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【NPO/NGO×アーティスト×電通】世界の食問題に、私たちができること。

2015/10/30

10月の「世界食料デー」月間に合わせて、電通はNPO・NGOや国際機関などと「食べる、を考える歌『ごはんハンハン』」を協働制作しました。10月4日には、東京・お台場で開催された日本最大級の国際協力イベント「グローバルフェスタジャパン2015」で初ライブを披露。その熱気も冷めやらぬライブの後に、制作に関わったメンバーが「食べる」について語り合いました。

集まったのは、「世界食料デー」月間呼びかけ団体であるハンガー・フリー・ワールドの儘田由香さん、オックスファム・ジャパンの鈴木洋一さん、歌を開発した2組のアーティスト、DJみそしるとMCごはん(以下おみそはん)、ケロポンズ(以下ケロさん、ポンさん)、そしてこの活動を後方支援している電通の社会貢献部、企画・制作を行ったクリエーターたち。

子どもたちに食の楽しさ、大切さを伝えること、ムーブメントの輪が広がることの意味を考えました。

前列左から、ハンガー・フリー・ワールド儘田由香さん、ケロポンズ増田裕子さん、DJみそしるとMCごはんさん、ケロポンズ平田明子さん、オックスファム・ジャパン鈴木洋一さん。後列は電通メンバー
グローバルフェスタジャパン2015でのライブの様子


手応えがあった初ライブ。

歓崎:「食べる」を考えるライブ、お疲れさまでした! おみそはんとケロポンズさんの初めてのコラボライブでしたが、いかがでしたか?

おみそはん:楽しかったです!  世界の料理、各言語の「おいしい」という言葉など、私もこの歌を通して知ったことがたくさんありました。子どもたちがすぐ覚えて、歌って踊ってくれたこともうれしかったです。

ケロさん:うちにも食いしん坊(ポンさん)がいますけど、ケロポンズの歌は食に関するものが多いんです。だから今回のコンセプトにも共感し、この歌を作れて光栄でした。私たちの知らなかった世界の食問題も学ぶことができました。

歓崎:儘田さん、鈴木さんは、いかがでしたか? 昨年はウェブ動画の「食べる、を考える物語」を20本近く一緒に作りましたが、今年は歌ということで。

儘田:昨年の動画はある程度「世界の食問題」を知っている人に興味を持っていただけたようです。今年のこの歌は、もう少し広く「食」に興味があり食べ物を大切にしたい人たちが共感して広めてくれています。

食べることが大好きで、食べ物への愛情たっぷりのおみそはん。そして子どもたちに大人気のケロポンズさん。今日のステージではすぐに子どもたちが自然に歌い踊り始めていました。

私の周りでは親御さんたちも、お子さんが歌って踊っているとSNSに投稿してくれていて、お父さんお母さんも好きになってもらえる歌が一緒に作れた実感があります。

鈴木:好きなアーティストがライブ会場で世界の諸問題を投げ掛けることで、問題意識を持つことができます。だから今回、おみそはんやケロポンズさんのファンが、「食べる」を考えるようになってくれたのではないかと思います。

このグローバルフェスタはもともと世界の食問題に関心のある人たちが来るイベントですが、歌やダンスやアート、エンターテインメント業界の方々も参加してくれることで、より多くの人たちが食について考えるきっかけ作りになるのではないでしょうか。

食べる、を考える歌には、子どもたちの好き嫌いを減らすチカラがある。

関東学院大学ニュースリリース


歓崎:皆さんと一緒に作ったこの「食べる、を考える歌『ごはんハンハン』」で、ある実験をしてみました。関東学院大学栄養学部・菅洋子准教授の監修の下、神奈川県の幼稚園「のびのびのば園」の子どもたちに、昼食前に1週間、この歌を踊りながら歌ってもらったんです。

実験後の保護者アンケートでは、実験前に比べて「好き嫌いが多い」という回答が、13ポイント減りました。さらに「嫌いなものでも食べるようになった」という回答が7ポイント増えたんですよ。

おみそはん:数字で歌とダンスの効果を知るのは初めてです。「たのしい」とか「おいしい」とか歌っているからかなぁ。

「世界の食問題を考えよう」とか「好き嫌いせずに食べよう」と伝えるのも大切ですが、実際にアクションにつながる「歌のチカラ」ってすごいなぁと思いました。

ポンさん:子どもって、頭で考えて行動するよりも、感覚が頼りですよね。だから「食べましょう」「残さないで」って指示されると、逆に食欲がなくなっちゃったりして。 

儘田:そうですね、「食べ残しをやめようよ」とか「ぜんぶ食べなきゃいけない」とか言われると「食べる」ことが楽しくなくなってしまう。この歌を通じて、食の楽しさを伝えることができたと思います。

さらに視野を広げて、世界中の人たちが、おいしく楽しく食べられるよう願ってもらえるといいですよね。幼稚園児だと難しいかもしれませんが、中学生、高校生、大学生になったときに、ふと思い出してもらえれば。

鈴木:くすぐる振り付けがあるじゃないですか。相手がいなければ成立しない振り付けで、皆で食べることが自然に思えるのかもしれませんね。

社会問題は義務感で取り組むよりも、子ども時代の体験を通じて「こうするとハッピーだよね」って自然に思うようになることで、大人になっても感覚的に当たり前のように問題解決に取り組めるんだと思います。

子どもの心を動かすコツは、子どもと一緒に楽しめるかどうか。

歓崎:広告クリエーターの僕からケロポンズさんに質問なのですが、子どもの心を動かすコツのようなもの、あるいは曲作りで心掛けていることはありますか?

おみそはん:私も聞いてみたい(笑)。

ケロさん:まずは、私たち自身が楽しんで作ること。あとは、シンプルであることを心掛けています。

ポンさん:私自身もそうなんですけど、楽しいとやりたいし、おいしいと食べたいし。子どもの心を動かすシンプルな直感を大切にして作っています。

歓崎:自分が楽しめるかどうかが大切だ、ということですね。

ポンさん:そうそう、この歌も、すごく私自身が楽しめました。食べること、私、大好きだから(笑)。

歓崎:おみそはんも自分の好きな「料理」で作詞作曲しているから、ファンの皆さんの心を動かしているのではないかと思います。おみそはんの歌を聴くと、すごくこう、料理したくなるというか、食欲が出るというか。

おみそはん:子どもたちが私の作った歌、たとえば「ピーマンの肉詰め」の歌を覚えてくれて、大きくなってから「あれ、私なんでピーマンの肉詰め作れるんだろう、なんで知っているんだろう」とか「うちの奥さん、なんか変な歌を歌いながら料理してるぞ」とかいうシーンを妄想してはドキドキしているんです。私のことは忘れても、料理の楽しさをいつまでも覚えていてほしいんです。

儘田:世界の食問題に対して、何かやりたい、やってみたい、という方は結構いらっしゃいますが、たとえば普段料理をしない大学生の男の子が、まずは自炊することで毎日の食卓から変えていこうとして逆にフードロスが増えちゃったりして。だから料理のレシピが出てくるおみそはんの歌を聴いて、いざ食問題に対してアクションしたいと思ったときに、自炊がちゃんとできるようになっていたらすてきですよね。

鈴木:世界が抱えている課題に対して何かアクションを起こそうとしたときに、日本ではとてもハードルを高く感じる人も多いかと思います。でも友達とこの歌を歌うことが食問題に対する活動になる。そうやってハードルを下げているのも、この歌のいいところですよね。

飯田:コピーライターとしてお伺いしたいのですが、「ごはんハンハン」という繰り返すフレーズなど、歌詞の作り方について聞かせていただけますか?

ケロさん:「ごはんハンハン」って楽しげじゃないですか(笑)。「アイスでナイス!ライスでアイス?」みたいに、言葉のリズムの面白さ、ダジャレみたいなものがいいかなって。あと「DJみそしるとMCごはん」の「ごはん」からインスパイアされたかもしれませんし…そんな感じです(笑)。

飯田:やはり自分で作っていて楽しいことにヒントがあるのですね。

歓崎:おみそはんはいつも自分で作詞作曲をされていますが、今回のこの歌を歌ってみて、どうでした?

おみそはん:本音を言うと、私、あんまり子どもの心に刺さる曲を作れたことがなくて。細かいレシピのことを歌った曲しかなかったんです。こういうシンプルな歌詞とメロディーを歌わせてもらえて、新しい目標ができましたし、勉強になりました!

ケロさん:おみそはん…(涙)。

籠島:私たち電通は広告を通して何かを伝える仕事をしていますが、伝える内容が難しい場合には、エンターテインメントの要素を入れたりなど、日々模索しています。おみそはんも、ケロポンズさんも、Eテレで子ども向け番組に出演されていますが、何かを伝えるときに、気を付けていることはありますか?

おみそはん:えっ、なんだろう…いつもいっぱいいっぱいで。あまりコツはないです!(笑)

ケロさん:ケロポンズの場合はやっぱり、子どもたちがすぐに遊べるような、シンプルなものを心掛けていますね。遊び歌が多いので、子どもがすぐ口ずさめるもの、すぐ遊べるもの、ですかね。

ポンさん:いろんなところでライブをするとよく分かるんですが、子どもって面白いと食いついてくれるんですが、つまらないとすぐ離れますから、すごく分かりやすいんですね。歌いながら、「あ、これ離れてるな、やばいやばい、次いってみよう!」みたいな(笑)。反応が良いとどんどん続けたり、いらないところはすぐにそいだり。

子どもは気持ちに正直に生きているので、その気持ちに寄り添えば、一緒に楽しめる。それは言葉の壁を越えているので、言葉が通じない国でも、楽しいとわーっと子どもたちは集まってきますし、つまらなかったら、みんなしらけちゃう。今回の歌も、子どもたちが一緒に楽しめるようなイメージで作りました。

植村:完全に子どもに向けて作られているんですか?

ポンさん:親御さんも一応意識していますが、子どもほど正直な人はいないので(笑)。子どもが立ち上がらなければ、大人も立ち上がらないです。子どもも、大人も、というその間らへんが難しいのですが。

植村:「子ども向けだから」といって、子どもだけに向けて作るわけではないですもんね。

ケロさん:たぶん「割と」大人も遊べて、楽しめるようなものにしないと。その「割と」が難しい。

ポンさん:子どもに、こびるだけでは面白くない。子どもと一緒に笑ったりずっこけたりできるものじゃないと、面白くないですよね。

子どもって、意外と考えていることが大人だったりするじゃないですか。子どもだからっていうつもりで作ると、子どもは「はぁ!?バカにすんなよ!」みたいなこともあって。だから、一緒に「面白い!」と思えると、分かり合える。その感覚が大事かなぁ。

歓崎:子どもに対しても、大人に対しても、まずは自分が良いと思うものをカタチにして、それが一緒に楽しめるか、面白がれるか、という感覚ですね。

やってみてダメだったら、変える。というのは、広告、特にデジタルのコミュニケーションと似ていますね。広告やプロモーションにはPDCAというやり方があります。アイデアを考えて、実際にやってみて、反応を見て、ダメだったら変える、良かったらどんどんやる。ケロポンズさんは実際にステージ上で、子どもたちの前でPDCAを高速で回しているのですね。

先日おみそはんのライブ「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」のステージを拝見したのですが、ケロポンズさんと逆で、何が来るか分らない感じがすごいんですよ。セレンディピティーというか。

いきなり「アイス作るぞぉ!」とか(笑)。目が離せない、ほっとけない感じ。ケロポンズさんの子どもたちの心のつかみ方、距離の取り方と、おみそはんの、このほっとけない感じ、目が離せない感じが、コラボをすることで絶妙な世界観を作っていると思います。

共感の輪を広げる。

野村:コミュニケーションをプランニングする私たち電通と、実際に食問題に取り組んでいる「世界食料デー」月間呼びかけ団体の皆さんと、「食べる」を歌にされているおみそはん、子どもの心を動かし続けるケロポンズさん、そして科学的な視点で「食べる」を考えてくれた関東学院大学栄養学部の菅さん。

電通の社会貢献として今年は皆さんと一緒に取り組めて、年々、輪が広がり良い方に向かっているなと思います。ぜひこのアクションを持続させたいですね。

儘田:私たちはNGOという性質上、どうしても真面目というか、伝えること、伝え方も堅くなってしまいがちです。今回は皆さんと取り組めて、私たちNGOの力だけでは届かない、より多くの人たちに伝えることができました。これからも一緒に共感の輪を広げていけたらいいなと思います。

鈴木:「食べる」って毎日することですよね。急いでご飯を済ませる「サク飯」という業界用語がありますが、私も忙しいときはデスクで「サク飯」し、ぜんぜん「いただきます」っていう、頂いている感じがしないんですよ。

これが日本の現状ですよね。私たち、オックスファムはもともとイギリス発祥の団体で、啓発事例の研修などで欧米諸国を訪れることがあります。食料問題を含め社会問題に関しての一般の人々の関心や活動参加のハードルが低く、たとえば、米国の大学で開催した食料問題のイベントには150人を超える参加があり、このようなことは珍しくないといいます。

私たちが日本で社会に働きかけるとき、こうした事例は参考になりますが、欧米の文化で考えられた伝え方を日本でそのまま導入しても、なかなか日本社会には響かない。そんなときに、日本社会で伝わるメッセージのノウハウを持っている電通さんの存在は強いですよね。

そんな電通さんと一緒に伝え方を考えることで、アイデアが広がりますね。この歌も日本文化に合わせて、たとえばご当地替え歌を作ってみる、とか。

歓崎:日本は世界でいちばんの長寿国だ、なんて言われたりしますが、それは言い換えると、食べることが人生で最も多い国だ、とも言えますよね。だから食が楽しくて幸せだと、日本はもっともっと良い国になると思います。世界中で「食べる」が楽しくなり、「おいしい」という気持ちに一人でも多くの方がなれば、もっと世界は良くなるはずだ、という思いで、取り組んでいます。

食べることは生きること。皆さんにメッセージ。

歓崎:最後に一言ずつ。おみそはん、お願いします。

おみそはん:今まで食べることをテーマに曲を作ってきましたが、ますます自分で作って食べられるようになろうと思いました。自炊は、自分が食べているものがどこから来たのか、世界の食問題を考えるきっかけになると思っています。「ごはんハンハン」を聴いてくれた人に、食問題に気付いてもらえたらうれしいです。ありがとうございました。

ケロさん:この「ごはんハンハン」の他にもう一つポンちゃんが考えてくれた歌があるんです。「食べることは、生きること」っていう歌で。

ポンさん:ちょっと真面目な歌詞なんですけど。

ケロさん:でも本当に「食べることは生きること」で、食べることで幸せになれれば、家族も幸せになれるし、子どもたちも幸せになれるし、世界が幸せになれる。家族や学校、地域など自分たちにできる小さいところから始めたいです。ポンちゃんは自分で畑を作っているんですよ。

ポンさん:自給自足しているんです、かぼちゃ作ったりして。

ケロさん:そのかぼちゃをもらったんですけど、とてもおいしいくて涙が出そうになりました。「あぁ、これはポンちゃんが作ったかぼちゃか」って。大切に残さず食べようと思いました。

そういう小さなところからでも、世界の食問題に対してアクションを起こしていけば、世界は変わる、変えられるんじゃないかと思います。

ポンさん:私たちは、たとえばかぼちゃの生きていたエネルギーを食べるじゃないですか。より身近な食べ物でそれを感じた方がいいと思うんです。うちの近くの小学校では合鴨農法で稲を育てて、収穫して、合鴨も絞めて、食べています。それが生きている命を頂いている学びになっているんです。少しハードな話ですが。

歓崎:「いたただきます」の由来は命を頂くことだといわれていますもんね。

ポンさん:そうそう。でも、パックに包装されたものばかり食べていると、生きていた命を食べていることが、なかなか子どもたちも感じられないですもんね。

私はおみそはんの、カップラーメンのカップでもやしを育てている話を聞いて、すごくいいなと思いました。育ったもやしが、このみそ汁に入ってるんだなって感じられるから。

この歌を通じて、少しでも「食べる」を考え、食べる幸せを感じる人が増えたらいいなと思います。

儘田:「食べることは生きること」、その通りだと思いました。ハンガー・フリー・ワールドも、まさにその考えで活動していて、きちんと食べられないと働けないし、勉強に集中できないし、病気になってしまう。何をするにも食べることは根っこの部分で一番大切なことだと思います。

おみそはんもケロポンズも食を真剣に考え、愛情を持ってらっしゃる。私たち「世界食料デー」月間の呼びかけ団体が伝えたいことと同じ思いを持っていることに強く共感しました。それを形にしたこの歌が、日本中に、世界中に広がるといいなと。

輪を広げていって、「世界中の人たちが幸せに食べられるには自分には何ができるだろう」とか「やれることから始めてみよう」と考える人が少しでも増えたらうれしいです。

鈴木:仕事柄、諸外国の事例をよく見ているんですが、世界を変えるって理屈じゃないんです。感性なんです。今回は歌やダンスを通じて、自分の思いを表現しすることで、ムーブメントを作っているんですね。普段は見えていないものを、歌いながら考えてもらえるのではないかと思います。

日本でも諸外国のようにムーブメントを作れる可能性を見て、元気をもらいました。「食べる」の歌を聴いて「食べる」を考える座談会だったので、なんだかおなかがすいてきました(笑)。ありがとうございました。

ケロさん:ぜひまた機会があれば、おみそはんとコラボしたいです!

ポンさん:Yeah〜!Yo〜!

おみそさん:ありがとうございます(笑)。