東京未来地図2020
東京は、どのように変貌するのか?
2015/10/05
東京2020を控え、大きく変貌を遂げようとしている東京。
臨海地域はどう変わるのか。主要ターミナル駅、交通インフラはどう進化するのか。
国内トップクラスの建設コンサルタント会社・パシフィックコンサルタンツの交通デザイン室長であり、都市計画から交通インフラの国家プロジェクトまでさまざまなプロジェクトに従事してきた杉本伸之氏と、電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局の清水拓氏が、2020年へ向かう東京の姿を語る。
環状2号線にBRTを導入し、
虎ノ門と臨海地域の移動がスムーズに
清水:杉本さんは都市開発のスペシャリストとして、さまざまなプロジェクトに関わっていらっしゃいます。2020年に向けて東京はどう変貌を遂げていくのでしょうか。特に臨海地域はかなり開発が進むといわれていますね。
杉本:臨海地域は1995年に都市博が中止になり、開発が滞っているところがありました。それが東京2020では、オリンピックの主要な会場として使われることになり再注目され始めました。関連するプロジェクトも加速していて、例えば豊洲の新市場や東京ビッグサイトの拡張、民間のマンション建設も進もうとしています。それに合わせて必要なのが交通インフラで、虎ノ門ヒルズから新橋、汐留を通って勝どき、晴海、豊洲、有明につながる環状2号線ができる。さらに、このルートを使ってBRTという交通システムをつくろうとしています。BRTはバス・ラピッド・トランジットの略で、バスを基盤とした高速輸送、大量輸送システムです。渋滞によるバスの遅延を回避するために、信号を優先的に青に変えて、専用レーンを設ける。さらにはバスを連接すれば大量輸送が可能となります。
清水:スムーズな移送に特化して、臨海地域へスピーディーに人を流すことができるわけですね。
新駅の誕生など、10万人以上が利用する
インパクトのある開発に
清水:新しい駅ができると人の動きや流れが大きく変わると思います。品川の新駅や、BRTの発着点になるという虎ノ門辺りにも新駅ができる予定ですが、具体的にどう変わっていくのでしょうか。
杉本:品川は駅の高輪口側で大きな再開発計画があります。また、JR品川-田町駅間にできる新駅周辺では、商業、住居、オフィスなどの整備も進もうとしています。1日で10万人以上が利用することになるので、かなりインパクトのある開発になります。JRの山手線で新しく駅ができるというのは、西日暮里駅(1971年開業)以来、約50年ぶりですから。
虎ノ門では、東京都と港区が環状2号線(新虎通り)を軸ににぎわいがあって緑豊かなシンボルストリートとして新たな街をつくろうとしています。また、虎ノ門ヒルズの近くを通る東京メトロの日比谷線に虎ノ門新駅をつくり、アクセス性の向上を図ろうとしています。
清水:BRTや環状2号線、品川や虎ノ門の新駅など一連の開発が密接に絡み合い、臨海地域への動線強化につながっていきそうですね。
杉本:今まで東京は、地域間が道路でうまく結ばれていないところがありました。今回、東京を環状線で結び、臨海部を串刺しにする道路ができることで、虎ノ門から選手村や新しい豊洲の市場などにつながります。そこに、新たな交通システムであるBRTが乗る。非常にイノベーティブな開発だと思います。
ネーミングライツが、公共交通の事業を下支えする
清水:今後、いろいろな公共サービスの開発も進むと思いますが、広告にも貢献できる面があると思っています。例えばロンドンでは、ネーミングライツの導入によってレンタサイクルやロープウエー、水上バスなど新たな公共サービスが誕生する事例が見られました。その面ではいかがでしょうか。
杉本:ロンドンのレンタサイクルは街を歩いていると目立つんですよね。歴史ある街並みに対して、ちょっと近未来的なデザインの自転車で。しかも、自転車の広告の高さが人の目線に入りやすい。それが移動しているのですから、広告として効果があるかと思います。また、レンタサイクルは、利用者の料金収入だけでは事業採算が厳しい。それを広告収入で一部まかなっている。ネーミングライツが新たな公共交通の事業を下支えしているという構図になっています。
ロープウエーにもネーミングライツを導入しています。インパクトのある新たな交通手段としてつくられ、テムズ川の川向かいの開発と連動させる予定です。ネーミングライツ料が10年間で約67億円になり、採算面をサポートしています。水上バスも同じですね。公共交通というものは日常的に使うので、人の目に触れる大きなチャンス。広告としても効果があり、事業採算がうまく成り立ちづらい公共交通を下支えできるので、お互いにメリットがあると思います。
水上バス、鉄道、レンタサイクルなどによるモーダルミックス
清水:ロンドンでは、陸・海・空のモーダルミックスがうまく進んでいった印象がありますが、東京ではいかがでしょうか。
杉本:東京でも公共交通を組み合わせて賢く使うモーダルミックスという考え方は必要だと思います。
例えば、東京は江戸時代から水運が重要な交通手段でした。しかし、最近はあまり使われていない。水辺空間は親しみやすさがあり、景観も改善されつつあるのでそれを生かそうと東京でも見直されています。
清水:羽田から日本橋を結ぶ計画もありますね。
杉本:水上バスになります。羽田空港から日本橋まで渋滞もなく40分でつなぐことができ、レインボーブリッジをくぐるので観光もできます。羽田に来た訪日外国人の方々に、東京を海の視点で観光していただけるとともに時間も短い。いずれお台場のような海沿いのホテルに水上バスでチェックインできるようになると楽しいですよね。そういう新たなスタイルの交通になり得るのではないかと。
ただ、現在では水上バスは他の交通機関とうまく結節されていません。例えば桟橋の近くには駅があまりない。そこで駅と水上バスをレンタサイクルなどでつなぐということも求められていると思います。電車から降りて駅でレンタサイクルを利用してそのまま自転車で水上バスに乗り、陸に上がったら自転車で駅まで行って電車に乗る、という。まさにモーダルミックスで、世界にはあまり例のない新たな交通の在り方ですね。パーソナルモビリティーも同じように鉄道駅~水上バス~鉄道駅間で使えれば、お台場やオリンピック会場などを周遊しやすくなるので高齢者にも優しいものになると思います。
清水:点と点のエリア開発ではなくて、線でうまくつないでいく、交通網全体のデザインが重要になってくるということでしょうね。
東京は、外需を誘引するショールームになる
清水:交通網が整い、新しい商業施設もできて、とても住みやすい街になっていくことは容易に想像できますが、東京2020をきっかけに、それをレガシーとしていかに残していくかという視点が大事ですね。
杉本:1964年の時もインフラとして首都高や新幹線、東京モノレールなどが整備され、今でも非常に重要なインフラとして使われています。当時は、まだ新興国だった日本が高度経済成長を遂げるためにつくられ、その上で世界にアピールするという、内需牽引型だったんですね。
東京2020では、日本は成熟国です。そうなると内需牽引というよりも、外需を呼び込む外需誘引型が必要です。対日投資を呼び込む視点と、日本のインフラやサービスを世界に売り込む視点が大事だと思います。
例えば、水素エネルギー。建物屋上の太陽光パネルなどによりCO2を排出しないクリーンな水素を生成し、バスをその水素で動かしたり、また住宅やオフィスのエネルギーとしても利用したり。それぞれでやっていたことを水素でつないで、街やオフィスの電源供給と乗り物を含めた“水素の街”としてパッケージにする。こうした日本の技術やサービスを輸出するという視点、そのショールームとして今回の臨海副都心は活用できるのではないかと思っています。
清水:“水素の街”のパッケージ化が、外需誘引施策のひとつになる、ということですね。
杉本:さらにレガシーとして思うことは、人を中心とした空間の形成であり、移動しやすいLRT(次世代型路面電車システム)などの導入です。道路空間は、皆さん共通の公共空間として一番使える場所。それをもっと生かせないかと。
下のイメージ図は、道路空間をこれまでのクルマを中心としたものから、人を中心としたものに変えています。高速道路の首都圏3環状道路ができると、都心に用のないクルマは迂回できます。すると、道路空間をクルマから人中心の空間に再配分しやすくなります。さらにLRTを導入すれば、高齢者はわざわざ階段の上り下りをしなくてもいいし、環境にも優しい。そこには、オープンカフェがあったり、レンタサイクルがあったり、パーソナルモビリティーといった新たなものを乗り継いだり。そういった空間でしたら家族連れや高齢者にも優しい街になり、さらに魅力が上がると思っています。
清水:東京2020がきっかけになって、そういったレガシーが残せるといいですよね。
オールジャパンで取り組めば、地方にもレガシーが残る
杉本:今は東京2020で東京が注目されていますが、日本には47もの都道府県があります。これをきっかけに、海外から来られた方には、地方にも足を運んでいただき、地方のおいしい食べ物や固有の文化を感じ、世界にも通用する産業を知っていただきたい。オールジャパンとして東京2020に取り組むことで、地方も一緒に世界へ発信していくことが大事だと思っています。
清水:とても示唆に富んだお話をありがとうございました。