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Experience Driven ShowcaseNo.33

地球目線で、世界の“食”と“農”を考える。(後編)

2015/11/05

5月1日から10月31日まで、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開催されました。
日本館のシーンⅢ「イノベーション」では、京都造形芸術大の竹村真一氏による「触れる地球」の展示を中心に、さまざまな世界の食と農の課題を提示し、日本ならではのソリューションを魅力的な映像(ストーリー)で表現しています。竹村氏、企画制作を手掛けたロボットの清水亮司氏と電通の浦橋信一郎氏が、振り返って語り合いました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

(左より)浦橋信一郎氏、竹村真一氏、清水亮司氏

 

地球規模の多様な課題とソリューションを、どう展示で表現するか

浦橋:地球規模の課題を共有する場として、何か展示で工夫した点があればお聞かせください。

清水:ミラノ万博日本館の作業に関わらせていただいていて、全体の流れも知った上で、担当したシーンⅢ「イノベーション」の展示が全体の中でどういうポジショニングなのかは、ずっと意識していました。全体のパビリオンの流れでいうと、この展示の前のセクションは、割とミクロな目線で発酵や食材の特徴など細かいところに入って日本の食を紹介するパートです。また、この展示の後のセクションはエンターテインメントに寄っていく流れの中で、われわれはちょうど真ん中に位置する。そのときに地球的な俯瞰の目線による、テーマの広がりが印象に残るといいんじゃないかと思いました。

日本食というのはものすごく微に入り細に入り、繊細な面を持った食の文化だと思うんですけれど、ある種目線を変えると地球規模のソリューションになり得るというイメージを、万博に来た世界各国の方に持ち帰っていただきたいと思ったのです。竹村先生がつくられているデジタル地球儀「触れる地球」を最大限に生かすには、メインスクリーンのコンテンツにも地球をテーマに置き、融合した内容を印象に残そうと考えました。

※動画素材提供:一般財団法人地球産業文化研究所・JAグループ

 

竹村:清水さんのシナリオでは、モリゾーやキッコロのキャラクターを借りて、人類のメッセージを発していましたね。呼び掛ける主体が人間ではなくて。

浦橋:第三者的な存在。

竹村:ええ、それが日本らしい表現だった。キリスト教的な発想ではなくて、山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)じゃないけど、あらゆるものが魂を持っていてメッセージを持っていて、潜在的な仏性を持っているという日本的な感覚の、現代的な表現がモリゾーとキッコロみたいな存在なのかなと思います。

また、前の展示から来ると、急にバッと時間的にも空間的にも広がる感じがあった。われわれ二人の意図としては、そこで急に視界が広がって、人類的な課題とそのソリューションをちゃんと共有して帰ってもらえるような体験ができるといいなと思ったんですよね。

浦橋:清水さんにはアニメーションの表現にも何種類か取り組んでいただいて、それについてのお考えも聞かせてください。

清水:真ん中に地球型スクリーンがあるのが柱で、肉付けとしてアニメーションを入れるという構造になりました。ヨーロッパ各国がそうなのですが、特にイタリアという国は日本のアニメーションにものすごく親しみのある国なのです。地球型スクリーンの周りに配置するストーリーの語り部として、アニメーションのキャラクターでみんなの目と心を引き付けたいなと考えました。

 

文化の混ざり合い、ぶつかり合いによって見えてくること

竹村:地球のことをこうやって考えましょうねと呼び掛けている主体が人間じゃない存在(キャラクター)だというのは、ユニークな日本的特徴だったと思うんです。よくスチュワードシップと言いますけれど、人間が地球や自然を守ってあげないと大変なことになる。何かメッセージを発信する主体が人間以外のあらゆるものという、動物か植物か分からないものとロボットとかが出てきて、人間が自然とコラボレーションして地球をつくってきたんだよといいながら、そこに特に人間は登場しない。

清水:そう見ていただけるとすごくうれしいです。いろいろな文化が混じり合っているのが日本文化でもあるので、ロボットとコウノトリの話も、あえてそういう違和感をぶつけてみようと。普通相入れないものがぶつかることによって見えてくることとかその結果が、意外と大きな視点になり得るんだよと見えるといいなと思っています。

浦橋:展示をつくり終わっての、成果や意義はいかがですか。

清水:竹村先生と一緒に作業をさせていただいたということの学びが非常に大きかった。今回のコンテンツの最終的なアウトプットも、今後の自分のものづくりにも影響する出会いだったなと思います。アニメーションのストーリーにも先生のアイデアは大きく含まれていて、むしろそれが柱になっているところもあります。日本という国が、偶然にできた国ではないと。日本人のクリエーティブによってこの国土とともにつくられてきたのだということは、何となく頭では分かっていても竹村先生にお話を伺うまではあまり実感がなかった。

棚田なんていうものは放っておいてできるわけはなくて、それをつくってきた歴史が日本にはあるんだ、つくってきた人が、農が、食文化があったんだと感じながら日本の風景を見ると、今までとは感じ方が全然違うところがあって、ものの見方が確実に変わりました。この仕事に関われて、竹村先生と出会えてよかったです。

 

ミラノ万博の成果を、日本の子どもたちにこそあらためて伝えたい

竹村:ここで終わらせてはいけないですね。今の日本の小学生、中学生、高校生もほとんど知る機会がないかもしれない。ミラノ博でわれわれが表現したような内容は、ちゃんと日本の子どもにも共有していかなきゃいけない成果だと思います。例えば農水省やJAと一緒に、国内でもこのテーマを伝えていこうという活動の出発点にもしたいです。大事なのはこれからですね。

浦橋:清水さんがおっしゃったように、竹村さんのお話は日本再発見といいますか、ふだんわれわれが見慣れていることに、非常に長い歴史の中で積み重ねられた見方を重ねて、あらためて気付かされることが多かったですね。

竹村:付け加えておくと、ただの遺産(レガシー)というだけじゃなくて、水路の清掃や田んぼのメンテナンスなど、人々がクリエーティブに関わり続けながら維持されているんです。それをやっているのは協同組合を含めた地域コミュニティーです。米は輸入できても国土は輸入できない、地域コミュニティーも輸入できない。過去の歴史があるというだけではなくて、今も生き続けている人々の営みがそれを可能にしているということを忘れてはいけません。先端技術とかベンチャーにばかり光が当たりがちですけれど。

浦橋:そうですね。食の生産も含めた、その文化全体がクリエーティブであるべきです。

竹村:実際、かっこいい農業者がいっぱいいますよ。リスペクトできる領域がここにあるんだということを再発見するきっかけがミラノ博だったとすると、食と農の領域のまだ光が当たっていないリソースをもっとクローズアップしていくという作業を、今からはやっていくといいんじゃないかな。

地球にはいっぱいいろんな問題がある。それを地球儀で可視化することもできるのですが、ソリューションも同じぐらい生まれている。地球の環境問題を語るとみんな暗くなるけれど、そこを突き抜けていけるだけの明るいニュースもいっぱいあるし、例えば農耕革命がどうして起こったかというのを清水さんがアニメーションで表現しましたけれど、気候が悪くなって食料危機が起こって、でもそんな環境でけなげに育つ小麦を一生懸命栽培してみたいなこと、条件の制約があったから逆にクリエーティビティーが発揮されたということもありますよね。

都市革命もそうで、乾燥化して川の周りにみんな集まって住むしかなくなったので、川の周りに大きい都市ができたとか。危機と言われている時は、その分野のチャンスでもあるんです。そういうメッセージを、若い世代にはもっと言っていきたいですね。

清水:むしろ欧米の方の方が日本の食というものに対して、何らかの期待や気付きがあるのではないかな。日本中の多くの人が気づきをまだ得られないまま過ごしているとすれば、ものすごくもったいないなと思います。

竹村:一汁三菜って準備するのが大変だというイメージがありますよね。日本料理の大家が出てきて、こうやってだしを引くとかやられるとそれも一長一短というか、僕は昆布と鰹節をボーンと熱湯にぶち込んで、5分もしないうちに最高のだしができるという、そこに日本食のすばらしさがあると思うのです。手軽かつ簡単に最高級のスローフード=「ファストなスローフード」ができることを伝えた方がいい。

清水:本当にそうですね。

竹村:日本料理の大家が世界のフランスやイタリアのシェフに影響を与えているのは素晴らしいですけれど、一方でトーストを焼いてコーヒーを入れるのと同じぐらいの手軽さで、日本食ができるというところにも光が当たった方がいいです。

浦橋:日本館では、そういうこともアピールしています。

竹村:日本館の展示を、そのまま日本でも展覧会でやったらどうですか。

清水:それはいいですね!

浦橋:そう。実は日本館を見るべきは、実は日本人自身じゃないかという気もしますよね。今日は竹村先生と清水さんと、ゆっくりミラノ万博の展示の振り返りができてよかったです。ぜひ今回の試みと成果を日本の子どもたちにもシェアする、次のアクションにもつなげていきたいですね。