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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

イノベーションを生み出す組織とはNo.1

Erik Hallander × 得丸 英俊(前編):
革新はテクノロジーとクリエーティブ
から生まれる

2015/09/15

7月1日、デジタルソリューションを専門的に扱う電通iX(アイエックス)が、旧電通レイザーフィッシュから社名を変更して新たに発足しました。今後、同じ電通グループに属する海外のクリエーティブブティックと積極的に協業する中で、「手掛けるビジネスが一番似ているのでは」と得丸英俊社長が語るのが、グローバルでデジタルクリエーティブをリードするIsobar(アイソバー)です。オーストラリアから来日したモバイル&イノベーションディレクター、エリック・ハランダー氏を迎え、イノベーションを促す組織のあり方や、協業への期待を語り合いました。

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“autonomous”——個々の裁量を認めるIsobarの企業風土

 

得丸:イギリスを本拠地とするIsobarは、最先端のテクノロジーとクリエーティビティーで、世界最大規模のデジタルネットワークを確立しているエージェンシーとして知られています。今日は、アジアパシフィックのモバイル & イノベーション領域のディレクターを務めるエリックさんとお話できることを楽しみにしていました。

エリック:私もです。よろしくお願いします。

得丸:普段はオーストラリアにいらっしゃるんですよね。まずは、これまでのご経歴を伺えますか?

エリック:私はもともとプログラマーで、15年ほど前に出身地であるスウェーデンで会社を興しました。その後、ノキアに就職してオランダのアムステルダムで働き、それからアメリカのシカゴに移って数社のエージェンシーに勤めていました。数年後、Isobarのオーストラリアから誘いを受けて、プログラミングのリーダーとして入社したんです。Isobarに参画して、もう7年半になりますね。

得丸:ずいぶん早くから、世界を股に掛けて活躍してこられたんですね。国際的にいろいろな地域を経験していることは、今のアジアパシフィック全体を見るというポジションではかなり大事なのではないですか?

エリック:そうですね。異なる国に住み、働いた経験があると、それぞれ違う文化や相違点に気付きやすいというところはあります。海外生活が長いと、そのあたりにはセンシティブになりますね。

得丸:Isobarは、デジタルエージェンシーの業界でも極めてイノベーティブな会社だと知られ、昨年のカンヌライオンズでもInnovation Lionなど国際的な賞を受賞されたりもしています。実際に、どのような会社なのでしょうか?

エリック:Isobarは、私がこれまで勤務してきた会社とは、ずいぶん違う気がします。まず、働くスタッフの環境として、一人一人に“autonomous”——自治権、意思決定ができる裁量が認められています。自由にのびのびと、挑戦したり提案したりできる。スタッフにとって非常に心地よく、クリエーティブでいられる環境だと思います。

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異なる背景を持つスタッフ間の協業を促す仕組み

 

得丸:それは、各国のIsobarに共通する傾向ですか? それともIsobar オーストラリアで特にそうなんでしょうか。

エリック:各国のIsobarが一律で同じかというと、現在50近い国で事業を展開しているので、異なるところはあると思います。規模や雰囲気がオーストラリアと似ているのは、アメリカやブラジルのオフィスですね。ただ、スタッフの裁量を認めるところを含め、グローバルでIsobarとしての一貫性を持とうという動きはあります。
各国のオフィスには、その国の文化や社会経済的な要因が反映されて当然ですし、違っていることが利点でもあります。異なる市場で仕事をしていると、お互いから学ぶところも多いですよね。

得丸:Isobarの中でも、オーストラリアの成長は著しいと聞いています。スタッフの裁量を大きく認めているところが、その要因のひとつなのかもしれませんね。各国にも広がるのではないですか?

エリック:そうかもしれません。Isobar自体の“journey”も、非常に早いスピードで進んできましたが、オーストラリアは特にそうですね。私が入社した7年半前は50人ほどだったのが、今は320人います。

得丸:Isobarオーストラリアは、スタッフの半分くらいがテクノロジー系だというのも聞いたことがあります。日本のエージェンシーとはずいぶん違うんだな、と。

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エリック:確かに、メルボルンのオフィスでは40〜45%がテクノロジー系のスタッフですね。キャンベラ、パース、シドニーのオフィスもだいたい同じような比率だと思います。

得丸:なぜ、そんなにテクノロジー系のスタッフが多いんでしょうか?

エリック:それは、Isobarがテクノロジーに特化したプロダクトやサービスをオファーできるエージェンシーを目指しているからです。元々、Isobarの設立の背景には「他社にはできない提案ができるエージェンシーになりたい」という意志がありました。

革新はテクノロジーとクリエーティブの両方から生まれる

 

得丸:テクノロジーを駆使した提案をしていくにも、当然クリエーティブのスタッフとの協力が必要ですよね。でも、仕事の進め方や使う用語も違うので、なかなかうまくいかないケースも多いと思います。そのあたりは、どう融合させているのですか?

エリック:ひとつのターニングポイントになったのは、3、4年前にオフィスの席順を改めたことです。以前はテクノロジー、クリエーティブ、ストラテジーなど部門ごとに席を分けていましたが、プロジェクトごとに座るよう変更したんです。すると、違うバックグラウンドを持った人たちとのコラボレーションがとてもうまく運ぶようになりました。プロジェクト単位でも、先ほどお話しした裁量を認めていますが、それぞれのプロジェクトリーダーの下で一層主体的に仕事を進められるようになったんです。
また、テクノロジーとクリエーティブのスタッフがよりよく協業できるように、最新技術を共有する「technology education session」や、自由にアイデアを出し合う「idea session」といったミーティングの場を定期的に設けています。

 

得丸:新しいアイデアやイノベーションを生み出すには、部門を超えたコラボを促す席順やミーティングといった工夫と、やはり先ほどの“autonomous”が大事なんですね。現場へ権限を委譲する。それを重視したから、今の成長があると考えますか?

エリック:100%、まさにそうですね。以前は細かいところまで上司がチェックして管理する、マイクロマネジメントの傾向が強かったかもしれません。そうではなく、一人一人のスタッフが自由に、裁量を持った上で協業できるようになったら、本当に仕事の中身が変わったと思います。

得丸:今の時代のイノベーションは、テクノロジーと深く結びついていますから、その能力を十分に発揮させることは大きなポイントになりますね。

エリック:そうですね。ただ、私としては「イノベーション=テクノロジー」だとはちょっと言い切れないという気がしています。Isobarはテクノロジーに力を入れていますし、それが時に魔法のようなことを実現する、イノベーションを起こす力になっているとは思います。でも、必ずしもそれだけじゃない。「イノベーション=クリエーティビティー」でもあると考えているんです。
言い換えれば、これまでにない新しい考え方ができるかどうか。それがつまり、革新をもたらすことにつながるのだと思います。

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得丸:なるほど。ちなみにエリックさんは、アジアパシフィックのイノベーションディレクターとして、この広域での組織やカルチャーづくりもミッションになっているのですか?

エリック:そうだと思っています。そもそも、今の私の役職自体、以前はなかったものなんです。皆が能力を発揮できる環境を整え、企業文化を向上させることも含め、当社が将来どのようなものをお届けできるようにするのかを考えるのがミッションですね。
Isobarオーストラリアは、おかげさまで商業的にも成功を収め、文化を構築するという意味でもうまくいっていると思います。なので、この経験をアジアパシフィックの他国にも展開し、サポートする役割も担えればと思っています。

(後編に続く)


<後編では、バーチャルリアリティーの話を中心にエリックさんが注目するテクノロジー、さらに協業による広がりについて伺っていきます。>