し遊ぶから、これだけ長く遊べるんだから、お布施じゃないけれど本当に少しぐらいお金を落としても損はないというような考え方があるのかなという気がします。
坂口:うまく変えていきたいですよね。いろいろなゲームがありますしね。RPGやガチャだけではなくて、それこそシナリオを買っていくとか。
早貸:シナリオ購入とか、LINE課金とか、LINEゲームとかも、プレイするために課金をするのは、ゲーセン課金的な感じで、かけたお金に対して絶対に損はしないタイプ。そういうタイプのスマホRPGが登場すると、ある意味すごく美しいですよね。
──今後ますます、スマホゲームがユーザーと共に盛り上がっていくこと、そして両社からスマホ発の大ヒットIPが誕生することを期待したいと思います。今日はありがとうございました。