Experience Driven ShowcaseNo.30
訪日中国人の「買い物リスト」に載るには?
2015/10/21
中国人の「爆買い」が駆け抜けた今年の日本ですが、この流れはいつまで続くのか? また、今後どのように、中国人のお客さまへの情報発信、コミュニケーション戦略を立てていけば良いのか? 中国人の消費研究とビジネス開発が専門の徐向東氏に、電通でインバウンドのプロモーション施策に取り組む山本暁野氏がインタビューしました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
中国人が求めているのは、日本の「日常」
山本:徐さんから見て、訪日中国人は何のために日本に来ているのか、日本でどんな商品を買いたいのでしょうか?
徐:中国人の訪日観光客は、8月までで300万人を超えました。年間で500万人に到達しそうです。売り上げは1兆円を突破するかもしれないという状況です。金持ちもそうでない中国人もいますけれど、金持ちの中国人は銀座でブランドものを買ったり温泉に行ってくつろいだりしています。でも500万人となってくれば、大多数はミドルクラスですよね。その人たちが何のために日本に来ているかというと、今のところ8割以上はショッピングですね。
どんなものを買っているかというと、最初のころは炊飯器、温水洗浄便座など家電製品が買われていて、だんだん化粧品&スキンケアの方にシフトして、今現在は薬です。風邪薬だとか目薬とかが飛ぶように売れています。どんどん日用品にシフトしているなという感じがしますね。
山本:そうですね、ドラックストアで普通に売っている商品が爆買いの対象になっていますね。私は、中国人が日本に求めているのはいわゆる日本人の日常だと思います。日本品質、日本製、日本人が愛用など、日本で本当に売れているものだということを伝えるのが大事だと思っているんです。
徐:基本的に中国人は、日本人がふだん使っているもの、日本人の中で評価がいいものを買いたがっていると思う。でも日本企業から上手に中国人に情報が伝わっているかというと、今はそうではないですね。実際に「爆買い」は起きていますけれど、爆買いされている商品を詳しく見ていると、ほとんど中国人同士の口コミですよね。
要は中国人のネットワークで、日本には来られないけど日本にいる中国人に買ってもらうとか、中国人同士の口コミで流行っている商品が一番売れている。情報は全体的に偏っているなと感じます。
山本:これから売れそうという商品は、何か具体的にありますか。
徐:ものすごく変化のスピードが速いじゃないですか。例えば「12の神の薬」。中国のポータルサイトの記事で話題になって、今年の国慶節に日本のドラッグストアがそれをリスト化して、店頭に看板を立てて中国人に爆買いされた。ところが今日、中国人同士でやりとりする情報を見ていると、もう「50の神の薬」になっている(笑)。だから一つの傾向として言えるのは、多様化していくということですね。中国人にブックマークされている買い物リストがどんどん爆発的に増えていく。
やや心配しているのは、一過性のブームで終わる商品が出てくるんじゃないかと。例えば中国人の中で爆買いされているから急いで似たような商品をいっぱいつくる会社が出てきたりしても効果がないとか。中国人にも見抜かれて売れなくなっちゃう。
中国人視点でマーケティングできているか?
徐:商品の品質、中身も重要ですけれど、例えば見た目で、中国人にとって分かりやすいというのも重要。同じ機能性を持つ商品で、売れる商品と売れない商品を見ていると分かります。よく見ていると爆買いされている商品はほとんど持ち運びしやすい商品。
山本:みんな荷物が多いのと、中国に帰ってからいっぱいお土産をばらまく必要があるので、小さくて、場所を取らない、できれば誰でも知っている有名な商品だと、結構売れますね。
徐:中国人がまとめ買いしやすいように、ドカンとでかい箱をつくった会社があったけど、最近は見当たらなくなった。スーツケースに詰め込みやすいように考えてあげないと。
山本:日本のおもてなしはパッケージ重視で、小さいものなのに大きな派手な箱に入れますね。中国人にとっては結構邪魔になってしまう場合もある。友達の爆買いにつき合うと、箱を捨てて中身だけを密封ポリ袋の中に入れて持ち帰りする人も多いです。
旅行者の気持ちを考えたマーケティングをしないといけないですね。訪日前ほとんどの中国人は「買い物リスト」をつくるのですが、買い物リストの一席を取るためにはどうすればいいですか。
山本:ただ気を付けないといけないのは、中国の文化とか、中国語特有の表現とか、記事をつくるときに表現がマッチングしないとヤラセっぽくなって。ちょっと硬い感じがします。
徐:日本の会社がつくったものはほとんど硬いですよ。翻訳文章がほとんどですから。
完璧につくっているんだけれど、中国人を感動させる要素がほとんどない。それが一番大きな問題点じゃないかな。
山本:それで、私たちのチームが普段作業するとき、まずはクライアントが一番伝えたいことをまとめて、必ず必要な要素を抽出要約して、それを中国の現地のライターにお渡しします。
中国語の表現やそのときの流行語に合わせて、中国人にとって「分かりやすい」「信用できそう」な記事を作成してもらうことが多いです。あと、テストマーケティング的な感じで、安く正確な情報を取れる方法はありますか。
徐:一つは実際に日本で買い物した経験のある中国にいる中国人に頼むことですね。あと、今の時代は出張しなくてもウェブ中継で家の中でつないでもらって、日本で買ったものが置いてある場所をそのまま映して見せてもらい対話することも可能ですよね。
山本:さらに、買ったものについての感想などもいろいろ聞けると思いますが、何か注意すべきところはありますか?
徐:自然発生的に起きるものというのは、僕らの要求通りにいかないこともありますよ。例えば商品の名前を絶対書いてほしいと思っても書いてくれないとか。でも、その時に反省すべきなのは、名前自体がそもそも中国人にとって浸透しにくい、言い伝えにくいということなのです。
山本:中国は基本的に漢字の国なので、英語と片仮名とか長くなってくると、読み方が分からない、意味が分からない、つまり、商品名が覚えてもらえないし、伝えたいメッセージも伝わらない可能性がありますね。
徐:そんなのを中国人の消費者に押しつけて、この名前を絶対書いてくださいなんて言うと、結局作文になっちゃう。
どんな中国人から、どんな中国人に伝えてもらうか?
山本:マーケティングにおける人の選び方は、どういうやり方がありますか。
徐:人材の採用と一緒かもしれませんが、学歴だとかで判断せずに、中国人同士の付き合いが非常に密な人、むしろ日本の大企業などでは働いていない、それこそ中国人の主婦の方が発信力は強いんじゃないかなと思います。
山本:この商品は、誰にどう思われたいのか、どう売りたいのか、それに合わせて人を選択することが必要ですね。
徐:特にエンドユーザー向けの商品はうまくいかない。おそらく日本人の感覚と中国人の感覚が違っていて、日本でうまくいっている会社こそが中国でうまくいかないことが多いですよね。
山本:インバウンド市場は未開拓な市場なので、この商品は日本でこういう人が使っているから、インバウンドでも同じマーケティングでいけるだろうと思ってはいけないですね。まっさらな状態で、ターゲット分析、商品分析から、有効なメッセージと媒体の選定を真剣に考えないといけない。
ちなみに、今はインバウンドで中国の方がいっぱい来ていますが、これはいつまで続くでしょうか。
徐:日本に爆買いに来る前、去年は香港に4000万人のメインランドの中国人が行っていたんです。そのうち2000万が日帰り。じゃあ何のために香港に行ったかというと、びっくりかもしれませんが香港で日本のものを買っていたんです。
山本:香港の方は安いですからね。
徐:そう。香港はタックスフリーだから。
去年は香港で買うのが日本より安かったんです。今年になって日本が爆買いの対象になったのは、日本が円安で日本で買った方が安かったから。
では、台湾はどうか。台湾には去年400万人行っていて、韓国には600万人行っていたんです。中国人はもちろん韓国の化粧品も買っているかもしれません。整形を受けているかもしれません。でも実は日本のものを一番買っているんです。
山本:最近のインバウンドは、要はモノからコトへと流れていく傾向があるかなと思います。温泉を楽しむだとか、日本の自然の景色を楽しむとか。韓国人と台湾人の日本観光では既に主流ですよね。それは中国人にとっては未開拓分野なので、まだまだこれから可能性がいっぱい出てきます。
徐:だから、いつまで続くかということを心配するのではなく、いつまでも続くように中国人への理解を深めることですよ。理解を深めればしょせん人間同士ですから、中国人も日本人と最後の最後は一緒。全ての人間同士の衝突やぶつかり合いは思い込みの誤解からくるものがほとんどなので、「爆買い」という言葉がいいかどうかはさておいて、中国人がいっぱい日本に来ていることはとても良いことです。そのことによって中国人の多くが、日本や日本人に対して大分理解を深めたと思います。