女性の活躍促進は成功するの!?
女性誌読者からひもとく、イマドキ女子のシゴト観(前編)
2015/11/05
多様化する女性の働き方と向き合い、「働く女性」にまつわるあらゆる課題解決の方法を探る「ワタシゴトプロジェクト」。
近年、「女性の活躍促進」を掲げている日本ですが、出産後の就業はまだまだ厳しいのが現状です。そもそも、女性が活躍できる社会ってなんだろう? イマドキの女性は働くことや結婚・出産についてどう考えているんだろう?
そんな疑問をひもとくべく、今回は女性消費者の“ココロ”を分析する「小学館女性インサイト研究所」の大野康恵氏と五十嵐ミワ氏をゲストに迎え、電通の神田直史氏、宇治原彩氏がインタビュー。
日々、20歳代の“働きはじめ女子”たちと身近に接しているお二人に、「働く女性」の意識変化やコミュニケーションの在り方を聞きました。
“人生の間取り”に合わせて、転職する“リフォーム女子”
神田:お二人はもともと、女性誌の編集をされていたんですか?
大野:私はもともと、他社で主婦向けの漫画や書籍などを編集していました。小学館に入社後は一般小説や若年層向けの小説の編集を担当し、その後芸能エンタメ系のウェブサイトの編集を経て、今に至ります。
五十嵐:私は2005年に新卒で入社して、ちょうど「エビもえ(モデルの蛯原友里と押切もえ)」ブームだった頃の『CanCam』を担当しました。その後、『AneCan』を創刊直後からずっと担当して、昨年「女性インサイト研究所」に移りました。
宇治原:『CanCam』の読者は、主に20歳代の“働きはじめ女子”ですよね?
五十嵐:そうですね。よく取材していたのは20歳代の方です。
宇治原:“働きはじめ女子”と長く接している中で、10年前と今とで彼女たちの仕事に対する考え方に、なにか変化を感じますか?
五十嵐:これまでの女性は、社会人3年目ぐらいで出世や結婚を意識し始めて、いかにその後のワークライフバランスを組み立てていくかを一つの課題にしていた人が多かった印象があります。
でも最近の読者の方の話を聞いていると、最初の段階からワークライフバランスを崩すような働き方は選ばない傾向にある気がします。良い意味で会社に執着がないというか、仕事が自分の描くライフスタイルに合わなくなったら、すぐに転職もあり、という話をよく聞くようになりました。
大野:みんな、自分自身のライフスタイルを確立していますよね。その中でできる範囲の仕事を上手に選んでいる。
神田:“働きはじめ女子”のリサーチをしていて気になったのは、「××歳で結婚、××歳で出産」というふうに、あらかじめライフプランを決めている人が意外に多かったこと。それが現実的なものかどうかは別にして、もしかすると仕事もそのような人生設計ありきで考えているのかもしれないなぁと。
大野:そう、だから働く前から“人生の間取り”が決まっているんですよね。もっと広い家に住みたいと思って仕事をがんばり過ぎちゃうのがひと昔前の世代だとすると、自分で心地よいと思う間取りの中に、仕事や結婚をうまく配置していくのが今の世代。仕事が自分の間取りに合わなくなったら、転職することで“リフォーム”することも加味する。もちろん一概には言えないですが、そういう傾向はあると思います。
「ライフスタイル最優先になったのは、私たちのせいかも」
宇治原:大野さん、五十嵐さんと一緒に働く女性を対象に、グループインタビューを実施したときも、仕事が忙しくて夜遅くまで残業するようになったので、自分の時間を充実させるために転職したという方がいました。転職後はアフター5でいろいろなところへ遊びに行けて、毎日幸せだと。そこに一点の曇りもなく「幸せ」と言い切れるのがすごいなぁと。
五十嵐:幸せ度が高くて、生き生きとしていますよね。
大野:ある意味、合理的というかごもっともですよね。仕事ばかり優先させていたら、1日24時間の時間割の中で、23時間ぐらい仕事に使ったりするじゃないですか(笑)。
五十嵐:どうがんばっても、1時間じゃプライベートがおさまり切らないという…(笑)。
宇治原:自分のライフスタイルにプライオリティーを置いて、それが崩壊しないような働き方をする女性が増えたのはどうしてなんでしょう?
五十嵐:うーん…それはたぶん、私たちのせいもあると思うんです。
宇治原:えっ?
五十嵐:部署を異動して20歳代と一緒に仕事をすることが増えてから如実に感じるのですが、皆さん自分の仕事を無理のない範囲で楽しんでいる印象。私が新入社員のころは、仕事は楽しかったのですが、徹夜とかプライベートの時間がないのは当たり前だったし、それを隠そうともせず「仕事ってこういうこと!」という風潮でした。それによって体を壊したり、結婚や出産のタイミングで悩んだりする姿を端から見ていたら、そりゃあイヤになりますよね。
大野:確かに。キャリアのためにいろいろなものを犠牲にしてきた先輩の後ろ姿を、彼女たちはしっかりと見ているんですよね(笑)。
宇治原:がんばることや努力の先に自己実現だったり、好きなことができる世界があると思うのですが、そのようなコミュニケーションは今の時代、あまり響かないということでしょうか。
大野:私たちも、その上の世代も、努力や自己犠牲の上に成功があると思っていたし、それが美徳とされていました。それが間違っていたわけでもないと思いますが、スポ根が流行らないように自己犠牲の価値観は美しく見えない時代なのかもしれません。
五十嵐:仕事やキャリアがすべてじゃないし、良い意味で肩の力が抜けていますよね。
大野:もちろん、みんな大変な思いをしていたり、悩みを抱えていたりはすると思います。でも、必死になっている姿よりも無理せず自分らしくいる姿のほうが支持されるのも事実。だから、ファッションでも数年前から「ぬけ感」というキーワードが流行っているんです。
神田:なるほど、そういうことなんですね。次回は、そのような女性の意識変化に合わせた女性誌のコミュニケーション方法などをお聞きしながら、さらに「働く女性」について掘り下げていきたいと思います。