loading...

イノベーションを生み出す組織とはNo.2

Erik Hallander × 得丸 英俊(後編):
互いの知見を共有し、新たな価値を
創出していく

2015/10/02

7月1日、デジタルソリューションを専門的に扱う電通iX(アイエックス)が、旧電通レイザーフィッシュから社名を変更して新たに発足しました。前編に続き、同社の得丸英俊社長と、Isobar(アイソバー)アジアパシフィックのモバイル& イノベーションディレクターであるエリック・ハランダー氏が協業への期待を話しました。

all
 

VRの技術は数年のうちに社会を変える

 

得丸:Isobarの組織の特長について伺ってきましたが(※前編)、少しテクノロジーの話も掘り下げてお聞きしたいと思います。今エリックさんが注目しているテクノロジーは何でしょうか?

エリック:ひとつは、目に見えないテクノロジーです。先端技術というと、たとえばロボットのような分かりやすいものがイメージされますが、実は私たちの生活の背後には目に見えない、でも静かに動いて人生を豊かにしてくれるようなテクノロジーもたくさんあります。スマートフォンでも、さまざまな先端技術によって本来の電話の機能に付加価値が与えられ、それを皆が当然のように便利に使っていますよね。
もうひとつ興味があるのは、“emotional response”——何らかの感情を引き起こすテクノロジーです。これらはまず、見た目が美しい。Apple Watchや、数々のバーチャルリアリティー(以下VR)の企画もそうですね。かっこいい、触りたいなという気持ちを抱かせて、そこから体験した人たちを感情的に揺り動かす。そんなテクノロジーに注目しています。

得丸:VRについては、先日行われたアドテック東京インターナショナルの、エリックさんのキーノートでも語られていましたね。これからのコミュニケーションビジネスに影響を与える、大きなテーマになりそうでしょうか?

エリック:ええ。数年のうちに、社会を変えるものになるでしょう。まだVRは若い段階にありますが、すでにこれを活用したプロダクトや活用しようとしている業界を見るにつけ、この業界でもいずれ皆が目にし、探索せざるを得ないものになると確信します。
Isobarオーストラリアでも、現在5件のVR関連プロジェクトが動いています。それぞれ中身は違いますが、いずれも単なるPRのためのギミックではありません。先ほどお話ししたような感情を刺激し、“unlock”——気持ちを解き放つ役割を果たすものです。

erik
 

得丸:なるほど。最近の例だと、どのようなものがありますか?

エリック:ゼネラルモーターズの企画で、「CoDriver」というVRのプラットフォームを立ち上げました。車に乗り込んでオキュラスを装着すると、実際にドライブをしているような仮想空間を体験できるものです。すでにモーターショーでは、同社の展開するシボレーの車種 コロラドで、モロッコの砂漠やニュージーランドの山でのドライブ体験の提供を始めています。地形に合わせて車自体も振動するので、臨場感がありますよ。
この開発には、実に5年半をかけました。それだけ投資もしているわけですが、同社が長く使えるものとして開発したので、今後はディーラーなどでも使えるようにしていきます。違う場所で撮影してコンテンツも増やし、体験をどんどん面白いものにしていく予定です。

新しい領域に失敗はつきもの そこから何を学ぶか

 

得丸:VRは社会を変えていく、というお話がありましたが、いずれは一般家庭にも入り込み、消費者と直接コミュニケーションを図るようになる……とお考えですか?

tokumaru
 

エリック:おっしゃる通り、そう思っています。たとえばソニーもVRを重視して、プレイステーション用にヘッドセットを出していますよね。オキュラスも、イベントなどを通して一般の人が体験することも増えるでしょう。これだけ影響力がある会社がVRに着手しているということは、近い将来に消費者の身近なものになることは間違いないと思います。
だから、コミュニケーションを扱うなら今後は欠かせないテーマですし、今から勉強していこうというエージェンシーの方が、将来が明るいのではないかと思います。新しい領域では失敗も多いですが、そこから学びを得ていけばいい。

得丸:エリックさんも、失敗したことはありますか?

エリック:もちろん、たくさんあります。本当に新しいことを学ぼうとするなら、失敗はつきものです。失敗は、ここでは何が効果があり、何が効果がないのかを知るいちばんいい材料です。
だから上に立つ者は失敗を怒らず、それをよしとする文化をつくらなければ。早く、そしてたくさん失敗して学びなさいという意味で、よく“fail fast, fail often”と言われますが、“learn fast, learn often”という言い方をしたいですね。

得丸:いいですね。大きな企業になると、失敗を許容しスピード感を持って発展する文化が薄れる傾向もありますが、意識的になりたいところです。

エリック:よく、スタートアップを見習うべきだという意見も聞きますが、それはつまり「早く仕事をしろ」ということなんじゃないかと思うんです。電通iXもIsobarも、これだけの規模に育った理由がありますから、そこは大事にして活用すべきじゃないかと。
強みを生かしながら、たゆまず進んでいくことが大事です。私はひとつの信念として、この業界は日々進化し続けないといけないと、強く思っているんです。仕事がコモディティー化し、誰にでもできるものになったら、当然我々のビジネスモデルは脅威にさらされます。だから常に、今動いていることの数年先を見据えないと生き残れない。VRもそのひとつですね。

erik
 

得丸:同感です。テクノロジーを含め、コミュニケーションを変えるような新しい事象や考え方をアグレッシブに追求していかないといけない。日本でも、そこに重点を置かなければと感じています。

相互の知見を共有し、新たなイノベーション目指す

 

得丸:電通iXでは今後、電通グループの海外の会社との協業を一層強化していこうと考えています。元々、前身の時代から「Innovative Experience」を企業のコンセプトにしていて、iXはここから取っているんです。Isobarとは特に、ビジネスの内容が近いと思うので、実際の取り組みの数も増えていくと思います。
ここまでお話を伺ってきたように、Isobarにはテクノロジーを軸としたイノベーションを学びながら、それを促す組織やカルチャーのつくり方も吸収したいですね。各国での調査など知見を共有できる「nowlab」という機関の仕組みや、職種を越えてハッカソンのイベントを行っている点なども、興味深いです。

tokumaru
 

エリック:「nowlab」は、元々はIsobarの各拠点をつなげる意図で立ち上げた、全社横断的に皆が活用できるデータバンクのようなものです。ハッカソンの活用についてもそうですが、個人の学びに終わらせず、学んだことをシェアして、自分の国ならどういう価値に転換できるのかを考えることが大事ですね。

得丸:拠点を超えて知見を共有する活動が進んでいるのは、素晴らしいですね。その中に僕らも参加させてもらったり、何か貢献できるようにしたいと思います。

エリック:Isobarでは、テクノロジー関連のヘルプやコンサルティングならできると思います。一方で電通iXは、まだ当社がさほど強くないトラディショナルな広告の知見が豊富だと思うので、そのあたりは勉強したいところです。ぜひ得丸さんやiXチームの皆さんと一緒に、デジタルにもトラディショナルメディアにも強い、両方を橋渡ししてイノベーションを起こせる存在になれたらと思います。
そのためにも、まずはお互いにどのようなことを提供できるのか、知り合うことが必要ですね。次のステップが、「nowlab」の共有でしょうか。スタッフの交換留学などが実現するなら、うちのスタッフは皆参加したがると思います。

得丸:それはいいですね! iXのメンバーも、ぜひエリックさんのところへ行きたいと言うはずです。

エリック:オーストラリアは、ヤシの木とビーチも魅力的ですよ(笑)。

erik