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DSquad座談会No.1

UXは事業戦略の要 欧米最新事情に学ぶ-DSquad座談会 (前編)

2015/11/26

電通、電通国際情報サービス(ISID)、btrax,Inc.(ビートラックス)、インフォバーンの4社は8月、企業のイノベーション創発を支援するタスクフォース「DSquad」(ディー・スクアッド)を立ち上げた。顧客企業の社内における創発体制の構築から国内外の市場動向調査、創発プラットフォームの設計やデザインの仕様検討、プロトタイピングの評価、さらにはパートナー企業とのマッチングまで、イノベーションの全過程にわたるサポートを行っていく。今回、米サンフランシスコに本拠を置くビートラックスのブランドン・ヒル氏の来日を機に、4社の担当者に、最近注目が高まっているサービスデザインやユーザーエクスペリエンス(UX)、そしてDSquadにかける思いについて語ってもらった。


DSquad
左から森直樹氏(電通)、ブランドン・ヒル氏(Btrax)、井登友一氏(インフォバーン)、林靖之氏(ISID)、野口洋平氏(電通・CDC、座談会には不参加)

 

IoTの時代、UXをグローバルレベルに

 

――DSquad設立の経緯を教えてください。

森:電通の我々のチームではデジタルデザインやユーザーインタフェース(UI)を通じたユーザーエクスペリエンス(UX)の向上などを中心に、企業の事業成長のお手伝いをしていますが、デジタルでのサービス領域や接点をどう設ければよいのか相談を受けることが急激に増えてきています。あらゆる製品やサービスとデジタルを融合するIoT(Internet of Things)が大きな潮流となる中で、メーカーやエアライン、金融など幅広い業種が、これからの持続的な成長のためにはユーザー体験を洗練させなければいけないと考え始めている。

日々対応する中で、僕は三つの課題を感じています。まずは、UIやデザインをグローバルな水準にまで引き上げたい、ということ。二つめはマーケティングテクノロジーがものすごい勢いで進化していて今やウェブデザインがそのまま広告配信やCRMにリンクしているため、UIを設計するためにはシステムインテグレーター(SIer)との連携が必要になっていること。そして最後は、単に表面的なデザインやデジタル体験だけではUXの構築はできないこと。これら三つの課題に取り組むためにベストと思われる知見や技術を持っている皆さんに声を掛けさせていただき、DSquadの設立に至りました。

――ビートラックス、ISID、インフォバーンの皆さんは声を掛けられていかがでしたか?

ブランドン:ビートラックスはサンフランシスコが本拠です。基本はデザイン会社ですが、UIやUX、あるいはモノづくりのメソッドにおける最新情報を、リサーチやワークショップなどを通じて日本企業に対して提供し、新規事業開発のお手伝いなどもしています。DSquadでも、シリコンバレーの先端的な知見との懸け橋になりたいと考えています。

林:ISIDはSIerですが、ここにもマーケティングテクノロジーの波が押し寄せています。アジャイル(俊敏の意。短期間での開発・リリースを反復するソフトウエア開発手法)というか、今までのように大規模かつ複雑なシステムを長時間かけて作って納品して終わり、ではなく、消費者は果たして動いたのかなど状況に対応しながらITソリューションを柔軟に拡張させ、セールスやロイヤルティー醸成にまで結び付けていかなくてはいけない、という思いを強くしていたところにDSquadに参画できた。UXやメディアの専門家と一緒に組ませていただくことで、我々SIerとしてもマインドセットが変わるような挑戦ができると楽しみにしています。

井登:インフォバーンはユニークでフラットな存在でありたいと強く思っていて、基本的なスタンスとしては極力クライアントと直接対話できる直接契約を心掛けてはいるのですが、弊社にはない専門性や知見を持っている企業とは積極的にコラボレーションを志向しています。今回はデザインを事業そのものとして大きく捉え、10年後の経営ビジョンを考えていくような面白い取り組みができそうだと思い、やらせていただくことにしました。ビートラックスは西海岸の、技術的にも発想としても最も進んでいるエリアがベースなので、ご一緒することでさらに知見が広がるのではとの期待もあります。今回DSquadでは、UXでイノベーションを起こすために今ユーザーから何が求められているのかを探りながら、調査と発見をベースにUXデザインに落とし込んでいく部分を主に担当させていただく予定です。

森:ビートラックスは西海岸ですが、インフォバーンは欧州にネットワークをお持ちですね。

井登:そうです、スウェーデンやオランダが拠点のデザイン会社と業務提携したりしています。UXやサービスデザインの領域では欧州が進んでいるので、特に欧州のデザインイノベーションファームやサービスデザインカンパニーとの連携を強化しています。

森:DSquadは電通としてもかなりチャレンジングな領域です。でも世の中のトレンドは確実にこの方向に向かっている。クライアント企業にソリューションを提供するためには、どうにか先回りしなくてはという思いがあります。イノベーティブなことをやりたいのに従来のルールにしばられ動き切れない企業に対して、うまくソリューションとの接点をみつけて提供していきたいと考えています。

DSquad

 

欧米ではすでに公共サービスや企業戦略のコアとなっている

 

――ビートラックスは西海岸で日本の大企業の仕事をたくさん手掛けられていますが、自社のコアコンピタンスをデジタル領域とつなげることについて、日米の差をどのように感じていますか。

ブランドン:やはり米国の方が、UIやUXの重要性を理解している企業が圧倒的に多い。テクノロジーが核となるスタートアップはもちろんのこと、大企業でもトップや幹部がUXを経営の根幹に結び付くものとして位置付けています。関心がある、というレベルではなく、それなりの意識がないと解任されかねない。仕事の後に受講できるセミナーやワークショップなども色々あって、みな積極的に参加しています。

そこへいくと日本では、若手では一部UXの重要性を分かっている人もいますが、一定の役職以上になると、ピンと来ない方が多いと感じる。将来のグローバルな競争力のためにはそこを変えていく必要があると思います。

井登:欧州ではすでに公共サービスやヘルスケア、ファイナンシャルなど広範囲な領域で、UXデザインやサービスデザインで組織の価値を醸成する取り組みが盛んです。
UX戦略は企業の最もコアの部分である、と認識しているので、外部の優秀なデザインファームを買収したり、専門家を集めて独立したデザインチームを立ち上げている。そこが、日本と一番違う点ですね。さらに、経営コンサルティング会社、イノベーションファームなどもデザインファームをバンバン買っています。デザインカンファレンスなどに出席すると、大抵どこかでその話題が出る。

ブランドン:インハウスがない場合は、外部のデザインファームをうまく活用している。例えば、森さんと一緒に視察に行ったAirbnbで、UXとなるアプリを丸ごと外注していたのにはちょっと衝撃を受けました。

特にスピードを重視するスタートアップでは、外部デザインファームとパートナーとして協業するスタイルは定着していますね。IoTの流れで、ソフトウエアだけでなくハードウエアを扱うところが増えていますが、ハードウエアのデザインに加えてソフトとハードの接点となるUXのデザインまで丸ごと外部に発注しているところも多い。時代のスピードに追い付くために、思い切ってそうしているんだと思います。

DSquad

森:日本企業は、どうしても内製化にこだわる傾向がありますよね。われわれ電通も、コミュニケーションの部分は依頼されるけど、大元の商品やサービスの開発についてはクライアントが自社内で完了させている。デザインを外注するにしても仕様を固めてから表面的な部分だけを発注するなど、基本的に自分たちでコントロールする部分が多いようです。

ブランドン:それは欧米から見たら、むしろ特殊なんです。例えばイタリアの車業界には、フェラーリをデザインしたピニンファリーナのようなカロッツェリア(車体をデザイン・製造する業者)がある。UIでも日本ではエンジニアやグラフィックデザイナーが担当したりするけど、欧米ではデザイン会社にゴールだけ伝えて、そこに到達する最善の作戦を考えてもらいます。

自分たちより優秀だからお願いするわけであって、自分ができること以上のことができないならお金を払う必要はないというのが前提になっている。なので、お願いした以上は最終的なKPI的な目標は示すけど、下手に干渉しない。

森:欧米では、UXを世界でも名の知れたクリエーティブブティックが担当したりしていますよね。サービスを提供する場=ブランド体験の場で、顧客をつかむプラットフォームとして価値を高める意識があります。でもこちらでは、電通が手掛けるものでも瞬発的なクリエーティビティーの発揮が求められるテンポラリーなキャンペーンサイトではそれなりのスタッフがそろいますが、例えば銀行のサービス画面を作るときにカンヌで賞を取るようなスタークリエーターはいない。

井登:「デザイン」の定義の問題なんだと思います。デザインを表面の色や形状などの目に見える「意匠」として捉えて、製品開発とは分断されてしまっている。デザインはマーケティングの一部にすぎないし、そこに経営という観点はあまり入らないんですね。日本の多くの企業では、デザインやデジタルの担当部署は、経営部門やITでもインフラを担う部門に比べて、やはり力が弱いように思います。

でも、ビジネスとデザインを分けて定義してしまうと、新しい発想も生まれないし、今の時代のスピード感の中で行けたかもしれないところまで到達できない。ウェブで考えると分かりやすいですが、90年代中盤ではウェブはIT関連の部署が担当していた。それがだんだんマーケティングの一チャネルになり、最近はビジネス全体のコアになりつつある。

最近、チャネルとコンタクトポイントが増えたことでウェブだけではできないことが増えて、全体的なUXの重要性が高まっています。日本ではまだまだITやマーケティングを管轄する部署がUXを個別に担当することが多いけど、いずれウェブと同じような進化をたどるのではないでしょうか。

ブランドン:そういえば、日本の大企業の上層部と名刺交換して、「デザイナー」と書いている方に会ったことないですもんね。

森:確かに。欧米ではデザイナーとかクリエーティブディレクターが、それなりのポジションにいますね。

ブランドン:デザインは問題解決の手段というのが、デザインの正しい解釈だと思っています。つまり、経営の問題を解決する、ということ。デザイナー自身がそれを認識していることが大切です。ちなみに、ピニンファリーナの創業者、バッティスタ・ピニンファリーナ氏は「良いデザインをする理由は二つある。一つは、人から愛されて、長い間使われる。もう一つは、売れる」というようなことを言っています。

井登:IBMを育て上げたトーマス・J・ワトソン氏も、グッドデザイン・グッドビジネスと言っている。昔から、いいデザインはイコール、いいビジネスなんです。

森:ここでいうデザインとは表面的なものだけでなく、目に見えるデザインと、いわゆる体験を提供するシステムとしてのプラットフォームとの組み合わせを指している。ここを理解することが大事です。

ビジネス、デザイン、ITのトライアングルは、これからますます重要になってきます。日本企業は基礎技術は強いけど、そこにユーザー体験をつなげる投資をするなどの横の連携が十分でなかったりする。部署もバラバラです。でも先ほどから何度も話が出ているように、デザインはすなわち、経営です。今後企業の競争力に大きく影響してくることは確実。DSquadとしてはぜひ、この部分の啓発や変革のお手伝いをしてければ、と願っています。

DSquad

後編に続く)