女性の活躍促進は成功するの!?
女性誌読者からひもとく、イマドキ女子のシゴト観(後編)
2015/11/12
多様化する女性の働き方と向き合い、「働く女性」にまつわるあらゆる課題解決の方法を探る「ワタシゴトプロジェクト」。
前回に引き続き、「働く女性」の意識変化やコミュニケーションのあり方について、「小学館女性インサイト研究所」の大野康恵氏、五十嵐氏さん、電通の神田直史氏、宇治原彩氏が語り合いました。
ロールモデルよりも、共感の時代
宇治原:先ほど、大野さんがおっしゃっていた「今の女性は、必死になる姿よりも自然体で自分らしくいる姿にあこがれを抱く。ゆえに、ファッションにおいても『ぬけ感』というキーワードが支持される」という話がとても興味深かったのですが、『CanCam』や『AneCan』に10年近く携わってきた五十嵐さんも、当時と比べて情報の伝え方に変化が生じたと思いますか?
五十嵐:2005年ごろはエビちゃん(モデルの蛯原友理)やもえちゃん(モデルの押切もえ)など、目標となるロールモデルがいて、「彼女たちをまねすれば自分もこうなれる」という意識が消費行動に結びついていました。誌面のレイアウトも人気モデルや商品をどーんと大きく見せるという。
今はロールモデルや「人生はこうあるべき!」みたいな大義名分よりも、みんなが身近に感じられる情報かどうか、共感できる情報かどうかが大切な気がしています。
神田:読者へのアプローチの仕方も変化がありましたか?
五十嵐:モデルや商品をただ大きく見せるだけではなく、トータルの世界観でその人のライフスタイルが伝わるような写真の撮り方やページ構成が増えました。モデルの全身があまり写っていなくても、オシャレなカトラリーがあって、オーガニックの食材が並んでいて、「この人の暮らし、この商品のある暮らしってなんだかすてき!」みたいな。今の読者の心に刺さるのは分かりやすいイメージよりもそういう世界観を意識した表現方法ですね。
神田:ある意味、自分に合うものの選び方が上手になっていると言えそうですね。
大野:特定の誰かになりきるのではなく、自分の好きな趣向や世界観を理解していて、それに近いモノをあちこちから取り入れていますよね。
宇治原:もはやエビちゃんみたいな存在はいないんですか?
五十嵐:かわいらしい人やきれいな人を好きになるのは変わらないけど、モデルさんだけでなく、ライフスタイルをイメージしやすい人が人気だったり、名前も知らないインスタグラマーが話題になったりなど、多様化していると思います。いわゆる「エビ売れ」みたいな、エビちゃんが着ているだけで何千着も売れる、という時代ではないですよね。
大野:今はモデルさんもインスタグラムに凝っていますよね。カメラアプリもうまく活用して、配置やフレームワークもきちんと考えられている。
五十嵐:背景のぼかし具合なんかもすごいですよね(笑)。
宇治原:グループインタビューでも、「一度訪れた場所に同じ人と半年間は行かない」という方、「音楽フェスに友達と参加して楽しかったけど、曲は一曲も知りません」という方などがいて、恐らく「SNSに投稿する」という意識が強く働いているのではと感じました。
五十嵐:まさにそうなんです。今まではかわいいものは手に入れて終わりだったけど、今度は本人が発信する側にまわるから、発信できる場所までをパッケージ化して企画しないといけないんです。『AneCan』はよくタイアップ商品をイベントまで企画していますよね。洋服だったら、それを着ていける場を作って、そこで撮った写真をシェアしてようやく完成。
宇治原:一回、相手のボールにしてあげる感覚ですよね。そして、投げさせるところまで描かないといけないと。
五十嵐:だから、かわいい写真を見て眺めるよりも、自分の写真をかわいく撮ることのほうに興味があるんです。若い世代に限らず、主婦のデコ弁などもそうですよね。世代に限った話ではなく、そういう時代なんだと思います。
明確なゴールがないから、その都度最善の道を選択できる
神田:今回お話を聞いていると、イマドキの女性はキャリアアップや働き続けることに対して、あまり強い意志は持っていない印象ですよね。
一方、「ワタシゴトプロジェクト」のリサーチだと、20歳代女性社会人は育児・出産へのサポートや介護休暇など、福利厚生の手厚い企業で働きたいと考える人が圧倒的に多かったんです。
宇治原:つまり、結婚・出産後も同じ会社に復帰して長く働き続けるための企業選びの基準だと思うのですが、この結果は少し意外でした。
大野:私たちが苦しんでいる姿を見せて、恐怖心をあおったのでは(笑)。
五十嵐:まだそこまで身近な話じゃないはずなのに、どうしてでしょうね。やっぱり私たちのせいかも(笑)。でも、確かに「ボーナスの使い道は貯金」という若者が増えているんですよね。
宇治原:もしかすると、いろんな選択肢やライフスタイルがある中で、どこに転んでも大丈夫なように備えているのかもしれません。グループインタビューで、30歳代前半の女性なんですけど、誕生日に自分で海外の高級車を買った方がいたんです。
大野:ええっ。
宇治原:なぜ高級車を買ったのかというと、車好きが高じてレースに出るようになったのがきっかけみたいで。つまり、趣味を追求していくなかでの自己投資だったんですね。一方で、結婚を考えている彼氏もいらっしゃるんです。そのうえ、結婚しなかったときに備えて保険にも入っていて。
神田:婦人科検診やがん検診もしっかり受けているんですよね。趣味や結婚、仕事のどれかひとつだけではなく、いろんな道を楽しんでいる姿が印象的でした。
大野:すごいですね。いろんな選択肢を持っていて、どれか一つに極端に突っ走る感じじゃない。悪い意味じゃなくて、ゴールがないのかもしれない。ゴールを定めたら走らなきゃいけないじゃないですか。明確なゴールがないから、その都度最善の道を選択しているみたいな。
宇治原:しかも、その姿は決して苦しそうではなくて、なんだかとってもハッピーそうなんです。不安に備えているというよりは、自分らしい生き方を楽しんでいるような。
神田:そろそろまとめに入りたいのですが、「女性の活躍促進」という言葉にどんなイメージを抱きますか?
大野:パッと思いつくのは福利厚生ですよね。産休や育休を安心して取得して、復帰できる環境を整えること。
五十嵐:促進という言葉がしっくりこないですよね。応援してくれるということでしょうか。
神田:ともすれば、「女性も働きなさい!」という言葉にも捉えられてしまうのですが、私は男性と女性が共存する社会づくりのことだと思うんです。
五十嵐:男性も進んで育休を取ればいいのにって思います。『ウーマンインサイト』の編集長には3歳の子どもがいるんですけど、「お風呂に入れなきゃいけないから」って言って午後5時ぐらいに帰る日もあるんです。そうやって上の立場の人間が進んで行動すると、育休が取りやすい環境に変わっていきますよね。
宇治原:女性の社会復帰についてはどうですか? 雑誌で特集を組んだりしますか?
五十嵐:2010年ごろの『AneCan』では、転職特集をやっていました。当時は一回会社を辞めると社会復帰が大変という風潮だったと思います。
宇治原:今は変わりましたか?
五十嵐:辞めちゃダメだとはもう言わないですね。辞めて楽しい人生も選択肢としてあるので、辞めてからの自己実現のしかたをアドバイスしたり。復帰についても同じ会社に戻るのだけが復帰じゃなくて、さまざまな働き方も含めた意味での復帰だと思うんです。女性のライフスタイルは多様化しているし、働き方の選択肢も増えているので、細かいステージに対応したサポートや制度があるとうれしいですね。
大野:もちろん、復帰したいけどできなくて苦しんでいる人や、逆に会社を辞められない人もいると思うので。そういう方々に対するサポートも手厚くあってほしいと思います。
宇治原:働き方が多様化している背景にあるのが、ライフスタイルの価値観の多様化だと思うんです。今回お話を聞いていて感じたのは、一昔前に比べて仕事とライフスタイルが密接に関係しているということ。今は仕事とプライベートを切り分けて考えない傾向にありますよね。
神田:だからこそ、一人一人が自分のライフスタイルに合った仕事を考えることが大切ですよね。同時に、情報を発信するメディア側も、多様なライフスタイルの女性が輝ける社会作りに貢献できるよう、しっかりとソリューションを打ち出していきたいですね。本日はありがとうございました。