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Experience Driven ShowcaseNo.41

ミラノ万博の成功を、未来につなげて!(後編)

2015/12/04

5月1日から10月31日まで、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開催されました。
電通が総合プロデュースした日本館は「展示デザイン部門」の金賞を受賞。2150万人が訪れて大成功のうちに幕を閉じたこの博覧会を振り返って、日本政府代表の加藤辰也氏、日本館で6カ月運営に当たった安藤勇生氏、電通の展示プロデューサー内藤純氏、チーフ・ディレクター矢野高行氏が語り合いました。

取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左から)矢野氏、内藤氏、加藤氏、安藤氏
 

日本館は「展示デザイン部門」の金賞を受賞!

矢野:日本館は博覧会国際事務局(BIE)が主催するパビリオンプライズ(*)で「展示デザイン部門」の金賞をいただきました! 万博は、オリンピックの金メダル・銀メダル・銅メダルのもとになったと言われている金賞・銀賞・銅賞という褒賞制度があって、オリンピックでいえば「金メダルをもらって世界一」。BIEからはどんな点が評価されたのですか。

加藤:授賞式のコメントでは、自然と技術の「調和」が評価ポイントとして挙げられました。いろいろな分野の専門家の方々が審査員を務めていて、これからの万博の発展や未来の出展への励みになるようにという意味での賞になっていますから、関係者皆さんへの表彰ということです。そこが本当に素直にうれしいです。

10/26付 イタリア紙のコリエレ・デラ・セラ「詩情と科学技術のバランスが絶妙だ」

 

内藤:当初から、とにかくみんなで金賞を取ろうよ、オールジャパンでやろうよと、この間のロンドンワールドカップの全日本ラグビーのようにエールをあげていたので、非常にうれしいです。専門家の方々に評価されるというと、今まではワンテーマで、展示もそぎ落として引き算で見せるというのが常とうなので、今回はテーマやコンテンツがたくさんあり、なかなか難しいかなと思っていました。でも今思うと、逆にそれがよかったのかなと思う。

たとえば、シアターは最新のシステムテクノロジーを駆使していて、それぞれのテーブルの映像も高精細ですし、壁面の大画面でもいろいろなものを見せていますし、役者もいろんなパフォーマンスをしている。当初はどこを見ていいか分からないという話もあり、盛り込み過ぎかと心配でした。そういった意味で非常にチャレンジングだった。でも意外と観客は、全てを理解しなくてもどこをつかめばいいか大体感覚分かるもので、きれいなものはきれいなもので認識するし、役者のあおりの演出にも楽しそうに反応してくれました。アテンダントの伝え方の工夫もすばらしく、観客みんなが一体となったシアターで、チャレンジのしがいが大きかったと思います。

安藤:シアターについてはアンケートのコメントとして、「インタラクティブ」「立案者がすばらしい」というコメントがありました。会期の後半は、リピーターの方なのか、ビデオを回している人が多くなってきましたよ。

矢野:リピーターの方が何回も来たくなるというのは、自分がちょっと見過ごしたものがあるんじゃないかというような感覚があるんでしょうね。「INNOVATION」の展示も、映像と地球儀の両方を見せるわけで、コンテンツが充実していたからこそリピーターも増えたということも言えるような気がします。

加藤:「LEGACY」の展示も、結構評価が高かったね。

矢野:日本でも「レガシー」の報道が多かったですね。

加藤:「LEGACY」は、いわゆる旧来的な展示手法が中心じゃないですか。そこをすごく熱心に見ている人が多くて驚きました。アンケートでもいい反応ですね。

内藤:食玩などには、日本人の器用さといった魅力が、絶対あるじゃないですか。おすしもかわいいし、おにぎりもかわいいし、もちろんお菓子もかわいい。小さい模型を使って、かわいく見せるのは絶対やりたいなと思っていたんですが、いざつくってみたら数の多さに大変だった(笑)。

加藤:でも、コスト対効果が、おそらく一番いいかもしれないね。引き出しも、皆さんちゃんとあけてじっくり見てくれていましたね。

安藤:アテンドする外国のお客さまが、やっぱり日本人は緻密だと、とても評価をしてくださっていました。

矢野:コリドーの押し花も、大変よく見つめて全部一個一個写真を撮っていく方も多くて。あそこでは香り演出もありましたが、押し花のにおいをずっと嗅いでいる方もいたりで(笑)。それぞれ、お客さまごとの楽しみ方をされているなと思いました。

安藤:終わった後、押し花を欲しいという人もいましたね。

矢野:プロローグの日本的な墨絵や漢字は、外国人の方にどういうふうに映ったんでしょうか。

安藤:8枚の側面の、雨の一生を表した絵、あそこは非常にきれいだと外国のお客さまはおっしゃっていました。映像に引き込まれて、豊かな日本の食文化の旅がここから始まりますという役割ですが、説明する必要はなく、それぞれ見る方ご自身の感性に任せたほうがいいと思いました。

加藤:そういう委ね方が、逆に次の展開にプラスになっているというところもある。クリエーターの感性を信じてやってよかったんじゃないでしょうか。

内藤:日本の書のような、絵画的なものがボンと出てきて、観客自ら何か感じ取ってもらえればそれでいいと思っています。

 

万博は「日本のナショナルブランド」体現の場

矢野:ミラノまで行けなかった日本の方に向けて、また今後の国際博覧会への取り組みなど、お聞かせください。

加藤:私の実感では、自治体、スポンサー企業、様々な関係者団体も含めて、ヨーロッパでやった万博であれだけ多くの方々が日本から来られたものって他に記憶がないです。万博のようなリアルな展示がまだ人を引きつける力を持っていると僕は思いたいし、これからもまだまだ世界各地で万博が開催されますから、ぜひ多くの方に見に行ってほしいなと思います。

矢野:デジタル化が進めば進むほど、逆にリアルの体験が大事になるということですね。

加藤:「HARMONY」やシアターなんてその最たるものじゃないですか。YouTubeで見ても「きれいだな」という感じは何となく分かるけれど、万博の空間に行って感じる雰囲気というのは、その場にいないとなかなか体験できないと思います。万博を通して2000万人を超える人に日本を見てもらうというのは、国家の取り組みとして、とても価値があると思います。

内藤:イタリア人は美食家でそれなりの食の知識もあるし、特にミラノに住んでいる人たちは芸術や文化にたけているという常識からいうと、何でミラノっ子が万博に2000万人も行き、なおかつ日本館があんなに人気があったかということに対して、日本ではまだ、多くの人が驚異だったり、不思議に感じていると思うのです。

安藤:そうですね。博覧会というものが改めて脚光を浴びた、一つのエポックメーキングな万博だったんじゃないかな。次の万博でも、日本の発信する力を世界のお客さまに直接感じてもらえるような、すばらしい日本館展示にしていきたいですね。

加藤:あらゆる意味で、日本のナショナルブランド力を体現しているような場が、万博だとあらためて感じました。日本って面白い、関心を引かれる、ちょっと行ってみたい、まさにインバウンドに関わってくるようなところですが、日本の価値を上げることに多少なりとも貢献できたんじゃないかなと思うし、万博でのアピールはそうあるべきですよね。

また今回、日本のみならず、万博におけるアジア諸国のプレゼンスがすごく上がっている感じがしました。もともと万博はヨーロッパの文化ですよね。でも、日本だけではなく韓国、中国、タイなどが結構頑張って、アジアに対する関心をさらにかき立てることができました。万博は国費で行っていることもあり、政策的な目的が当然あるわけですから、現在日本が抱えている課題に的確に応えていくような取り組みやキーワードを明確に示して、ナショナルブランドとしての発信をしていくことに貢献しなければなりません。今回は十分に、その手ごたえがありました。

矢野:今後も全世界に向けてジャパンブランドを発信していきたいと思います。話はつきないですが、本当にお疲れさまでした。皆さまとの今日の振り返りで、やっと全てが無事に終わった喜びを感じています。

 

*パビリオンプライズ
博覧会国際事務局(BIE)が主催する褒賞制度。ミラノ万博では出展面積の大きさに応じ3 つのカテゴリー(2000平方メートル超の自己建築型パビリオン、2000平方メートル以下の自己建築型パビリオン、クラスター)に分けられ、各カテゴリーに「展示デザイン」「テーマ」「建築・景観」の3 部門が設けられ、優れた外国パビリオンに対し金・銀・銅賞が授与された。日本館は2000平方メートル超の自己建築型パビリオンの展示デザイン部門で金賞を受賞した。