Experience Driven ShowcaseNo.27
話題を生むPOP UP STOREができるまで
2015/10/06
7月4日~8月22日、東京の青山・表参道で、キリンビールがチャーミングなポップアップストア「OMOTESANDO CIDRE by KIRIN HARD CIDRE」を展開しました。
この企画を手掛けたトランジットジェネラルオフィス(以下トランジット)の甲斐政博さん、電通CDCのクリエーティブ・ディレクター間宮洋介さん、電通イベント&スペース・デザイン局のプランナー小山沙織さんが、プロジェクトを振り返って語り合いました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
やったことがない難しいチャレンジを、クライアントと共にやる
小山:私がプランニングに入った段階では、すでにポップアップストアの実施が決定していました。間宮さんが年間プロモーションのプランニングの段階で提案していたのですが、数あるソリューションの中で、なぜハードシードルにはポップアップストアが良いと思ったかを伺えますか。
間宮:大きく二つ理由があります。まず今回のハードシードルという商品が市販されていない、お店でしか飲めないということです。商品としては非常においしいので、「百聞は一見にしかず」ということで気軽に飲める場所をつくりたいと考えました。
もう一つは、クライアント内部の組織の壁を越えて、組織を横断するようなことをやりたかったんです。例えばお店をやるとなると、メニューも提案する、コミュニケーション戦略も入ってくる、空間プロデュースやイベントプロデュースも含まれてくる。それぞれクライアント内で担当する部署が別々なので、思惑もバラバラ。そんな人たちが、学園祭みたいに一つになれるゴールをつくりたかったというのがあります。
小山:私はイベント&スペースのプランニングチームにいるんですが、実際にお店やイベントを一緒につくると、クライアントとの距離が近くなるんです。目標を打ち上げて、ひとつのゴールに一緒に向かっていくので、一体感を得られる。
間宮:イベントで3~5日間とかだったらヒット&ランで乗り切れるのですが、今回は1カ月半お店を運営していくということが課題でしたね。
小山:ポップアップストアとしては、あり得ないぐらい長い期間ですね。
間宮:まさに本当にお店をやる感覚なので、我々にないノウハウが必要。
小山:そこでお声掛けをさせてもらったのがトランジットですね。トランジットは、ターゲットのインサイトをつかむのがすごく上手だなと思っています。
でも甲斐さんは、ターゲットではない大人の男性じゃないですか。どうやって若い女の子たちの心を引くものを見つけてくるんですか?
甲斐:普段から、「女子力を高める」ことを意識はしています(笑)。はやりそうなものとか気になるものは、すぐに足を運ぶというのを心掛けていますね。
社内でも情報の共有を常に行っていて、その先頭を切っているのが代表の中村貞裕です。中村自身が「インプット」「アウトプット」という言葉をよく口にするんですが、自分が得た情報はすぐに、社内だけじゃなくて社外に向けても発信をしていきます。社外にも出していくことで、この人はこんな情報を持っているから相談したら何か助けてくれるんじゃないかなと思っていただけるように心掛けて、社員全員でやっていますね。
小山:トランジットはPR力もすごいですね。人と人とのつながりをつくるというか、「欲しい客層」を呼ぶ力がすごくあるなと思います。
甲斐:ある程度トランジットらしさをどの店舗でも出すようにしていて、ターゲット層に刺さるインフルエンサーをコアターゲットにしています。なので、そういう人たちに来ていただける場づくりは常に考えています。
小山:最近、カフェや飲食をやりたい企業はすごく増えていて、ご相談をうけることも多くなっている気がしています。アパレルや自動車などのメーカーとかも。トランジットでもそう感じられることはありますか。
甲斐:うちには、飲食をやったことがない異業種の方々から、飲食をやりたいというご相談が非常に多いですね。店のプロデュースをして、かつそこの運営もサポートするというパターンが非常に増えてきています。
たぶん物自体、例えばファッションだったら洋服だけを売るという時代は終わっていて、ライフスタイルの提案になってきている。ブランドの世界観を表現するときに飲食を扱うという形式を取ることは、敷居を下げる一つの方法なのかなと思います。
「写真を撮りたくなる」世界観をどうつくるか
小山:今回、チームの中ではモノを売るだけではなく「スタイルの発信」ということをすごく重要視していて、ずっと間宮さんが言い続けていましたね。
つい逸れそうになってしまったときに、必ずそこに立ち戻るようにしていました。
間宮:今はターゲットの時間の取り合いになってますよね。なのでまず、飲食を提供することによって、より長く相手の時間を頂くことが大切だと考えました。その上で、ただ商品を置くだけではなく、この商品をより深く好きになってもらえるよう、場の雰囲気や人に話したくなるネタを仕込みながら、「スタイル」として発信していくことが今回のカギでした。
甲斐:「すてきだな」と思わせるというところでいくと、何でも今は共通するかもしれないけれど、「写真を撮りたくなる」ものをつくる、演出をつくることが重要。お客さま自身が発信した写真が、ブランドのスタイルに変わっていきますね。
間宮:クライアントとしては、写真を撮ったときにロゴが入ってほしいという気持ちがあると思うんですけれど、シャッターを切ろうと思ったときにロゴがパッと入ったことによってスマホをスッとおろしちゃうようなことがある。
それでは機会ロスなので、もちろんクライアントの意思はくみつつ、どうやったら写真に撮ってもらえるか、どうやったら気持ちよく過ごしてもらえるかを優先する。場をつくるときにはそれが大事だとトランジットから教わりました。
小山:写真を撮ってもらうための工夫も多くしましたね。フォトブースやフォトプロップスを作って遊べるようにしたり。インスタグラムで「#ハードシードル」って調べると、お店をやる前とオープンしてからでは、投稿されている写真の雰囲気がガラッと変わったんです。お客さま自身も一緒に写っている写真や、お店の雰囲気、楽しい空気感を切り取った写真になっていて。まさにお客さまが発信したことがブランドのスタイルを作っていきました。
間宮:今回の店は、すごくインスタ映えしましたね。
小山:スタイルという話の流れからいうと、今回はグッズやタブロイドも展開したし、細かいところにもこだわり抜きましたよね。店員さんの服装も。トランジットは、店員さんがいつもすごく素敵でいいんですよね。
甲斐:トランジットクルーのチームが、イケメン&美女スタッフを何百人と抱えている。そこも売りなのです。人も空間の要素の一つだと思いますね。
小山:毎週火曜日にイベントをやって、常に情報発信の観点で飽きさせない工夫もしましたね。
間宮:僕たちにとってみると、1カ月半というのは非常に長い。店があるだけじゃ人が来ないんじゃないかという、電通にしみついている恐怖感があって(笑)。どうやったら、一回来てもらった人にもう一回振り向いてもらうか、もしくは行こうと思ってても行かなかった人の背中を押せるかを考えました。
小山:一番最初はイケメンナイトというか、外国人のモデルの男の子と一緒に写真を撮ってプレゼントする、みたいなことをやって。イケメンに囲まれて幸せそうな私、というシーンがあったら、きっとみんなSNSに投稿したいんじゃないかと(笑)。
間宮:次はビッググラスというでっかい、リンゴの形のグラスをつくって、3人以上で来てくれると無料になる、という企画をやりました。友達と一緒にわいわい飲んで写真撮ってシェアしてね、みたいな。
小山:ハードシードル自体が、「シェア・ザ・スパーク」というコピーが入っているんです。大きいリンゴのグラスに、みんなでストローを挿して楽しくシェアして飲んでいます、みたいなシーンがつくれる。
あと、緑のものを身につけているとお店オリジナルのポーチがもらえるイベントもやりました。東京Hackさんという、普段は全身真っ白にしてスタチューパフォーマンスをやっている人たちを全身グリーンにして、緑のものチェックをする。グリーンマンがすごく目立って、お客さまを引き付けていました。
どこにもないイベント空間と、おもてなしを目指して
甲斐:今回、スペースが狭いのを逆に生かしてやれることを考えさせてもらったというのはありますね。バーが目の前にドンと出てくるような感じでカウンターをつくったというのが、今回の印象的な絵にもなりましたし、お客さんを引き込むきっかけにもなったと思います。
間宮:多分、飲んでいる人も気持ちよかったと思います。上からも見下ろせるし。
小山:あの景色で見られる表参道はなかなかないですよね。
小山:あと、ジェラート&ポテトも好評でしたね。
甲斐:まず、初めて見た方は、完全にジェラートだと思って来る方が多いので、そこからマッシュポテトだと聞くと、驚いて食べてみたくなるという。
小山:夏だから「えっ、ジェラートじゃないの? じゃあいいや」という人が多いかなと心配したけれど、意外性が逆に関心をひきました。
間宮:しかもポテト食べるとちょうど喉が乾いて、シードルがおいしく飲める(笑)。そのことはクライアントも試食会で食べてみて、すぐ納得してました。すごくいいコラボレーションでした。あとカクテルの見た目も、かわいかったしね。
甲斐:リピーターがいたということがすごくよかった。最初に皆さんとお話しさせてもらったとき、イベントっぽい感じではなく、あくまでも飲食店としての顔をつくりましょうと言い続けさせてもらいました。それをきちんとやったことで、普通のお店として使い続ける方が出てきた。バリエーションのあるカクテルなので、近隣の方も定期的に飲みに来て次はこれを飲もう、次の日はこれを飲もうという形で飲んでいただきました。
小山:クライアントにとっても、カクテルは新しい取り組みでしたね。
間宮:面白いなと思ったのは、販売された数を見ていると、最初はカクテルの注文が多かったんですけれど、最後はハードシードルを飲んでくれている人が増えてきて、多分ハードシードルだけを飲ませていたらあんなに話題にならないし、リピーターもいなかったんじゃないかなと。おもてなしというか、ここに来てくれている人を本当に楽しませようとする姿勢をいかに出していけるかということがすごく大事なんだと思いました。
甲斐:飲む楽しさというところにたどり着く前に、選ぶ楽しさというのが絶対に欠かせないものなので、そこからのアプローチをちゃんとやった。カクテル選んでポテト選んでという、時間はかかりますけれど、そういう時間をかけながら商品を知っていただく。お客さまとスタッフとの対話やコミュニケーションが生まれるんです。
小山:お客さまが楽しみながら商品を選んで時間を過ごしてもらえることが、やっぱり何よりブランドへの好意につながるし、自分たちとしてもうれしかったですね。
<了>