“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。
2015/10/07
激変する消費者のマインドと、その消費行動に対応するために、多くの企業が新しいコミュニケーションに積極的にチャレンジするようになりました。しかし、限られた消費者のアテンションを獲得し、バズもそこそこ広がったにもかかわらず、肝心のセールスが思ったほど伸びない、という事例も多数見受けられています。
あらゆるものがネットワークでつながり、あらゆる情報がネットワークに流れる時代、今まで通りのコミュニケーションプランニングでは通用しないケースが増えています。本連載では、その解決の糸口として電通プロモーション・デザイン局が提案する消費行動モデル「Dual AISAS(デュアル・アイサス)」を説明し、さらにコミュニケーションプランニングへの活用を紹介したいと思います。
AISASモデルとは?
はじめに2004年に電通が提唱したAISASについて復習をしましょう。
AISASは、自ら情報を検索し発信する消費者=アクティブコンシューマーの出現に伴い、それまで使われていたAIDMAに変わる消費行動モデルです。
AIDMAは、情報を発信する企業側とそれを受ける消費者という“ワンウェイ”モデルでしたが、AISAS は、Search(検索)とShare (共有)という消費者の能動的な行動を加えて、企業と消費者が互いに関与し合う“インタラクティブ”な関係へと変化しました。また、消費者の行動がActionで終わらずに、その経験を共有し合うところまでを消費行動モデルとして取り入れています。
その後、2007年に出版された秋山隆平著『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』(宣伝会議)では、消費者の情報消費量をはるかに超える情報が流通する「情報過剰時代」を迎えると、限られた消費者のAttention(アテンション)が消費のボトルネックとなり、企業はアテンションを奪い合うようになると書かれています。
さらに、情報過剰時代に対応したクロスメディアプランニングとして、消費者に情報を受け入れてもらうためのマーケティング・プログラム「アテンション・マーケティング」(自社製品の情報をキャッチしてもらい、関心を向けてもらう)、情報を消費者の心の中に浸透させるためのマーケティング・プログラム「ペネトレーション・マーケティング」(自社製品を自分にマッチしていると感じてもらい、関心を深めてもらう)についても解説されています。
Dual AISAS Modelとは?
AISASの登場から10年がたち、消費者とネットワークがより密接な関係になってくると、消費者は消費にまつわるさまざまな種類の情報をネットワークに流通させるようになり、ますますアテンションの奪い合いが激しくなりました。Dual AISAS Modelは、これまでのAISASに、アテンションにまつわる新たな消費行動を組み入れ、さらにモデル内に流れる情報と消費者が持つ興味の中身を明確に規定することで、現在の消費行動をより忠実に表現しています。
そこでDual AISAS Modelは、これまでのAISASを「『買いたい』のAISAS」という購買モデルとし、Attentionの周囲に回る情報拡散モデルを「『広めたい』のA+ISAS」として加えました。
アテンションを補完する「『広めたい』のA+ISAS」
まずは「『広めたい』のA+ISAS」について、解説します。従来のAISAS冒頭のA:Attentionを取り囲むISASのループは、主にSNSやコミュニケーションアプリなどからの情報を意味しています。皆さんも消費者として実感されている通り、自身が興味(Interest)を持ったネットワーク上の情報行動に触れると、それを蓄積するだけでは飽き足らず、その情報に自らの感情を加えてSNSなどを通じて「共有・発信」(Share)する行為が当たり前になりました。
すると、この発信者とプライベートなネットワークでつながっている第三者は、元々の情報に加えて、発信者の感情も受け取るので、その情報は“無視のできない=強いアテンション力を持った”ものへ昇華することになります。この段階を「受容・共鳴」(Accept)と名付けました。さらにはこの第三者が発信者となってその周囲へと情報が「拡散」(Spread)し、時にはキュレーションメディアなどのデジタルメディアを介在しながら、別の消費者のプライベートなネットワークに入り込むことで、リーチを加速させていくようになりました。
このように、消費者にとってプライベートなネットワークから得られる情報がマス広告に勝るとも劣らない“無視のできない情報”としての価値を持つようになり、マス広告と消費者のアテンションを奪い合う(企業側から見るとマスを補完するものとして設計すべき)現状の重要性を唱えるものとしてISASループを加えました。
コミュニケーションに対する興味と商品に対する興味
そして、もう一つ整理をしておきたいのは、「『買いたい』のAISAS」と「『広めたい』のA+ISAS」に流れる情報とそれに関連した消費者の興味の中身の違いです。Dual AISAS Modelでは、「『買いたい』のAISAS」は商品やサービスの購買に向けてエンゲージメントを深めていく流れとして考えます。なので、ここでサーチ、シェアされる情報は、商品やサービス・ブランド体験といった商品そのものにまつわる情報であり、つまりAISASの流れにいる消費者は“商品関心層”となります。
それに対して「『広めたい』のA+ISAS」は、消費者が商品やサービスのコミュニケーションにレレバンシー(関連性)を感じ、リーチを広げる流れとして考えており、拡散される情報は商品やサービスそのものよりも、より消費者の関心事に沿った、例えば参加型の広告キャンペーンやバズ動画、共創型プロモーションなどコミュニケーション施策やマーケティング関連の情報であることが多く、A+ISASの流れにいる消費者を“コミュニケーション関心層”として捉えます。
このように整理をすると、冒頭の「今までのコミュニケーションプランニングが通用しない」という課題に一つの示唆を与えてくれます。広告やプロモーションは目標通りに認知され、バズもそこそこ広がったはずなのに、肝心のセールスがほとんど動かないという状況は、「『広めたい』のA+ISAS」で“コミュニケーション関心層”は広がったけれど、そこから「『買いたい』のAISAS」の“商品関心層”への落とし込みがうまくできていないと説明ができます。
これまでのAISASでは、消費者の興味を表すInterestは一つでしかなく、ここに説明したような二つの興味(コミュニケーションに対する興味と商品に対する興味)は区別していませんので、コミュニケーションに対する興味を高めれば自動的に商品に対する興味も高まると考えていました。しかしDual AISAS Modelにおける二つの興味は自動的に連動するものではなく、戦略的に連動させなくてはならないものと考えることになります。
Activateの重要性
そこでわたしたちはマーケティング課題達成の大変重要なテーマである、“コミュニケーション関心層”から“商品関心層”へと変容する瞬間の“鍵”をActivate(起動・活性化)として組み入れ、A+ISASのAとしました。
これは消費者が、何らかのきっかけにより、商品の購入を意識して行動し始めることであり、そのきっかけのメカニズムを解明することが大変重要です。
では、Activateの機能を果たす有効な打ち手とはどのようなものでしょうか? これについては今後事例と検証を積み上げなければなりませんが、例えばコミュニケーション関心層に対して、すでにその商品を使っている顧客の使用体験やブランド体験などの情報をデジタルプラットフォームで得られるようにするなど、既存顧客が持っている“購入理由”を形式知化してコミュニケーション関心層に発見させることがきっかけになると考えています。例えば、レビュー&レーティングなどもその一つですし、魅力的なユーザーたちの紹介、知られていない商品の利用シーンの提示などをきちんと発信するというような仕掛けが必要になります。
このようにDual AISAS Modelで消費行動を捉え直すと、KGIを達成し成功するためのコミュニケーションプランニングには、ビッグアイデアのみならず消費者に存在する二つの興味を戦略的に引きつけ連動させるような緻密な設計が必要になります。
※Dual AISAS Modelはアタラ合同会社の有園雄一氏により考案され、電通プロモーション・デザイン局で有園氏とともに検討・改良を加えたものです。
※Dual AISAS Modelに関する問い合わせは、電通プロモーション・デザイン局(作田、矢島、赤木、杉田)もしくはdual-aisas@dentsu.co.jpまで。