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「コンピューターグラフィック・アニメーションに命を吹き込む」
四角英孝

2015/11/19

国際的に活躍するコンピューターグラフィック クリエーターの四角英孝氏に、キャラクター監修を務めたアニメーション映画「リトルプリンス 星の王子さまと私」の魅力や、小さいころに憧れたアニメーション映画の世界で夢を実現するまでのチャレンジなどについて伺った。


繊細な表情や自然な動きでCGに体温を宿す

僕がキャラクター監修を務めたアニメーション映画「リトルプリンス 星の王子さまと私」(配給=ワーナー・ブラザース)が11月から日本で公開されます。9歳の女の子と年老いた飛行士を主人公に、あの世界的な名作「星の王子さま」のその後を描くもので、監督は「カンフー・パンダ」(2008年)でアニメーション映画の世界を席巻したマーク・オズボーン監督。キャラクター監修といっても、キャラクターを動かすためのシステムをゼロから開発するのが仕事です。全身の動作から顔のニュアンスまで、監督とアートディレクターのイメージを具現化し、思った通りにコンピューターグラフィック(CG)のキャラクターが動くようにアートとテクノロジーの橋渡しをしていきます。例えば、ピノキオは、ゼペットが命を吹き込むことによって初めて動きますよね。そのゼペットのような役割です。

この映画は僕にとって、とても大きなチャレンジでした。課題の一つは、CGのキャラクターの魅力で観客を引き込み、感情を共有していく映画だということ。ミュージカルでもない、ギャグや派手なアクションがあるわけでもない。CGのキャラクターが、本当に演技ができないと映画として成立しません。それはすごく難しいことなんです。なぜって、CGのキャラクターというのは、クリーンで、作り込んだ人間の手が見えない。ちょっと無機質ですよね。でも、人間の心をつかむような温かみのあるキャラクターにしなければならない。

今回は自然な表情をつくるために、特にキャラクターの目に注力しました。せりふがなくても、瞳孔の開き具合やまばたきなどの微妙な表現で感情が伝わるように。また、顔の左右のバランスは実際の人間のように、対称ではなくほんの少し変えるといった繊細な作り込みを重ねることで、体温を感じさせる魅力的なキャラクターが出来上がっていったのです。

もう一つの課題は、この映画の特徴となっている二つの技法の融合です。“星の王子さまの世界”は、人形を一こまずつ動かして撮影するストップモーション・アニメーション、女の子が登場する“現実世界”はCGで表現するという、無謀とも思えるオズボーン監督の挑戦。技法が切り替わるときには、当然ながら違和感が生じます。それを解消するために、色調を整えたり、女の子が読む本のページを切り替え時の媒介にするなどのさまざまな工夫を施しました。少しでも違和感があれば作り直して確認し、まだ不完全であればまた戻って、という徹底的な繰り返し作業によって二つの世界を融合させていきました。

「リトルプリンス 星の王子さまと私」 2015年11月21日全国ロードショー
©2015 LPPTV - LITTLE PRINCESS - ON ENT - ORANGE STUDIO - M6 FILMS - LUCKY RED

http://wwws.warnerbros.co.jp/littleprince/

新たなチャレンジを求め続け自分の道を進む

振り返れば、これまで大きなチャレンジが転機となり、現在の僕があります。ハードウエアを学んでいた神戸大3年のとき、阪神・淡路大震災を経験。被災地でのボランティア活動で知り合った無職の中年男性と親しくなり、人生や将来のことを相談したところ、「今の若いうちに好きなことを見つけて、それをやり続けなさい」と。その言葉は僕の心に突き刺さりました。

そのころ、CGアニメーション映画「トイ・ストーリー」を見てその可能性に引かれ、CGを勉強すれば憧れていたアニメーション映画に携われると感じていたものの、現実的な進路について悩んでいたのです。彼の言葉に背中を押され、すでに数社に送っていたアプリケーションを全て取り下げてもらい就職活動をやめ、大学院でCGを学んでその世界で生きることを決心したのです。

卒業後は、映像美で絶大な人気のあったゲームソフト「ファイナルファンタジー」を開発したスクウェア・エニックスに就職。ゲームに挿入されるオープニングムービーなどのハイエンドな映像制作はやるほどに面白く、もっと長い映画レベルのものを手掛けたいという強い思いがどんどん膨らんでいきました。でも当時、日本ではCG映画はほとんど作られていなかったので、これはもう海外に行くしかない。何の仕事の当てもなく単身渡米。30歳のチャレンジでした。

いくつかの仕事を経てディズニーに入社。そこでの最大のチャレンジとなったのは、「塔の上のラプンツェル」で22メートルと設定されている主人公ラプンツェルの髪の毛を自然に動かすという映像表現。果たして自分にできるのかと不安でした。というのは、当時CGアニメーションでは髪の毛は後付けのものと考えられていて、キャラクターの演技と髪の毛の動きは全く別物だった。ところがこの作品では髪の毛自体がストーリーの重要な一部。僕は、ラプンツェル本人と髪の毛が自然に連動できるようなソフトウエアを構築することで解決しました。そして、次に何にチャレンジすべきかと模索し始めたころ、オズボーン監督と出会ったのです。

感動のルーツは日本アニメ。いつかは一緒に作品を

僕が幼いころアニメーションを大好きになったのは、「未来少年コナン」がきっかけです。後に宮崎駿氏が作画監督と分かったのですが。その宮崎監督の「風の谷のナウシカ」を初めて見たとき、大きな衝撃を受けたのを覚えています。ファンタジーと現実が交錯する壮大な世界観、自然や街並みの美しい描写、キャラクターの人間らしい自然な動きなど圧倒的な質の高さにすっかり魅了され、全作品を見るようになりました。国内外でほとんどのアニメーションクリエーターは宮崎監督を敬愛していますが、僕も口や目の繊細な動きで感情を表現する技法など大きな影響を受けていると感じます。

日本では、宮崎監督を筆頭に手作り感や作り込んだ2Dのアニメーションが主流ですが、完成の域に達していて世界的に高い評価を受けています。日本には宮崎監督の流れをくんだ才能ある作り手が数多くいる。そうした日本のアニメーションと海外で主流のCGを融合できるような作品に、いつか日本でチャレンジしたいと思っています。