民放5局社長に聞く BS16年目の展望
第4回〜BSジャパン・小孫茂社長~
2015/12/03
2000年12月1日に始まったBSデジタル放送が16年目を迎えました。メディアの特性を生かした番組で着実にファンを拡大し、成長 を続けてきたBS民放5局。15周年の節目を機に、各社トップにコンテンツの魅力や強み、今後の取り組みについてインタビュー、さらにBSの将来を表す漢字一文字と、込めた思いを語っていただきました。
小回りの利くBSの持ち味をもっと発揮すべき
──小孫社長はBSジャパンを率いられる一方で、テレビ東京ホールディングス、テレビ東京、そして日本経済新聞社の経営にも携わられています。まずは、現在のBSの強みをどうご覧になっているか、お聞かせください。
BS開局当時、私は日経新聞にいましたが、地上波に比べてBSは非常に小回りが利くメディアだと捉えていました。すでに収益モデルを確立していた地上波があまりに巨大な存在だったため、初期は大苦戦を強いられましたが、この5年ほどでBSは猛烈な勢いで成長しています。
この過程では仕方ない部分もありますが、急激な発展の中で、地上波のビジネスモデルがBSにもなだれ込んで、同じような制約を受ける場面も出てきています。今一番BSが意識すべきは、編集や撮影方法、営業的な部分でも、その制約を振り切って、地上波では難しい“実験”をしていくことだと思います。
BSの世帯普及率は、現在70.8%(2015年10月)。これは立派な数字だと思います。ただしここで満足せずに、各社でBS全体の魅力を高めることを意識して、さらに75%、80%と伸ばしていく努力をしていきたいところです。現在のメーンターゲットを大切にしつつ、裾野を広げて若い世代にもアピールすることも急務です。
──では、BSジャパンの強みや魅力を、どうお考えでしょうか?
大きくは、三つあります。一つは、先ほど申し上げた“実験”的な番組も含めて、オリジナル番組を多く打ち出していること。それも既存の視聴者向けというよりは、ニューカマーとして迎えたい視聴者をきちんと分析し、その人たちの心をつかむ番組を制作しています。例えばこの10月に開始した開局15周年特別企画「山本周五郎 人情時代劇」は、女性の視聴者の獲得も目指したところ、予想以上に反響がありました。こちらが努力すれば、必ず視聴者は応えてくださると実感しました。
二つ目は、テレビ東京ホールディングスとして、日経新聞とのつながりが強いこと。報道番組、しかも経済中心だと堅苦しいという印象が強く、映像化も難しいのですが、例えば平日朝の「日経モーニングプラス」は期待以上の伸びを見せ、平日夜の「日経プラス10」もビジネスパーソンにかなり広がっている印象です。報道系では、年明けから春にかけて、少しずつ海外情報を強化していきます。
三つ目は、テレビ東京との連携です。テレ東は他局に比べてまだ行き渡らない地域もあるため、その地域の方々へはBSジャパンが補完します。この編成の妙を、どう発揮していくか。特に来年は両社が新社屋へ移転し、ますます連携しやすくなります。双方の魅力を高める、いい転機になると思います。
「知る」ということは、メディアの原点
──日経との連携、テレビ東京との連携は、大きな特色ですね。
ええ、これはBSジャパンの2本柱です。もちろん、すでに連携はかなり進んでいます。もはや、紙のコンテンツがうんぬんという時代は過ぎました。日経新聞の電子版で流す動画を多くの方がスマートフォンで視聴し、同時にスマートフォンはテレビを視聴する媒体にもなりつつあります。その流れの中で、日経との連携を増やすのは当然ですし、編成だけでなく営業の面でのコラボレーションも有効だと考えています。
連携の一方で、地上波が苦戦したハードルを越えることも、BSが担う役割です。例えば、経済系と同様に極めて重要なコンテンツであるスポーツは、試合の延長や天候の影響など、編成泣かせです。ここにBSがどう挑戦できるか探っていきます。
──先ほど、海外情報を強化するとのお話がありました。16年目の展望をお聞かせください。
日本はもっと、本当の意味で国際化する必要があります。グローバル化といわれますが、それが単に日系企業の海外進出や、海外のスポーツチームに日本人選手が加わることを指すとは私は思いません。グローバル化とは、日本の中がインターナショナルになること。各国と混ざり合った前提で、日本に何ができるのか、そういう視点を示せるような情報提供にこだわっていきたいと思います。
それから、放送業界は昔も今も技術の発展と密接です。技術革新は、遅らせようと思っても止められません。そして日本人は、新しい技術に対して非常に慣れが速い。放送と通信の今後を頭で冷静に見据え、迅速に変化に食らいつける体にすることが、われわれだけでなく業界各社に求められていると思います。
──BSの未来を、漢字一文字で表していただけますか。
知る、の「知」。知るということは、メディアの原点です。こちらが情報を一方的に押し付けるのではなく、判断材料としてできるだけ多くの発見を提示する。それが、メディアの基本的な姿勢だと思います。
私の原点も、「知る」にあるように思いますね。子どものころから好奇心の塊で、何でも知りたかった。こう話すと、だから報道系に注力するのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。旅番組で、ナビゲーターとともに「えっ、これ無人駅なの!?」と驚く、そんなことも「知る」楽しみです。
視聴者が知らないことを提供するのがわれわれの役割だとすると、似たような番組が乱立する現状は、みずから次の展開を殺してしまっているようにも感じられます。経営というより、一視聴者として、これは非常にもったいない。BS全体の底上げのためにも、各社がBSならではの持ち味を発揮していければと思います。
開局15周年「BS見本市15祭」
BS民放5局は開局15周年を記念し、12月1日から「BS見本市15祭」を実施する(2016年1月31日まで)。期間中は、紀行、ドキュメンタリー、映画など、5局厳選のアーカイブ作品60番組以上を計130時間にわたって放送。さらに年末年始(12月28日~1月3日)は、5局共同特別番組「バック・トゥ・ザ・21世紀」を各局日替わり2時間で届ける。俳優の吉田鋼太郎氏が「吉田未来研究所 所長」に扮し、21世紀の五つのテーマ「怪物」「仕事」「東京」「女性」「時間」の研究成果を発表していく。