Experience Driven ShowcaseNo.40
ミラノ万博の成功を、未来につなげて!(前編)
2015/12/02
5月1日から10月31日まで、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開催されました。
電通が総合プロデュースした日本館は「展示デザイン部門」の金賞を受賞。2150万人が訪れて大成功のうちに幕を閉じたこの博覧会を振り返って、日本政府代表の加藤辰也氏、日本館で6カ月運営に当たった安藤勇生氏、電通の展示プロデューサー内藤純氏、チーフ・ディレクター矢野高行氏が語り合いました。
取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
「詩情」と「科学技術」を融合させた日本館
矢野:ミラノ万博184日間の日本館での業務、大変お疲れさまでした。日本館の総来場者数228万人ということで、万博に訪れた2150万人の約1割が来場されました。大変な人気館になりましたが、率直に終わったご感想をお聞かせいただければと思います。
加藤:関係者の皆さんに対して、まずお礼を申し上げたいと思います。228万人を達成できたのがありがたく、また夏のさなかはかなり厳しい環境の中で長い時間並んでいただいたので、お客さまにも本当に感謝しています。
矢野:行列嫌いのイタリア人、と聞いていましたが、報道によりますと4時間並んだ方に、終わった後どうでしたかとインタビューをしたら、「今から並んでも、もう1回見たいよ」と言ったらしいですよ。地元有力紙のアンケートでも「展示を見たあと、訪れたい国のナンバーワン」とも報道されましたね。
加藤:アンケート結果を見てみましょうか。「どのシーンがよかったですか」は、複数回答可ですが「HARMONY」が一番多くて、約6割の方々が「よかった」「魔法のようだった」とコメントしています。
さらに、今回「食」がテーマの万博ということで、持続可能で安全な食をずっと地球規模で提供していけるのかという、世界的にも非常に重いテーマがあったわけです。日本館の展示は客観的に見てもすごくバラエティーに富んでいて、なおかつエンターテインメントなだけではなくて、テーマ性を捉えたいろいろな展示・演出手法も使った。そこが日本の食文化が奥の深いもの、多様性に富んだものであることを感じてもらえた理由かなと思っています。
安藤:最初の「HARMONY」は人気があったわけですが、それに次いで最後のシアターも非常に人気があった。他のパビリオンは基本的に食だけを捉えていたわけですけれど、日本館のシアターは「食は(世界との)関係性である」というメッセージを伝えているところが素晴らしい、というコメントがお客さまからありました。
内藤:イタリアのコリエーレ・デラ・セラという新聞の記事でうれしかったのは、「詩情と科学技術のバランスが絶妙だ」というコメントがあって。それは狙っていたことでもあったのですが、本当にできるかなという不安もありました。今回は訴求したいコンテンツがとても多かったので、多いコンテンツをどう見せ切るか、知識だけで見せても面白くないし、日本の科学技術をそのままドーンと出すのでもダメ。何か詩情、叙情、アーティスティックに見せたいという思いがかねてからありました。「HARMONY」はその最たるものだと思うので、あれをイタリア人が評価してくれたのはすごくうれしかったです。
最後のシアターのシーンは、日本館を出るときにみんなの心が一つになって、日本館をあとにしてくれたらいいなという思いが当初からありました。真ん中に料理が置かれていて、それを囲むように家族がいてコミュニケーションをとって、そのコミュニケーションの輪が地球全体にまで広がればいいなというコンセプトでつくったのです。
日本館は、9時間待ちもあった大人気
安藤:私は運営と展示の担当として6カ月間日本館の中にいましたが、4時間待ちというのは短いほうで、9時間待ちになったときもありました。それだけ待ったお客さまが、「HARMONY」に入った瞬間に笑顔を取り戻して「うわあ、きれい!」と言ってくださる。今回は電通の本当にしっかりした展示コンセプトがあり、最新の展示技術も用いていただき、かつ調整に次ぐ調整の上で展示コンテンツの充実が図られ、展示施工会社の努力や頑張りもあって丁寧なつくり込みができましたね。
私の毎日の楽しみが、ホワイエに行ってお客さまがシアターに入る前を見ていることでした。5~6月は、アテンダントもただお客さまを案内しているだけだったのが、9~10月には、アテンダント自身が、箸の使い方から始まり、食を通してのさまざまな関係性を説明する光景が増していきました。そういう成長も総合的に素晴らしかったですね。イタリアはラテンの国で、人と関わりたい人たちですよね。長い間待っても、正確な情報をもらってちょっと安心をするとか、そこもすごく大事だったんじゃないかと思っています。
矢野:待ち時間の列については、日本館の外の運営をする方の苦労も相当あったでしょうね。
安藤:博覧会自体の開場時間は10時だったんですが、ゲートの前に人がたくさん並び過ぎて、アーリーオープンが9時半になり、9時になりと早まっていきました。開催後の当初から日本館が人気であることは皆さん知っていて、日本館にとにかく急ごうという人たちがいまして、ある日カウンターで数えたら、オープンして皆さんが走ってきて、10分の間に800人が並んだんですよ。
ほかのパビリオンはどうかというと、だいたい150~200人ぐらいです。とにかく日本館には一番最初に行かなきゃいけないという口コミがあって。終了のラインカットも3時台とか4時台になったときもありました。でも、イタリアの方は丁寧に事情をお話しすると「分かりました。じゃ、あした早く来ます」と分かってくれてありがたかったです。
35自治体20団体3官公庁が、日本の地域コンテンツをアピール!
矢野:イベント広場では、35自治体20団体3官公庁が、日々いろいろな地域コンテンツを提供していました。レストランではフードコートと本格日本食の「美濃吉」など実際に食べられる楽しみもありました。展示以外の日本館の楽しみの部分で、すしや天ぷらだけが日本食じゃないということを知っていただけたのも、イタリア人にとっても発見だったでしょうね。
安藤:レストランのアンケートでは、90%以上が「よかった」という結果が出ています。ポジティブなコメントとしては、「エキスポ内のほかのレストランの中で一番好きだ」とか、「すしは、見た目も味もよくて感動した」とか。
フードコートは、レジ数という形でカウントしました。レジを通った人数の延べ数です。当初は1000レジぐらいだったのですが、夏を過ぎて後半には2000レジと倍になった。お客さまからは、日本的オーダーシステムが非常に効率的で良いという意見もあった。ほかのレストランへ行くと、座ってメニューが来て注文して、出てくるまで30分ぐらいかかるので。リピーターも多くて、美濃吉は結構高い割烹なのに、リピーター率が4割もありました。
加藤:イベント広場は、自治体だけでも35の自治体、27組が参加しているのです。日本館のテーマにもなっている「多様性」にも関わってくるんですが、「日本=東京と京都」「日本食=すしと天ぷら」みたいなイメージが一般にある中で、日本各地にそれぞれ根づいた文化なり食、いろいろな伝統文化や伝統産品、そういったものを総合的に紹介してもらいたかった。実演をしたり、実際に物を並べていることのリアルな迫力というか。試食や試飲もやりましたし、展示とは別の楽しさを提供できたと思います。オールジャパンの取り組みになりました。イベント広場も後半は、広場だけでも1日に2000~3000人くらい来て、非常に好評でした。
内藤:そう、展示を出てからフードコートがあって、さらにイベント広場があるところが、すごくにぎやかで楽しそうでよかったですよね。普通はパビリオンを出るとサーッといなくなっちゃったりするのが常なんですが、非常にいい感じににぎわっていて。イベントは演じる人と見る人と、両方いるからこそ楽しいんですよね。
安藤:おっしゃるとおりです。
加藤:自治体もすごく力が入っていて、ヨーロッパですから距離もコストもかかるのですが、知事さんだけでも今回21人来られている。地方創生やグローバル化にフィットしたテーマの博覧会だったからですね。
矢野:日本のある地区の名前を少しでも覚えていただいて、日本へのインバウンドにつながればいいですね。例えば山口県にフグを食べに行くとか、逆に特産品をヨーロッパに輸出するとか。
加藤:日本の農産品・食品の輸出は、アジアの主要国4カ国・地域ぐらいと北米を入れて、全体の8割ぐらいを占めています。ヨーロッパは成熟市場ではありますが、潜在需要も購買力もあるので、モノの輸出だけではなくてサービス産業全体で見て可能性はあります。今回の日本館のレストランも、アジアには展開をしているところがあるのですが、ヨーロッパまではまだ出て行っていない。ある意味ミラノ万博がテストマーケティングになりました。